三章

33話 冬の必需品

帰還して一週間が過ぎ……何やら、住民達が俺に向ける視線が変わってきた。


今までもお礼を言われつつも、どこか遠巻きにされていたのだが。


今度は敬礼をされたり、拝まれたりしている。


「フーコ、どうしてだろうな?」


「コン?」


「まあ、お前にわかるわけないか。いつのまにか、魔王が定着してるし」


「コンッ!」


「はいはい、散歩に集中しろってか」


そのまま、いつものように家々や畑を回っていく。

魔石が手に入ったとはいえ、無駄遣いはしてはいけない。

なので、朝だけは散歩ついでに炎を灯していく。


「畑で野菜も取れるようになったし、ブルファンの肉は定期的に狩れるようになったから……そろそろ畜産物が欲しいところだ」


「コンッ!」


「ん?どうした? ……誰か走ってくるな」


すると、向こうからダイン殿が走ってくる。


「こ、ここにおったか」


「どうした? 珍しく慌てているな」


「いいからくるのじゃ!」フーコも一緒でかまわん!」


『コンッ!」


「お、おいっ!」


そのまま、ひきづられとある建物の中に入っていく。

そこは熱気に包まれた部屋だった。

カンカンと鳴り響く音、全体的に暑い部屋、汗だくになって作業をするドワーフ達。

そう、そこは新しくできた鍛治場だ。

正確には元々あったものを、ドワーフ達が修繕した。


「おおっ、ようやく稼働したのか」


「うむ! これでわしらも本領発揮できるわい! やはり、ドワーフの本業は武器防具なのでな。 無論、家やお主が要望する器具も作るから安心せい」


「ああ、そこは信用する。それに、武器は最優先で必要だ」


「うむ、これでわしらも戦えるわい。剣は苦手じゃが、ハンマーや斧なら扱える」


「これで都市の防衛力も上がるってわけだ……皆にはすまないが、ある程度は戦ってもらわないとな」


常に守れる者が近くにいるわけではない。

住民達にも、最低限戦える者はいないといけない。

幸いなことに、希望者は多く士気も高い。


「何を言うか。最前線に立って頑張ってるお主に文句言う奴などいないわい。いたら、わしがぶん殴ってやるわ」


「おいおい、その腕で殴られたらえらいことになっちまうよ……んで、俺は針を溶かすために呼ばれたってわけだ」


「うむ、例の針を使って武器を作るのじゃ。お主にはそれを溶かしてもらいたい。そしてわしが温度を確認し、どこで溶けるかを確認する」


「わかった。あれには毒もあるしな」


奥に陣取っている炉に行くと、そこにクマの針が置かれていた。

俺はダイン殿と目を合わせ頷き、手から炎を放つ。

徐々に温度を上げていくと……少しずつ形が変わっていく。


「一旦待ってくれい! そのままで維持できるか?」


「ああ、たやすいことだ」


「相変わらず、魔法の腕が半端ないのう。魔法の威力を維持するということがどんなに難しいことか……どれどれ」


ダイン殿が火に手をかざし、火傷しないぎりぎりで待つ。

おそらく、温度を確かめているのだろう。


「 ……この温度で溶け始めるか」


「どうだ? できそうか?」


「うむ、問題ない。これならこの炉で十分じゃ。実験につき合わせて悪かったのう」


「いや、いいさ。それと、魔石を使うのは住民のためでいい。時間がある時は、俺自身が火をくべる役目をしよう」


はっきり言って、これに魔石を使い続けていたらすぐに無くなってしまう。

俺は遠征以外はいるし、その方が節約できていいだろう。


「なぬ? いや、それは助かるが……」


「コンッ!」


「ほら、フーコも手伝うってさ。こいつは風魔法も使えるからな。火の勢いをつけたい時に使えるはずだ……そうだった」


「どうしたのだ?」


「俺としたことが肝心なことを忘れていた。ダイン殿、こういうのを作れるか? 暖炉とは別なのだが」


「ん? ………ふむふむ、これなら箱さえ作れば問題あるまい」


そうして、俺はすぐに制作を頼み込む。


火の暖かさもいいが、それは体に毒になる場合もあるし、乾燥しているし火事にもなる。


幸い、魔石は手に入った。


アレを作るなら、誰からも文句は出ないだろう。


そう冬の必需品、それは暖房である。



それから数日後……電気を通すようなものではないので、暖房の制作自体はすぐに済んだ。


言い方はアレだが、暖かい風を送れる箱を用意してくれれば良い。


そこに俺の火の魔石と、フーコが込めた風の魔石を合わせる。


そうすれば、俺の熱をフーコの風で送るという暖房の完成だ。


「フーコ! よくやった! お前のおかげだ!」


「コンッ!」


「ウリウリ、撫で回してやる」


「ククーン……」


「はいはい、わかりましたから。ご主人様、みんな待ってますよ」


ユキノの台詞で我に帰る。

そうだった、この場には住民達が勢揃いしてるんだった。

流石に全員ではないが、領主の館一階にあるパーティー部屋に出来るだけ人を入れてある。


「おっと、すまない……皆の者、待たせた。これより、暖房の試運転を行う」


「では、わしが魔力を送るとしよう」


魔力を送ることによって、部屋の上部に設置された暖房器具から暖かい風が吹く。

それは、俺の知る暖房と差異はない……多分、23度前後といったところだ。


「おおっ! 暖かい風が!」


「これがあれば寒い夜も寝れそうだわ!」


「ま、魔王様! これを私達にも!?」


「ぜひお願いいたします!」


目に見えて感激する住民達の気持ちはわかる。

前世で雪国で育った俺は、火の暖かさのありがたみを知ってるからだ。

比喩ではなく、人は寒さで死ねる。

壇上にて俺が手を挙げると、人々が静かになる。


「まあ、落ち着くがいい。ひとまず実験は成功だ。だが、これを全員に行き渡らせるのは難しいだろう。魔石の数にも限度があるし、そんなことをすればすぐに無くなってしまう。まずは、お年寄りや体の弱い人を中心に設置する予定だ」


「そ、それじゃあ、他の人達には……」


「安心するがいい。これからダンジョンを探し出し、そこから魔石を得る。そのために、俺自らが再び森を探索する。諸君にはすまないが、それまで我慢してほしい」


こればかりは申し訳ないが、どうにもならない。

死にそうな者から優先的にやらねば。

俺に出来るのは、頭を下げることくらいだ。


「魔王様自らが……」


「私達のために……」


「よ、よーし! 俺達も鍛錬して魔王様の役にたつぞ!」


「そ、そーだ! 武器も作って頂いた!」


「その間は俺達で都市を守るんだ!」


そんな声があちこちから聞こえてくる。

どうやら、俺に負んぶに抱っこするような奴らではないらしい。

流石は、厳しい地域で暮らしてきた逞しい連中だ。


「感謝する。俺が必ずやダンジョンを探し出すと約束しよう」


「「「魔王様! 魔王様! 魔王様!」」」


……どうでもいいが、それはどうにかならないのか?


俺は悪役は卒業したのだが……。





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