第10話 山賊の根城

結論から言うと、領主がいるはずの辺境都市ナイゼルは酷いらしい。


あの後も道中の村を訪ねたが、人々の顔には正気がなく死んだような目をしていた。


いくら無法地帯とはいえ、変だと思っていたが……どうやら、この地に落ち延びた腐れ貴族が圧政を敷いているらしい。


そういうクズは、どこに行っても変わらないらしい。


「どうしますー?」


「決まっている——俺のスローライフを邪魔する者は排除する」


「えへへ、これは腕がなりますねー」


そして、荒野を進むこと数時間後……城壁が見えてくる。

といっても、すでにボロボロだ。

辺境都市と言われているが、それは何百年も前のことだし。


「あちゃー、全然整備してないですね」


「これは期待できないか。村人達の話を完全に鵜呑みにしたわけではないが……さて、どうなるか」


「コンッ!」


「あっ、門の前に兵士達がいるみたいですよ」


「まずは、それで判断するか」


そして俺達が門に近づくと、槍と斧を構えた兵士達が動き出す。

といっても、見た目はまんま山賊である。

悪役として腐れ貴族を相手にしてきた俺にはわかる……こいつらの目は濁っていると。

今の俺は、性善説を信じていない。

生まれながらにしてどうしようもない奴は、一定数存在するということを知った。


「何者だっ!」


「この地の領主に会いにきた者だ」


「なに? そんな話は聞いてないぞ?」


「それとも、その女を差し出しにきたか?」


「へへ、良い女じゃねえか。それに、珍しい魔獣もつれてやがる」


「これは俺たちで分けちまうか?」


「……そいつはいい。たまには、俺たちだって新鮮な女を味わいたいぜ」


……どうやら、予想は当たったらしい。

そうなると、もはや遠慮はいらない。

ここで逃せば、次に犠牲になるのは無辜の民達だ。

そんなことは、許してはいけない。


「きゃー、ご主人様ー、怖いですー」


「おい、めちゃくちゃ棒読みなのだが?」


「えー? 私、か弱いですしー……ところで、どうします?」


「俺がやる」


フーコをユキノに任せて二人の男の前に立つ。

そして、今度は意識的に厨二病を発動する。

……そうすることが、元日本人である俺の処世術でもあった。

そうでもしないと、当時の俺の精神は耐えられなかった。


「ククク、面白い……我に逆らうというのか」


「な、なんだ?」


「いいから男はしんどけ!」


片方の男が槍を突き出したので、右の掌で受け止める姿勢をとる。


「馬鹿が! ……へぁ? 槍が通らねぇ!?」


「どうした? もっと力を入れないと人は貫けんぞ?」


「く、くそっ! お前もやれ!」


「何やってんだ! こうやるんだよ!」


今度は斧が振り下ろされるので、左手で受け止める。

当然、魔力強化された俺の手は無傷だ。


「馬鹿なっ!?」


「なんだこいつ!?」


「せめて苦しまずに逝かせてやる……我が炎に焼かれて消え失せろ——豪炎」


「「ァァァァぁぁ!?」」


武器ごと火に包まれ、男達が燃え上がる。

そして残ったのは……焼けた匂いと、空の鎧だけになった。


「相変わらずの威力ですねー……大丈夫です?」


「……ああ、平気だ。もう、いい加減慣れた」


「そんな顔をするなら……私がやりましたのに」


「それはダメだと言っただろう」


記憶を取り戻した俺に訪れた最初の試練は、人を殺すことだった。

どうしようもない悪党とはいえ、そいつらを排除しなければならなかった。

全部をユキノに任せることもできたが、それは俺自身が許せなかった。

すると、フーコが足元にじゃれてくる。


「クゥン?」


「……ありがとな、フーコ。よし、嫌なことはささっと終わらせるとしよう」


「そうですねー。ただ、ここからは私もやりますからね? 最初の約束通り、ご主人様と一緒に罪は背負います」


「……ああ、よろしく頼む」


覚悟を決めた俺は、門を開けて中に入っていく。


山賊どもめ……俺のスローライフの邪魔をするというなら覚悟してもらおうか。







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