第8話 国王視点
ついに、アルス兄さんを追放してしまった。
これで良かったのだろうか?
いや、いくら邪神に支配されたとはいえ、兄さんが国を混乱させたのは事実。
貴族の中には死んだ者を沢山いた。
改心したとはいえ、この度の処遇は仕方のないこと。
それはわかっているんだ。
ただ、兄さんは僕の憧れだった。
魔法も使えて剣の腕もあって、みんなから人気もあった。
「どうして、あのアルス兄さんが……でも今更かな」
「国王陛下、失礼いたします」
「………」
「国王陛下? ぼーっとしてどうなさりましたか?」
「いや、ごめん、ソユーズ宰相。ちょっと、未だに慣れなくて。というか、国王専用の私室だと落ち着かないよ」
「無理もないかと。ジーク様はまだ十八歳ですからね。それに、本来なら王位を継ぐ予定ではなかったので」
そう、僕はまだ十八歳になったばかりの若造だ。
兄さんの暴挙を止めようと、これまでは必死にやってきたけど……。
本来なら兄さんが王位を継いで、その家臣になるはずだった。
「本当に、僕なんかが国王でいいのだろうか? それこそ、叔父上もいるし」
「シグルド様はダメですな。というか、ジーク様でないと」
「どうして? 強いし、まだまだ若いよ?」
「彼の方はじっとしていられませんので。戦いしか脳がないといいますか……すみません、言葉が過ぎましたね」
「い、いや、確かにそうだと思う」
そうだ、叔父上は戦闘狂だった。
基本的に戦うこと以外はダメな人だった。
だからこそ、国境の守りに付かせているのだし。
王位争いの時も、それには随分と助けられた。
「それに、彼は結婚する気がないので。それにアルス王子がいない今、男の王族は実質的には貴方一人です。なんとしても、世継ぎを作って頂かないと」
「うん、それはわかってる」
「相手はどうなさるので?」
「そりゃ、聖女のリナリーになるかな。邪神を倒した立役者でもあるし」
「ええ、そうですな。教会とのパイプも必要になるので良いかと。そうなると、第二夫人は……エミリア嬢ですかな?」
「いやいや、エミリアさんはダメだよ。あの人は、兄さんにぞっこんだし」
まあ、兄さんは全く気づいてなかったけど。
あの人は、兄さんを止めるために僕に力を貸してくれたに過ぎない。
確かに、家柄といい魅力的な部分といい申し分ないけどね。
「ふむ、しかし……いえ、そうですな。無理な結婚は後に亀裂を生みかねません。では、ひとまず保留としましょう。して、本題に入ります」
「うん、お願い。それで、城下町の様子はどう? 」
直接的な死人を出してないとはいえ、今回は国の混乱に民を巻き込んでしまった。
経済は止まったし、不安から暴動なども起きた。
それにより、被害を被った方々もいるだろう。
特に食料などの買い占めもあり、行き渡っていない民もいるはず。
「それが……予想以上に落ち着いているのです。どうやら、王位争いの間にもいたレジスタンスを名乗る方々が動いているとか。その方々が、蓄えた食料を配っていると」
「ほんと? 彼らには頭が上がらないね。確か、色々と手伝ってくれたし。僕から直接お礼はしても平気かな?」
「ええ、よろしいかと。ついでに、街を視察すると良いかと思います」
「うん、そうだね。予定を調整して、後日訪ねるとしよう」
国王なので迂闊には外に出ていけないし、あんまりしたてに出てもいけない。
ただし、今回は話は別だ。
きちんとお礼をしないと僕の気が済まない。
「では、次の問題はお金でしたね。といっても、こっちも特に問題はありませんでした」
「どういうこと? うちは財政難だって話だったけど……」
この王位争いの間に隣国が攻めてきたりした。
叔父上が防いでくれたから、被害は対して出なかったけど。
それでも、出費はかさんだはず。
「それが……アルス様が手を下した貴族達の家を押さえたところ、そこには財がありまして。しかも、ほとんど手つかずの状態で」
「……どういうこと? 兄さんは僕との戦いにお金を使ってなかったの?」
「いえ、わかりません。ただ、彼らは不正を行っていた模様です。禁止されている奴隷取引や、脱税、賄賂など。何より、民を蔑ろにしてたと調査結果が出ました」
「……兄さんについた貴族達も、いわゆる腐った貴族達だった。そして、残ったのは比較的まともな貴族達……これは偶然かな?」
「まさか……アルス様が、敢えて不正貴族達を葬ったと? そして、残りの連中も自分側に取り込んだ?」
「ううん、それはわからない。でも、僕は未だに信じられない。あの兄さんが、邪神に支配されたなんて……もしそうなら……少し調べてみる必要がありそうだね」
確かなのは、このお金があれば財政難を乗り切れること。
民にも飢えさせることなく、兵士達や文官にも潤沢な給金を与えられる。
今の国は、活気があふれている……それこそ、昔のように。
結果だけを見れば、国が一つにまとまったといってもいい。
……アルス兄さん、貴方はどこまで考えていたのですか?
……もしかしたら、僕はとんだ勘違いをしていたのかもしれない。
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