19話 念願の風呂

 その後、小屋に戻り木の伐採を手伝う。


 そして持てるだけの木を持って、再び都市に向けて出発する。


「来れたのはいいですけど、結構遠いですねー。片道で二日半ってところなので、往復で五日くらいですか。ただ、道がわかったので四日と見ときますかね」


「それでもきついな。何とか移動時間の短縮と、後は中継地点を作らないと。いや、森の前に専門の街を作るのがいいか?」


「その辺りも含めて話し合いですね。さあ、寒いので帰りましょー!」


「はいはい、お前は元気だね」


 ただ、 今はその明るさが助かる。

 なにせ問題は山積みだ……一つ一つやっていくしかあるまい。

 俺のスローライフのために!


 ◇


 帰りも村々に訪問をしつつ、行きより早く都市に帰還する。


 ちなみに狼獣人達が道を覚えたというので、今後は彼らを道案内の仕事につけることにした。


「兄貴! お帰りなさいませ!」


「帰ってくるのを待っておりましたぞ!」


 そこにはアイザックと、狼獣人のボスであるカリオンが肩を組んで出迎えてくれた。

 いつのまにやら、仲良くなったらしい。

 アイザックのこういうところには、俺もよく助けられたっけ。

 なにせ俺はコミュニケーションを取るのが下手だし。


「ただいま、二人共。俺がいない間に、何か変わったことはあったか?」


「とりあえず、魔物が近づいてきたので撃退をしました。怪我人はいますが、死者はおりません」


「俺の方は魔獣を何頭か狩りましたぜ。雑食であるファンブルだけは沢山いたんで。もちろん、それを住民で分け合いました」


「よくやってくれた……ふぅ、流石に疲れたから休みたい」


 ここ五日間、ほとんどゆっくりしていない。

 村の家を借りたとはいえ、隙間風が吹いて寒いし。

 野宿とかめちゃくちゃキツかった。

 ……でも、ここに住んでる人達はそうやって生活をしてきたんだ。


「へへっ! そいつを待ってました! 姉御! 兄貴を借りてくぜ!」


「ええ! そうですとも! 失礼いたします!」


「ちょ!?」


「はいはーい、いってらっしゃいませ〜。私は着替えてから行きますねー」


「コンッ!」


 俺は大男二人に両腕を掴まれ、連行されるのだった。

 そして説明を受けないまま、謎の小屋の前に案内される。

 そこにはドワーフのダイン殿が待っていた。


「ダイン殿? この小屋は?」


「まあ、まずは開けてくれ」


「おい? いい加減説明をしろ」


「へへ、まずは開けてください」


「ええ、お願いいたします」


「……ったく、わかったよ……おおぉぉぉ!?」


 その扉を開けた先には、俺の求めてやまない風景があった。

 そう、そこには簡易的だが風呂があった。

 広さも十分にあり5、6人は入れる。

 洗い場もあり、前世で見た田舎にある小さな温泉宿を思い出す。


「ダイン殿! 風呂がある! 頼んだとはいえ、まさかこんなに早くできるとは」


「どうですかな、ドワーフの技術力は? 腕さえ治ればこっちのもんですわい」


「すごいなっ! 感謝する!」


「それなら、この二人にも感謝を。水を汲んだり、古い家を解体して木材を運んだりしてくれたのだ」


「……お前たち」


「へへっ、どうですかい?」


「我々からの、主人への感謝の気持ちです」


 ……くっ、不覚にも感動してしまったではないか。

 いかん、このままでは泣いてしまう。

 ここは主人として威厳を保たてばならない。


「ふはは! よくやった! 褒めてつかわす!」


「「「ははっー!!!」」」


「何をコントしてるんです? あぁー! お風呂ですっ!」


「げげっ!? 嫌な奴に見つかった!」


 こいつのことだ、一緒に入るだのずるいだの言われるに決まってる。

 そんなことになったら、俺はのんびり入ることができない。

 ……別に混浴などに惹かれてはいない!


「むむっ! さては独り占めするつもりですね! そうはさせません! 私だって入りたい……一緒に入れば解決ですね!」


「ですね……じゃねぇぇぇぇ!! たまにはゆっくりさせろや!」


「兄貴! ここは俺達に任せて行ってくれ!」


「わしも手を貸すわい!」


「主人よ! 我々に任せて先に!」


 俺を庇うように、三人がユキノのは前に出る。

 その姿は、さながら魔王に立ち向かう勇者だった。

 彼らの犠牲を無駄にするわけにはいかない!


「私の邪魔をするんです? ……どうやら、死にたいみたいですねー」


「お前たち……ここを頼んだ! 死ぬんじゃないぞ!」


「「「おう!!!」」」


「あー! ご主人様! ……いいですよ、やってやりましょー!」


「「「ウォォォォォォ!!」」」


 外の激しい戦いに耳を塞ぎつつ、俺は脱衣所で服を脱ぎ、まずは石鹸で体を洗う。

 そして掛け湯をしてから、ゆっくりと念願の風呂に入る。



「く〜!! はぁ……しみるわ」


 まさしく、五臓六腑に染み渡るとはこのことだ。

 五日間の遠征の疲れが吹き飛ぶ。


「これは木で出来た風呂か……うん、いいものだな」


 とりあえず、仕組みや作りなどは後で詳しく聞けばいい。


 俺は考えるのを放棄し、ただただ湯船に浸かるのだった。


「そうか、これがスローライフってことか」


「邪魔ですよー!!」


「あぎゃぁぁぁ!?」


「うぉぉぉ!?」


「あばばばば!?」


 ……聞こえる叫びさえなければの話だが。


 お前たちの犠牲……無駄にはしないぞ(きりっ)





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