第5話 体の変化
……酷いな。
馬に乗って先程から荒野を移動しているが、本当に何もない。
道の整備もされてないし、草木も少ない。
「本当に見捨てられた土地みたいですねー」
「確か気候の変動があったとか。あとは、瘴気が多くて魔物の数が増えたことも原因だな」
ここら辺は気温が一気に下がる。
イメージとしては王都が関東だとしたら、ここは東北といった感じだ。
自然が減ったのもあって、この数十年でその状態になったとか。
結果として、これ以上被害を広げないために辺境は封鎖した。
ついでに流刑地としたが、無論希望者は全員王都側に移動した後だ。
「邪神を倒したら、瘴気も消えるかと思ったんですけどねー」
「うーん、そうなんだよなぁ。俺も、その辺りのことはわからないし。ただし、減ってるという報告はあったみたいだ」
「なるほどー、残滓が残ってるって感じですかね?」
「そうかもしれない。まあ、後は地道に潰していくしかないだろ」
「そうですねー」
邪神が生み出したとされる魔物は、突然出現する瘴気から現れる。
そして、無差別に生き物に襲いかかる。
倒すと霧のように消えるので、正確には生き物ではないとか。
「とりあえず難しい話や、それらは弟に任せるとして……」
「ご主人様、止まってください。何か、こちらに向かってきますね」
「……ほんとだな。ひとまず、馬から降りておこう」
砂煙をあげながら、こちらに何かが向かってきていた。
そして、徐々に見えてきた……この世界に住んでる生き物、魔獣であるブルファンだ。
イノシシに似た姿だが、体長は一メートル以上あり、鋭い牙と突進で人くらいは簡単に潰せる。
しかも何でも食べる大食漢で、見つけた場合はいち早く倒す義務がある。
「ユキノ、すまんが任せる」
「えー? ご主人様が戦えばいいじゃないですか?」
「俺にはあの頃の力はないんだよ。闇魔法と同時に、ボスとしての役目も終わったしな。この先は怪我したら普通に死んじゃうと思うし。何より、まだ自分の状態を確認してないし」
「あぁー、そういえばそんな話を聞いたような……ププッ、役立たずのご主人様」
「おい? 聞こえてるからな? 言っておくが、まだ剣の腕は鈍ってない。俺は無駄に戦うのが嫌なだけだ」
「はいはい、仕方がないですねー」
クリアするまでの俺は、主人公である弟に倒されるまで強制的に生き残る設定だった。
何度か死にかけたこともあったが、その傷は闇の力が治すし。
多分、物語の強制力だと俺は思っている。
しかし、それも無くなった今……それを試す気にはなれない。
あの程度に苦戦はしないが、俺は出来るだけ楽がしたいのである(キリッ)
「ブルルッー!」
「きたぞっ!」
「はーい——よっと」
「ブルァ!?」
突進してきたブルファンの首を、横に避けつつもすれ違い様に鉤爪が切り裂いた。
ユキノの武器は収納が自在可能な特殊な鉤爪で、腕の甲に装着されている。
そして倒れてビクビクした後……動かなくなる。
「これで良しっと」
「相変わらず見事な腕だな」
「いえいえー、これくらいは簡単ですよ……とりあえず、ご飯にしません? 私、お腹が空きました!」
「それもそうだな。おそらく、この感じだとたどり着くのも大変だし食料も貴重だろう」
「ですです! それじゃ、準備しちゃいまーす!」
テンションが上がったユキノがテキパキと準備を進めていく。
冒険者でもある彼女は慣れた手つきで、木の棒や葉っぱなどを集めている。
俺は馬を見つつも、自分の仕事をすることにした。
積んであった道具を使って、簡易的なテントを設置する。
「ありがとうございます。あとは、火もお願いしますねー」
「ああ、わかった。さて、火を出すか……果たしてどうなるか」
俺は闇属性と炎属性の使い手で、闇の炎を得意技としていた。
……中二病とかいうな! わかってるし!
「とにかく闇が抜けた今、炎が出せるかどうか……うおっ!?」
手に炎をイメージすると、蒼い炎が出てきた。
それは、俺が転生してから見たことないものだった。
「あれれー!? それってなんです!?」
「わからん! いつも通りに火を出そうとしたら出てきた!」
「うわぁ……綺麗ですねー」
「お、おい? あんまり近づく熱いぞ?」
「あっ、そうで……あれ? これって全然熱くないですよ?」
「なに? 自分の魔法だから俺は熱くはないが……ユキノともなると変だな」
そもそも、この蒼い炎はなんだ?
いわゆる、赤色から高温になった炎とは違う気がする。
「とりあえず、私が用意した木や草に投げてみません?」
「……それもそうだな」
ゆっくりとボールサイズの火の玉を投げてみるが……火がつくことはなかった。
何回か試してみるが、うんともすんとも言わない。
「威力は充分なはずだが……なぜ、燃えない?」
「不思議ですねー? 全然熱くもないですし。いよいよ、本当に役立たずですかね?」
「ほっとけ! ぐぬぬっ……こうなったら赤い炎を出せば良いんだろ! いでよ炎ォォォ!」
「きゃっ!?」
「うおっ!?」
すると、掌から炎が出て空に舞い上がる!
その高さは十メートルを超えていた。
明らかに込めた魔力の量が少ないのにもかかわらず。
「だ、出し過ぎですって! あっ、今の少しエッチですね?」
「んなこと言ってる場合か! ……ふぅ、収まったか」
「でも、ちゃんと出ましたね? 今度はきちんと熱かったですよ?」
「そうなると、あの蒼い炎はなんだったんだ?」
「そんなのは後にしましょー。寒いし、お腹が空きました」
「……そうだな、日が暮れる前にやるとするか」
腹は減ってはなんとやらだし。
俺はひとまず疑問を置いて、食事の支度をするのだった。
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