20話 急変

 無事に?湯船を堪能した俺は、ゆっくりとお風呂から出る。


 そして着替えをすませ、外に出ると……そこには死屍累々の男達がいた。


「ぜぇ、ぜぇ、私を止めるとはやりますね……ご主人様が出てきちゃったじゃないですか」


「あ、兄貴、やりましたぜ……ぐふっ」


「わ、わしもやり遂げたわい……かはっ」


「主人よ、先に逝くことをお許し……ごはっ」


「お前達ー!! しっかりしろ!!」


 俺のために、尊い犠牲になった者達に死なせるわけにはいかない!

 俺は急いで蒼炎によって傷を癒すのだった。

 その後、どうにか皆が立ち上がる。


「ったく、お前も手加減しろ。アイザックはともかく、この二人は戦闘向きじゃないんだぞ?」


「えへへー、ごめんなさい。つい、楽しくなっちゃって。でも、この三人の忠誠心を見ましたね。これなら、ご主人のことを任せられそうです」


「姉御! そこまでのことを考えて……」


「いや、気のせいだよ。ほら、俺の後でよければ入ってこい……ん? そもそも男女共有か?」


「いや、そうではないですな。今回はとにかく、アルス様に一番風呂に入ってもらうことを優先したわい。女風呂は、今は建設中といったところかと。ただ、ユキノ殿が入る分には構わん」


「やったぁー! それじゃ、フーコを連れてきますね!」


 そう言い、元気に走り去っていく。

 一体、あの体力は何処から来るのだろうか?

 俺なんか、今すぐにも眠りにつきたいのに。


「ダイン殿、改めて良い湯だった、感謝する」


「そいつは良かったですわい」


「これを民にも使わせてやりたい、良いだろうか? 木材なら多少持ってきたし、場所はわかったのでこれからも持ってこれる」


「もちろんでさぁ! では、早速女風呂の方を完成をするわい!」


 そうして、ダイン殿もその場から去る。

 どうやら、女風呂と男風呂の位置は離すらしい。

 うんうん、いいことだ……決して残念などと思ってはいない。


「カリオンもアイザックもご苦労だった。さて、二人からは話を聞かんとな。カリオン、先程言っていた怪我人の元に案内してくれ」


「来てくださると……はっ!ありがとうございます!」


「気にするな。アイザック、すまんが腹が減ったから用意を頼む」


「へいっ! お任せくだせい!」


 こう見えてアイザックは孤児院で料理も作っていた。

 その腕前は庶民的だが、中々美味かった記憶があるから安心だ。

 アイザックと別れて、カリオンと一緒に診療所に入る。

 そこには包帯を巻いている獣人達がいた。


「これはアルス様!」


「お帰りなさいませ!」


「うむ、立ち上がらないでいい。そのままじっとしていろ」


 俺は蒼炎を使い、ベッドに横たわる者達を癒していく。

 なにせ、彼らはこの都市の望遠の要だ。

 これからも役に立ってもらわねばなるまい。


「おおっ! ありがとうございます!」


「これで、また今夜から仕事にいけます!」


「都市の守りは我々にお任せを!」


「なに、気にするでない。領主として当然のことをしたまでだ」


「「「オォォォー!!」」」


 しめしめ、これで好感度も上がるし防衛にも力が入るだろう。

 俺は今日こそゆっくりと眠りたいのだ(キリッ)


「主人よ、感謝いたします」


「いや、それはこちらのセリフだ。よくぞ、俺がいない留守を守ってくれたな」


「はっ、勿体ないお言葉です。それで、調査のほどはいかに?」


「どうやら、ダンジョンがあるらしくな。街道整備もそうだが、森を切り開くために戦力も必要になってくる」


「申し訳ありません、我々に力があれば……」


「いや、適材適所というやつだ。お前達は、お前達にできることをすれば良い」


「はっ、都市の防衛と街の治安に専念いたします」


 さてさて、だが実際にどうする?

 アイザックの手を借りるとして、それ以外にも魔法使いや弓使いがいると助かる。

 ……いかん、頭がぼーっとしてきた。

 このままだと、眠すぎてやばいな。


「主人よ、平気ですか?」


「すまん、平気じゃない。ちょっと疲れすぎた……」


「 無理もないです。さあ、少しお休みになってください。食事ができたらお呼びいたしますので」


「そうだな。悪いが少し休ませて……っ!?」


 その時、俺の耳に轟音が聞こえてくる。


「な、なんだ!?」


「これは……外からです!」


「なに? ったく、こっちはクタクタだっていうのに! ……だァァァァ! やったるわ!」


「及ばずながらお手伝いをさせてください!」


「おうよ! 俺の眠りを妨げる奴は許さん!」


 俺はカリオンや怪我を治した者を連れ、都市の外へと急ぐのだった。




 ◇



 少しまずいですわね……。


 もうそろそろ、魔力が切れてしまいます。


「もう! いきなり瘴気が沸くなんて聞いてませんわ!」


「自分が蒔いた種ですよぉ〜! 引きつけてしまいましたし!」


「う、うるさいですわ! あのままでは、村が危なかったから仕方ありません!」


 いざ流刑地である辺境にきてみれば、そこには普通に人々が暮らしていて……確かに人の営みがなされていた。

 それにショックを受けつつも、もちろんいいこともあった。

 アルスが人助けをしながら、都市に向かったとわかったから。

 私も負けられないと思い、途中で村の近くに瘴気が湧いて魔物が現れたので、それを引きつけながら倒してたのですが……。



「グキャ!」


「ブホッ!」


「この数は想定外ですわ——アクアフォール!」


 上空から水の滝に呑まれ、魔物が消え去っていく。

 しかし、すぐに次の魔物が襲ってくる。

 いくら下級とはいえ、数十体を同時に相手にするのは厳しい。

 こちらには、後衛タイプしかいないですし。


「ギャキャ!」


「ブホッ!」


「せいっ!」


 ニールの弓によって私に近づく魔物が貫かれる。

 ありがたいけど、このままでは……。


「お嬢様! なんか建物が見えました! あそこに駆け込みましょ!」


「そんなことはできませんわ! 私達の戦いに関係ない方を巻き込むのは!」


「そ、そうですね……」


「ただ、知らせないのも危険ですわ。ここは私に任せて、貴方はそこの村に知らせてください」


「そんなことはできませんよ! 私はお嬢様の護衛ですから!」


 その時、一際大きな瘴気が発生する。

 そこから現れたのは……中級であるトロールだった。

 体長三メートルに太った身体、人を好んで食らう食人鬼の化け物です。

 特に女性を好んで狙うことから、忌み嫌われてる存在。


「デフェフェ」


「ひい!?」


「……ただでさえ、魔法が効きづらい相手なのに……まいりましたわね。ですが、敵に背を向けるのは公爵家の名折れ! ここで食い止めますわよ!」


「デフェフェ!!」


「フレイムランス!」


「くらえ!」


「フゲ?」


「くっ! この威力では効きませんわ!」


 厚い脂肪によって弓を弾き、魔法障壁によって魔法防御も高い。

 こういう時に、前衛の人がいてくれたら……いえ、従者を巻き込みたくなくて連れてこなかったのは私の責任。

 こうなったら、ここまでついてきてくれたニールだけでも。


「ど、どうしますかぁー!?」


「やはり、私がなんとかしますから貴女だけでも……」


「嫌ですよぉ〜! 死ぬ時までお側にいます!」


「貴女って子は……」


「お、お嬢様! 右からゴブリンが!」


 その言葉に反応して右を見ると、既に武器を振りかぶっていたゴブリンが視界に入る。

 この距離では、もう避けることはできない。


「しまっ……!」


「はっ! 相変わらずの女だなっ!」


 私が覚悟を決めた時、突如目の前に男性が現れた。


 その男が刀を一閃させると、ゴブリンが消滅する。


 それは知っている声だったけど、私が見たことない頼り甲斐のある背中だった。


 何故なら……久しく、私が彼に守られることなどなかったから。






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