21話 トロール戦
……ったく、爆発音がするからきてみれば。
こんな都市の近くで瘴気が沸くとは。
しかも、戦ってる相手がこいつとはな。
赤いローブを身にまといとんがり帽子を被って立つ姿は、まさしく魔女そのものである。
「よう、久しぶり……ってわけでもないか。相変わらず、趣味の悪い服を着てんな」
「ア、アルス!? どうしてここに!? ……って、なんて言いましたの!?」
「いや、どっちかというとそれは俺のセリフなのだが? お前の服の趣味は置いといて……どうして、英雄の一人であり公爵令嬢のお前がいる?」
「そ、そんなの貴方に関係ありませんわ!」
「へいへい、そうかよ。んじゃ、とりあえず……こいつをぶっ殺せばいいんだな?」
目の前にはトロールがいる。
ったく、邪神を倒したのにまだこいつレベルが出てくんのか。
本当に、邪神は死んだのか? ……まあ、俺が考えることじゃない。
「デフェフェ……ブヘェェェ!!」
「ちっ! しっかり掴まってろよ!」
「きゃっ!?」
棍棒が振り下ろされたので、エミリアを抱き抱えその場を飛び退く。
あの棍棒に当たったら、こいつなんか潰れちまう。
「平気か?」
「は、はぃ……」
「あん? なんだ、しおらしくして……」
「し、してないですわ! ほら! 次がきますわよ!」
「わかってるよ!」
エミリアを抱き抱えつつも、棍棒による攻撃を避け続ける。
その見境のなさは、オークやゴブリン達もを潰していく。
「まあ、数が減る分には丁度いいか。それにしても数が多い、とりあえず減らすか——食い破れ、
「私も行きますわ——押しつぶせ、
「グボボボボ!?」
「ァァァァ!?」
かたや水の圧力に押しつぶされ、かたや炎の蛇に身を焼かれ魔物が消滅していく。
「「相変わらずえげつない」」
「……何かぶせてんだ?」
「……それはこっちのセリフよ」
「ひぃ!? お二人とも、余裕ですねぇ〜!?」
涙と鼻水を出しながら、ニールが俺達に並走している。
こっちの奴も相変わらずって感じか。
見た目はそばかすのある地味な女性だが、弓の腕はずば抜けてるのに。
「まあ、ここまでくれば心配ないからな。大分、都市に近づけたし」
「えっ!? 都市に近づいていいんですか!?」
「貴方がここにいるってことは、あの子がいるってこと。それなら心配はいらないわね……早速来たわ」
その時、一陣の風が吹く。
次の瞬間には、俺の隣にユキノがいた。
トロールにドロップキックをかまし、華麗に着地したようだ。
そのトロールといえば、転がって向こうに行っている。
「おっまたせしましたー! アルス様の愛人ユキノですっ——キラッ!」
「……これさえなきゃ、凄腕の助っ人なのだが」
「そして、愛人って……あなた! すでに本妻がいるの!?」
「いねぇよ! こちとら独り身だっつーの!」
「本妻がいないのに愛人が!? は、破廉恥ですわ!」
「ァァァ!! 相変わらず話が通じないやつ! というか暴れるな! 押し付けるな!」
さっきから詰め寄ってるから顔が近いし、身体に胸が押し付けられてる!
ずっと独り身の俺の息子が目覚めてしまう!
……何を言ってるんだ、俺は。
「あぁー! イチャイチャしてずるいですっ! というか、お姫様抱っこしてますし!」
「イ、イチャイチャなどしてませんわ! これは不可抗力ですの!」
「じゃあ、代わってくださいよぉー!」
「お三方とも余裕ですねぇぇ〜!? ふぇぇーん! あいつがきますよー!」
「うるせぇぇぇ!! 俺はねむいんだっツーの! ほら! そんなにしたいなら任せる!」
「きゃぁぁ!?」
「わわっ!?」
エミリアをユキノに投げ、俺は鞘に手を添えて前に出る。
これで、ようやくあいつが斬れる。
「デブェェ!」
「よっと……お前達は下がってろ!」
「仕方ないですねー」
「わ、わかりましたわ!」
俺が棍棒による攻撃を受けている間に、三人が後方に下がる。
これで、遠慮なく戦うことができる。
すでに魔力は溜まっているので、いつでも発動は可能だ。
「まずは周りの雑魚共から始末するか——
「ギャキャ!?」
「ブホォォォ!?」
上空から降り注ぐ火の槍によって、ゴブリンやオークが塵になる。
しかし、あいつだけには効いてないらしい。
むしろ、中途半端に効いて怒り狂っている。
無意味に棍棒を振り回し、あちこちの地面をへこましていた。
「ベヘヘェェゥゥ!」
「何言ってるかわからん。とりあえず、俺の安眠を邪魔するなら容赦はせん……かかってこい」
「バァァァァア!」
どしどしと音を立てて、トロールが迫ってくる。
残りの魔力も少ないし、あいつには魔法が効きづらいし頑丈だ……ならば、アレを使うしかあるまい。
俺は精神を集中しつつ、奴が間合いに入るまで待ち……。
「ゲヘェェェ!」
「居合い——火龍一閃!」
相手の棍棒が振り下ろされる前に、腹に向けて居合いを放つ!
刀により腹が裂け、その裂けた部分を炎が焼いていく。
いくら魔法耐性があるとはいえ、これならばひとたまりもないだろう。
「ギェェェェ!?」
「そのまま燃え尽きるがいい」
「ァァァァ……ア、ア……」
「ふぅ、消え去ったか……っ!」
次の瞬間、身体から力が抜けていく。
そのまま、俺の意識は暗闇の中に沈んでいくのだった。
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