第9話 銀狐の名前はフーコ
銀狐にも餌をあげ、スープを食べ終えたら、いよいよ出発である。
そして、どうやら……完全に懐いてしまったらしい。
「ついてくる気か?」
「コンッ!」
「そうみたいですねー。ご主人様、どうします?」
「うーん、このまま放っておくのもアレか……」
「この険しい土地ですからねー。まあ、生き残れる確率は低いかなと」
ユキノの言うことが確かなら、この魔獣は人に害を加えない。
賢いし、今だっておすわりをして俺の言葉を待っている。
それに貴重な魔獣だし、言い方はあれだけど役に立つかも。
「わかった、許可する。ただし、俺の言うことを聞くこと……いいか?」
「コーン!」
「よし、成立だな。そうなると、名前をつける必要があるか」
「どうやら、この子はメスみたいですよ?」
ユキノが銀狐を抱っこすると、大人しくされるがままになる。
足がプラーンとして、正直言って可愛い。
ふむ……スローライフにもふもふは付き物だしいいかもしれない。
「そうなると、かっこいいより可愛い系か……銀狐、ギンコ、風を操る……安直だけどフーコにするか」
「コンッ!」
「ふふ、気に入ったみたいですよ?」
「決まりだな。フーコ、これからよろしく」
「コーン!」
新たな仲間を手に入れた俺達は、再び荒野を進んでいくのだった。
◇
その道中に村を発見したが、やはり貧しい暮らしをしているみたいだ。
どうやら、領主は役割を果たしてないらしい。
噂通り、無法地帯と化しているのか。
「さて、どうするか……」
「あっ、誰か来ましたよー?」
村に入った俺たちを、遠巻きに見ていた一人の男性が恐る恐る近づいてくる。
「あ、あの、うちには何も差出せるものが……」
「そんなものはいらん。それより、これを食うが良い」
「それは……もしかしてファンブルの肉!? ど、どうして?」
「いいから貰うのか貰わないのかはっきりしてくれ。言っておくが、礼などはいらない。もちろん、女なんか差し出したら許さん」
「あ、ありがとうございます! 皆の者! この方が食材をくださると!」
そういうと、住民達の間で歓声が上がる。
そして、次々と感謝の言葉を告げられた。
すると、次第に身体が痒くなってきて……耐えられなくなる。
「フハハッ! 遠慮なく食べるがいい!」
「へっ? あ、あの……」
「あぁー、気にしないでいいですかねー。この人、ちょっと感謝され慣れていないんです」
「は、はぁ……? と、とにかくありがとうございます! みんなに配ってきます!」
数名の男達がきて、お礼をしつつファンブルを持っていく。
そして、俺はというと……羞恥心で震えていた。
「ご主人様ー? その癖は直らないんです?」
「ぐぬぬ……ほっとけ」
俺は記憶を取り戻す前から傲慢な態度だったし、記憶を取り戻してからは悪役に徹した。
その時に、わざと厨二病的な振る舞いをしていたのだが……これが癖になってしまった。
あと、元々褒められると素直になれないタチだったのもある。
「まあ、私は人間味があって好きですけどねー。それより、全部あげてよかったんです?」
「俺たちだけじゃ食べきれないしな。それに、泊まらせて貰う予定だ」
「コンッ」
幸いにして、快く部屋を貸してもらった。
その日は宴になり話を聞くと、様々なことがわかってきた。
そして、夜が明けて……都市ナイゼルに向けて進み出す。
「皆かなり、やせ細っていましたねー。それに領主の件もそうですが。山賊や盗賊の類もいるみたいです」
「そういや、道中にもいたなぁ。ユキノが、サクッとやってしまったが」
「えへへ、当たり前じゃないですかー。あの人たち、私のことをめちゃくちゃにしようとしましたし……フフフ」
「こわっ!?」
「ひどい! ご主人様を守ったのにー!」
「まあ、そこは感謝してるよ」
いや、しかしユキノを連れてきて良かった。
俺がそいつらに負けるとは思わないが、今の俺は前の俺とは体の勝手が違う。
魔力も下がってるし、闇魔法は使えないし、不死身でもない。
そこを測りきれずに油断して死んでしまった可能性はある。
「というか、この感じだと領主も怪しいですねー。全然、統治できてないし」
「まあ、元々流刑地でもあるからなぁ……はぁ、俺のスローライフは遠そうだ」
「というより、無理ですよねー。自然もなければ食料も少ないし、水も枯れてますし。私達なら飢えることはないと思いますけど」
「ぐぬぬ、考えが甘かったか……とりあえず、予定通りにナイゼルに行ってから考えるか」
「問題の先送りってやつですね?」
「それをいうなし」
そんな会話をしていると、フーコが唸り声を上げる。
すると、すぐに向こうから魔物がやってきた。
「おっ、反応がユキノより早かったな。フーコ、えらいぞ」
「コンッ!」
「流石に負けますって。えっと、あれはゴブリンですねー……どうします?」
「そろそろ、俺も身体を動かすか。いい加減、この身体にも慣れないと」
腰にある刀に手を添え、居合の構えをとる。
元日本人で剣道をやっていた俺からすると慣れた姿勢だ。
悪役であるこいつが刀使いっていうのはラッキーだった。
「グキャー!」
「ケケー!」
相手が近づいてくるのを待ち……間合いに入った瞬間に身体は動いていた。
「シッ!」
「グカ……」
「カカ……」
俺の放った居合は、二体のゴブリンを真っ二つにしていた。
そして、霧になって消えていく。
相変わらず、この辺りは不思議だ。
「ふぅ、どうやら腕は鈍ってないようだ。これなら、問題あるまい」
「えへへ、残念ですー」
「おい? 本当に残念そうなのだが?」
「だって、そしたら私が守ってあげられるじゃないですかー。そして私に依存させて……ふへへ」
「ふへへじゃねえ! 怖いからやめろって! というか腕を組むなっ!」
「コンッ!」
「お前までじゃれてくるな! 危ないから!」
腕にユキノがしがみつき、足元にフーコがじゃれつく。
……まあ、こういうのも悪くはないか。
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