第13話 悪役は領主になる

俺は歓声する者達を背にして、ユキノを引っ張っていく。


そして、ひと気のない裏路地に連れて行く。


「きゃっ、こんなところに連れてきてどうするつもりですかー? ドキドキ……」


「ドキドキじゃねぇ、一体どういうつもりだ?」


「えへへー、ごめんなさい。だって、ああした方がうまくいきますよ」


「ふむ? 何か考えがあってやったんだな?」


俺とて理由があるなら聞くくらいの度量はある。

ひとまず落ち着いて、ユキノの話をを聞くことにした。


「ええ、もちろんですよー。まずは、ご主人様はのんびり暮らしたい……これは合ってます?」


「ああ、合っている。俺はもう、殺伐した生活とはおさらばしたいんだよ。山賊退治は、そのためにやったことだ」


「ふんふん、そうですよねー。でも、このままだとのんびりできませんよ? 領地を回す人、警備をする人、食材を取りに行く人など……恩を感じている彼らがいれば、それらをやってくれるはずです」


「……ククク、そういうことか。奴らを利用して、俺はのんびり過ごすと。確かに、それはいい考えだ」


「でしょー? もっと褒めてください!」


「よしよし、良い子だ」


俺はユキノの頭を乱暴に撫でる。


「ちょっ!? もっと優しくですよー!」


「ははっ! すまんすまん! よし! そういうことなら話は早い! 奴らのところに戻るぞ!」


「はーい……もう、ご主人様ったらちょろいんだから。まあ、そこが良いところなんだけど」


「ん? 何か言ったか?」


「いえいえー、ではいきましょー」


解放した者達のところに戻ると、何やら話し合いをしているようだ。


「あっ、アルス様!」


「お戻りになられたぞ!」


「あぁー、何を話してたんだ?」


「我々が、アルス様のために何ができるかを話し合っておりました」


「なるほど……それでは、俺の願いを言おう」


「皆の者、静粛に! アレス様のお言葉があるそうだ!」


その言葉に、その場にいる全員が膝をつく。

なんか、この感じも懐かしいな。

王都には部下がいて、こんな風にされたこともあったけ。

……あいつらも、元気でやってると良いが。


「コホン……先ほど、側近であるユキノと話して決めた。俺はこの見捨てられた地を再建する! もう、そのように呼ばせたりしない!そのために諸君達の力を貸してくれ!」


「「「ウォォォォォォ!」」」


「なんでも言ってください!」


「頑張ります!」


しめしめ、これでよし。


あとは指示を出して、俺は後ろで踏ん反り返っていれば良い。


そしたら、念願のスローライフの始まりだ。



……ふふ、これでよしと。


横で宣言するご主人様を見ながら、密かにほくそ笑む。


ご主人様は、こんなところで終わる器じゃない。


ヴァンパイア族の女の使命は、強い男の子を孕むこと。


そのために私は、里を飛び出したんだから。


もちろん、それだけじゃないんだけど。




当時の私は、自分の実力を過信していた。


まだ若いとはいえ、里では大人にも勝ったことがあったから。


ただ、多勢に無勢で……人族に捕まってしまった。


そして、いよいよ身の危険が迫ったとき……あの方は颯爽と現れた。


「何をしている? この下衆共が」


「なんだ貴様——ァァァ!?」


「ヒィ!? 黒い炎!?」


「こ、こいつ、黒炎の王太子アルスダァァァァ!」


「下衆共が消え失せろ——黒炎陣」


黒い炎が男達を取り囲んで……文字通り、チリすらも残らずに消えた。

その圧倒的な魔力と、その隙のない立ち振る舞いに私の目は釘付けになる。

きっと、この人に出会うために今日まで生きてきたんだと。


「無事か? ったく、ルート通りに助けるはずが……」


「えっと……ありがとうございました! それでルートってなんですか?」


「あぁー、その辺りのことは君には説明しないとな。とりあえず、ここから離れるぞ。俺はまだ、目立つわけにはいかない」


その後、私は説明を受けた。

正直言ってよくわからないけど、ご主人様にはこの世界で決められた役割があるとか。

そのために、私の力が必要だと。

無論、私に断る理由はなかった……だって一目惚れをしてたから。

しかも後から知ったけど、本来なら助けるのは私が襲われた後だったらしい。

それでも、ご主人様は放って置けなかったと。


「ふふ、お優しい方ですから」


「ん? 何か言ったか?」


「いえいえ、出会った頃を思い出しただけです。あの時は、本当にありがとうございました」


「ああ、あの時ね……ったく、こんなことになるとは」


そう言い、照れ臭そうに頬をかきました。

最初はクールな感じで素敵と思ってだけど……照れ屋さんで素直じゃないところも、今では可愛らしいです。

多分、これが人を好きになるってことなんだと思う。


「ほんとですよー。まあ、私は楽しいですけどね」


「へいへい、そいつは良かった」


「さあ! スローライフ?目指して頑張りましょー!」


「……だな、ここから始めるとしよう」


私はもちろん、ご主人様の願いも叶えるつもりだ。


でも、やっぱり……ご主人様が犠牲になる結末は我慢できない。


だから、私なりのやり方で……ご主人様を、もう一度頂点に立たせてみせる。







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