第12話 英雄爆誕

まずは、牢屋に繋がれていた者達の元に向かう。


人族、獣人族、エルフ族、ドワーフ族と様々な種族がいる。


普通なら揃うことなど有り得ないが、流石は大陸中央にある場所か。


「フハハッ! 待たせたな!」


「あ、あの? 貴方は……」


「我が名はアルス! あのクソ貴族……いや、山賊達は始末した!これで、お前達を縛るものはない!何処へでも自由にいくが良い!」


「わ、我々を救ってくれるのですか? 新しく頭が変わるだけじゃなく……」


「俺は救ってなどいない、ただ気に食わない相手を消しただけに過ぎん。そして俺にはそんな趣味はない。ほら、鎖を外してやるから何処へでも行け」


そして、ユキノで鎖を外していくと……鎖に繋がれていた者達が俺の脚にしがみつく!


「あ、ありがとうございますぅぅ!」


「ウォォォ!! 感謝いたします!」


「ァァァァ! 自由だァァァァ!」


「わ、わかったから落ち着け!」


しかし、こいつらの気持ちも少しはわかる。

俺もある意味で、この世界の奴隷だった。

生まれた頃から役割が決まっていて、自分の意思など存在しない。

こいつらも俺も、これからは自分の意思で生きていける。

その結果がどうであろうと、自分の意思なら仕方ないと諦めはつく。


「しかし、これからどうしたら……」


「そもそも、我々は故郷を追われて……」


「帰る場所もありません……それに、もう足がない」


「これでは、まともに働くことも……」


さっきとは打って変わり、暗い雰囲気になる。

確かに四肢を失っている者もいて、これでは日常生活に支障が出るだろう。

それに、俺と同じで帰る場所もない。


「ご主人様」


「ん? どうした?」


「あれを試したらどうです? 草木を再生させた蒼炎ですよー。それに、フーコを癒しましたし」


「なに? しかし足を生やすとなると……試してみる価値はあるか」


俺は片足を失っている狼系獣人の男に近づく。

そして、その患部に手を当て……。


「な、なにをする?」


「平気だ、じっとしてろ——蒼炎よ、この者の傷を再生したまえ」


自然と言葉が出てきて、蒼炎が患部に触れ光を放つ!

そして、光が収まった時……足が再生していた。


「お、俺の足が……」


「よし、成功だな。どうやら、これは再生の力——うおっ!?」


「感謝する! いや! 感謝いたします!」


「あいたたっ!? わかったから抱きしめるな!」


「ウォォォォォォ!!」


「ダァァァァァ! 話を聞けっての!」


その後なんとか離れた男が、今度は土下座の姿勢をとる。


「申し訳ありません!」


「いや、いい。さあ、次々やっていくぞ」


俺は四肢を失った者達を次々と再生させていく。

基本的に男ばかりなので、特に問題なく終わる。

女性の方は酷いことになっていないので、患部に触れずに蒼炎で癒した。

……基本的に、女性は苦手なのだ。


「ふぅ、こんなものか」


「「「アルス様! ありがとうございました!」」」


「ええい! だから土下座をするな!」


「「「はっ!」」」


癒した者たちが、同じ姿勢で敬礼をする。

この慣れた感じは、元戦闘員だったのだろう。

追放されてからか、追放される前に四肢を失ったかはわからないが。


「さあ、これでいいだろう。とっとと、好きなところに行くがいい」


「アルス様はどうなさるので?」


「俺はこの地を拠点とするつもりだ」


幸い、人が住んでいただけあって設備は充実している。

これなら、すぐにでも生活を始められるはず。

ここからが、俺のスローライフの始まりだ。


「おおっ! やはりっ!」


「聞いたか! 皆の者!」


「アルス様が新しい領主となってくれるそうだっ!」


「ならば、我々もこのままアルス様のお手伝いをしようではないか!」


「はい? ……いや」


「「「ウォォォォォォ!」」」


俺の声は、彼らの歓声にかき消された。

俺は一言も、そんなことは言っていないのだが?


「アルス様万歳!」


「我々を導いてください!」


「このご恩をお返ししたいです!」


「だから待てって……聞いちゃいねえ」


「ご主人様、ここは私に任せてください」


「ユキノ……すまん、こいつらに言ってやってくれ」


俺はただ、この地でのんびり過ごしたいのだと。

いい加減、殺伐とした生活とはおさらばしたいと。


「みなさん! 静粛に! 私はヴァンパイア族であるユキノ! このアルス様に使える忍びである!」


「そういえば、何故ヴァンパイア族が?」


「最強の亜人と言われ、誰にも従うことがないと言われた種族なのに。少数精鋭で、滅多に人前に現れることはない」


「いや、確か……そのかわりに、主人と認めた方には忠誠を誓うとか。そして、その方の覇道を叶えると」


「やはり、それほどの人物……! 」


……待て待て、そんな設定は知らないのだが?

最強のキャラの一人ってことしか知らないのだが?


「ここにいるお方は、この地を救いに来ましたっ! ここを拠点とし、この地を治めるのです! みなさんも、協力してください!」


「お、おい!?」


「「「ゥゥゥ……ォォォォォ!!!」」」


「やはり!」


「そうだったのですね!」


「協力いたします!」


……どうしてこうなったァァァァ!?






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