二章

14話 問題は山積み

 ……どうしてこうなった?


 後は配下に任せて、のんびりできるのではなかったのか?


 俺のスローライフは何処へ?


「ご主人様! 次はこっちですよー!」


「ええいっ! わかっとるわ! というか、どうして俺は走り回ってる!?」


「仕方ないじゃないですかー! 汚染を浄化する炎と、草木を生やす蒼炎、暖房器具になるほどの火の使い手はご主人様しかいないんですから……よっ! 街の便利屋!」


「誰が街の便利屋だっ! くそっ!」


 無事に領主?になってから、はや三日……俺はスローライフとはかけ離れた生活を送っていた。

 まずは、この都市の問題が多すぎた。

 放置された汚水問題、荒れ果てた畑、朽ち果てた建物、足りない食材、とてもじゃないがこんは場所でスローライフは送れない。

 ゆえに、とりあえず体制を整えようとしたのだが……俺の仕事が多いんだよ!


「だァァァァ!? どうしてこうなったァァァァ!?」


「うるさいですねー。ほら、浄化の炎でささっとやってくださいよ。まだまだ仕事は控えてますから。野菜室の温度管理、寒さ対策の炎、住民の住める場所を確保……大変ですね」


「おい? お前はいかないんかい? そして、少しは手伝えって」


「私はレディーですからねー。それに、鼻が効くんでキツイです。それに、私は料理や事務作業をやってるので。いやー、適材適所ってやつですかね」


「俺だってきついわ! ァァァ! チクショー! やったるわ!」


 今から行くのは、いわゆる下水道である。

 奴らが手入れをしないから、相当酷いことになっていた。

 奴隷達はそこで汚染処理をさせられて、体調を崩して亡くなった者もいるとか。

 多分、空気が悪いことになっているのだろう。


「はい、頑張ってくださいねー。おや、あれはフーコじゃないですか」


「おっ、こっちに向かってくるな」


「コンッ!」


 もうすでに都市のアイドルと化しているフーコが、俺の足元に駆け寄ってくる。

 そこには、もはや孤高の存在というアイデンティティーはない。

 もふもふで可愛い、ただの人懐っこい子狐である。

 ちなみにこの子の仕事は、俺への伝令役と人々に癒しを与えることである。


「まさか、フーコ……ついてきてくれるのか?」


「コンッ!」


「……いや、良い。犠牲になるのは俺一人で十分だ」


「……めちゃくちゃカッコいいこと言ってますけど、ただ下水道行くだけですからね?」


「うるさい。とりあえず、戦いに行ってくる」


 無駄な犠牲を生まないため、俺は一人戦地に向かうのだった。


 ◇


 ……しんど。


 いや、あんなに臭うとは思ってなかった。


 だが、どうにかなったな。


 トイレに行ってわかったことだが、俺の蒼炎はどうやら浄化作用というか匂い消しの効果もあったらしい。


 なので、昨日からあちこちのマンホールに入って頑張っていた。


「清掃員の皆さん、いつもありがとうございます!」


「どうしたんです?」


「いや、普通の有り難みを実感してた」


「あぁー、それは確かに」


 その後、浄化を済ませたことを住民に報告したが……目の前には、土下座をしている者達がいる。

 そういうのは良いって言ってんのに聞きゃしない。


「感謝いたします! これで仕事がしやすくなります!」


「後は我々にお任せください! 匂いさえなきゃ、どうってことないです!」


「では、後は頼む。それと、人族中心でやるように。休憩はこまめに、具合の悪くなった者は俺のところに来るがいい」


「はっ! かしこまりました!」


 最も多い人族には、主に畑仕事や料理、布仕事や街の清掃など。

 魔法が使えなかったり、戦闘能力のない者がほとんどだし女性も多い。

 獣人には高い気配察知能力と戦闘力があるので、外の見張りや魔獣退治を頼んでいる。

 ドワーフ族には建物の修理や整備、あとは武器や防具を頼んでいる。

 数少ないエルフは、頭が良いので事務作業を中心にやったり、水魔法で役に立ってもらっている。


「ふぅ、こんなところか。さあ、次はどこだ?」


「えっと、寒いので炎をあちこちに点火しましょう。野菜室、部屋の中、一通りですねー」


「はぁ、仕方がない。しかし、ずっとこのままってわけにはいかんぞ? 俺の魔力とて無限ではないし、1日がそれで終わってしまう」


「そうですよねー。魔石の数に限りがあるから、今はこうしてますけど。そろそろ、魔石探索でもしますか」


 魔法を込められる魔石は、魔素溜まりがある特殊な鉱山から取れる。

 それは深い森の中や、辺境の奥地にあったりすることが多い。

 ただし魔物を引き寄せる性質があるので、危険度はかなり高い。

 そもそも、この土地にあるのかもわからない。


「そうだな。どちらにしろ、魔石は必要になる。鍛治仕事もそうだし、様々な生活用品として。そうなると、先遣隊を作る必要があるか……しかし、その前に体力をつけさせないと……しかし、食料にも限りがあるし時間もない……あれ? 詰んでね?」


「そうですねー。何かをしようにも、それをする労力が足りないです」


「コンッ!」


「ん? フーコ、どうした? ……誰か来たのか?」


「コンッ!」


 俺の足の服を引っ張り、何処かに連れて行こうとする。


 俺とユキノは顔を見合わせ、フーコの行く先に向かうのだった。







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