第7話 蒼い炎の効果

……うん、意外と寝れたな。


これも、火の魔石を使ってテント内を暖めていたからか。


限られた鉱山にて取れる魔石には、魔法を込めることができる。


この世界は、それらを使って様々な生活に役立てている。


ただし、取れる量も限りがあるし値段も安くない。


「ふぁ……ユキノ、おはよう」


「おはようございます」


「そういや、昨日の風狐はどうした?」


「食べ終わった後、すぐに立ち去りましたよ。ただ、相変わらず傷だらけだったので心配ですねー」


「そうか……無事だといいが。ただ、人には懐かないという話だし、俺たちで保護するのも難しい」


「そうですねー。ところで、昨日の残りで作ったスープを飲みますか?」


「すまんが頼む」


寝ぼけつつも、ユキノの作業を眺める。

ヴァンパイア族であるユキノは睡眠をほとんど必要としない。

立ちながら寝ることもできるし、気配が近づけばすぐに起きる。

まさしく、護衛としてはうってつけの能力がある。

俺が隠しキャラであるユキノを仲間にした大きな理由だ。


「はい、どうぞー」


「ありがとな、では頂きます——ズズー……ふぅ、あったまるわ」


ファンブルのバラ肉がとろとろに溶けて良い。

脂から甘味も出て美味いし、寝起きの体に力がみなぎってくる。


「朝は特に冷え込みますからねー」


「ユキノは平気そうだな?」


「私は元々寒さに強い種族ですから」


「そういや、そうだったな。というか、寝ずの番をしてたのか?」


「いえいえ、きちんと寝たから大丈夫ですよー」


「それなら良いが……ん? アレはなんだ?」


眠気が覚めてきて、ふと辺りを見回すと……昨日とは状況が違っていた。

草木一本もない大地だったのに、少し草が生えていた。


「やっぱり、昨日はなかったですよね? しかも、生え方がおかしいというか……数カ所に分かれて少しの範囲内だけで生えてますし」


「昨日、あの辺りに何かしたか?」


「そうですねー……あっ、多分ですけど蒼い炎を使った箇所かも」


「なに? そういや、あの辺に放った記憶があるな。すると、なんだ……俺が使った炎が、草木を生やしたってことか?」


「うーん、わかりませんけど。ただ、それくらいしかわからないですね」


「確かに熱くもなくて燃えなかったが……ん?」


何かが、こちらに向かってる……それは昨日出会った風狐だった。

しかも、口に何かを咥えていた。


「あれは、ホーンラビットですねー。弱いですけど、警戒心が強いので捕まえるのが難しい魔獣です」


「コンッ」


すると、俺の目の前にそれを置く。

どうやら、俺にくれるということらしい。


「どうしてだ? これは君が狩った獲物だろう?」


「コンッ!」


「多分、昨日のお礼なんじゃ? 生まれた頃から自立を求められ、孤高の存在と言われる風狐ですから」


「なるほど……借りは返さないと気がすまないってことか。よし、気に入った。それじゃあ、ありがたく頂戴しよう」


「アオーン!」


すると、嬉しそうに尻尾を振って雄叫びをあげる。

どうやら、正解だったらしい。


「さすがは風狐といったところか。しかし、その傷では……」


「傷口が化膿してますね……このままだと危ないです」


「ふむ……君、俺の魔法を受けてみるかい?」


「クゥン?」


俺は試しに蒼い炎を出して、風狐に見せてみる。

すると、鼻をすんすんとさせて慎重に確認をしてくる。


「どうするん……あっ、まさかそういうことです?」


「いや、わからない。ただ、害はないはずだから試しにやってもいいかと。どちらにしろ、このままだと危ない」


「スンスン……コンッ!」


「おっ、どうやら試して良いみたいだ。それじゃあ……いくぞ」


怖がらせないように、慎重に傷口に蒼い炎を持っていくと……ぽわっと傷口に燃え移る。

しかし、痛がってる様子もなく……次第に傷口が癒えていく。

すると、風狐が元気よく走り出す。


「コンッ!」


「わぁ……! すごいですね!」


「あ、ああ……予想はしていたが」


「コーン!」


「てっ、おい!? やめろって!」


俺に飛びかかり、顔をペロペロと舐めてくる。

昨日までの警戒心が嘘のように。


「ふふ、完全に懐かれましたね? 賢いので、命を救ってもらったのがわかってるんですかね」


「コンッ!」


「それはわかったから! ったく、孤高の存在はどうした」


「クゥン?」


「まだ子供だから、そこまでのことはわかっていないかも。というか……改めて凄いです。つまり、蒼い炎は癒しの力なんですねー」


「そうみたいだな。しかし、どうしたもんか」


なんで、今更こんな力が目覚めたんだ?

聖女しか使えないと言われている癒しの力を俺が。

何か意味があるのか? まだ、俺に何か役目があるのか?


「大丈夫です?」


「……ああ、大丈夫だ。そうだな、気にしても仕方ない。どちらにしろ、俺はもう国から追い出されたんだし」


「普通に有効活用したら良いんじゃないですか? これがあれば、色々と役に立ちますよ。 何より、これで役立たずは返上できますし!」


「役立たず言うなし!」


しかし、その軽い物言いが俺の心を軽くする。


そうだ、考えても仕方がない。


俺は予定通りに、スローライフを目指すとしよう。





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