15話 厳ついアイザックと自己紹介

 門のところに行くと、何やら大きな声がしてくる。


「山賊めっ! ここにはもうお前達の住処はないぞ!」


「そうだっ! ここはもう、アルス様が統治なさってるのだ!」


「だから、俺は山賊じゃねえって言ってんだろ! 良いから兄貴を出しやがれ!」


「お前みたいな危険な顔をしてる奴に会わせるわけにはいかん!」


「皆の者! アルス様に頼ってばかりではいかん! 我々で抑えるぞ!」


「だからァァァ! 話を聞けっての!」


 そのダミ声というか、いかつい声で誰なのかすぐにわかる。

 そして、相変わらず見た目て勘違いされているらしい。

 俺は声を出しつつ、急いで駆け寄る。


「待て待て! そいつは俺の知り合いだから通して良い!」


「兄貴っ! 兄貴じゃないっすか! やっぱり、ここにいたんすね! それに姉御もお久しぶりっす」


「どもとも、アイザックさん。そっちも相変わらずですねー」


「兄貴いうなっ! 大体、アイザックの方が十歳年上だろうに」


「へへっ、そこは言わねえでくださいよ」


 その顔は笑っているはずだが、凶悪な顔そのものだった。

 身長190、体重120キロ、髪は短く刈り上げ、ラグビー選手のようなガタイに厳つい顔。

 山賊と間違われるのも無理はない……だが、根は優しいし義理堅い良い男である。

 ひとまず俺は住民を説得し、その場を解散させる。


「んで、何しにきた? ついに犯罪でもして追放されたか?」


「ちょっ!? 酷いっすよ!」


「悪い悪い、冗談だ。しかし、本当に何しにきた?」


「そんなの決まってるじゃないっすか! 兄貴の力になりにきましたぜ!」


「はぁ……そうだとは思っていたが。しかし、お前はレジスタンスのボスにして、スラム街の主だろ? 国がこれからって時に、こんなところにいて良いのか?」


 この男はメインシナリオに関わらない男で、以前俺が助けた過去がある。

 スラム街の孤児院出身で、腐った貴族達が国からの援助金を懐に入れてることに気づき動こうとした。

 そのことで捕まりそうなっていたが、俺がたまたま腐れ貴族を排除したので助かった。

 無事に孤児院にお金も入り、それ以降俺に感謝しているのか色々と動いてくれた。

 基本的には熱く義理堅い良い奴なのだが、兄貴というのは勘弁して欲しい。


「それは、もう信頼できる奴に任せたので平気っすよ。というか、水臭いじゃないですか! 俺に声もかけずに出て行くとは!」


「それについてはすまん。しかし、俺は追放された身だ。それに巻き込むのは本意ではない」


「くぅー! 相変わらずっすね! まあ、そういう兄貴だから惚れたんですけど……とにかく、俺をここにおいてくれ!」


「まあ、きてしまったものは仕方ないか。だったら、遠慮なく仕事を振るから覚悟しておけよ?」


 正直言って、こいつがきてくれたのは助かる。

 丁度、人手が欲しかったところだ。

 戦闘力も統率力も申し分なく、そこらの魔獣や魔物には負けないだろう。


「へへっ、望むところでさぁ!」


「それと……きてくれたことに感謝する」


「あ、兄貴ィィィィ!」


「だァァァ! くっつくな!暑苦しい!」


「あっ! ずるいですよー!」


「お前も腕を組むなっ!」


 片腕に厳ついおっさん、片腕に美少女という変な組み合わせのまま、俺は領主の館へと戻るのだった。


 ◇


 その後、自己紹介も兼ねて領主の館に責任者を集める。


 まずは、しっかり意思疎通と連携を深めていかないと上手くはいかない。


 それは前世でも今世でも同じことだ。


 メンバーは俺、ユキノ、足を治した狼獣人の男カリオン、腕を治したドワーフの男ダイン、盲目だったエルフの女性リーナ、そしてアイザックの六人だ。


「あぁー、忙しいところ集まってくれて感謝する。すまんが、一言でいいので自己紹介をしてくれ」


「はいはーい! ご主人様の秘書兼護衛役のユキナです! 一応、雑務の仕事の責任者でもありますかね。あっ、ご主人様の愛人でもあります!」


「最後だけは違うわ! というか、愛人でいいのか? ……違う違う、そういう話じゃない」


「えぇー、つまらなくないです?」


「自己紹介に面白さなどいらん。そんなのはリア充や陽キャラのやることだ。とにかく、これは悪い例なのでみんなは普通に自己紹介をしてくれ」


 俺の言葉に他の者達が頷き、順番に自己紹介をしていく。


「年齢は二十五で、獣人族のカリオンと申す。我々の生命線である脚を治してくれた恩義に応えるため、警備や狩りの責任者をしております」


 カリオンは戦闘能力はそこまでではないが、気配察知能力と素早さに長けている。

ゆえにいち早く、危険を知らせることができる。

 男の獣人の特徴であるフサフサの毛皮や顔つき、身長180のワイルドイケメンって感じだ。


「わしはドワーフ族のダインで、年齢は四十歳じゃ。アルス殿は鍛治師の命である腕を治してくれた。これに応えぬようではドワーフの名が泣くわい」


 ダインは身体が頑丈だし、何より土属性の使い手でもある貴重な鍛治師だ。

 彼には都市の整備や作って欲しい物などたくさんある。

 見た目は髭を生やした小さなおじさんって感じだ。


「私はエルフ族のリーナで、年齢は非公開でお願い致します。ずっと忘れていた光をくれたこと、誠に感謝いたします」


 リーナは身体は弱いが、風属性の魔法を使えるし頭も良い。

 ぶっちゃけ、三日間の間に雑務の仕事を全て把握している……ユキノはほぼ何もしてない気が。

 見た目は全体的に細く、金髪の儚い美少女って感じだ……年齢は触れたらいけない。


「うし! 最後は俺っすね! 俺は人族のアイザック! 年齢は三十歳! 大恩ある兄貴のために、この地に自らやってきた! よろしくたのんます!」


「とまあ、こんな感じだ。とりあえず、この六人で回していく。皆、それぞれの種族のリーダーとしてやって欲しい」


「「「「「はいっ!!!!!」」」」」


「良い返事だ。これからよろしく頼む」


「コンッ!」


「おっと、フーコを忘れていたな。では、お前も入れて七人だ」


「コーン!」


 よしよし、これで足りなかったパーツが一個増えた。


 つまりは、俺のスローライフに一歩近づいたってことだ。




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