第4話 追放の地へ

これ以上、誰かに来られては困るのでささっと城を出て行く。


そして用意された馬車に乗り、誰からも見送られることなく城下町を進んでいく。


窓から眺める人々の景色は、活気にあふれていた。


「……平和になったな。いや、俺が言えたセリフじゃないんだけど」


「それはそうですねー。なにせ、国を混乱させた人ですから」


「これでも頑張ったんだぞ? 民に死人は出ないようにしたし、あくまでも貴族同士だけで済ませた。それに言い方はあれだが、不穏分子を俺側に抱き込んだし」


「知ってますよー。私がどれだけ苦労したかと……感謝しても良いですよ?」


「へいへい、感謝してますよ」


「むぅ……扱いが雑ですね」


「いや、本当に感謝してるさ」


実際にユキノのお陰で助かった。

軽い身のこなしで音もなく忍び寄るし、夜目もきくから斥候として優れている。

その情報のおかげで、俺は上手く立ち回ることができた。

国に巣食う腐った貴族を俺の方につくように根回しをしたり。


「な、なら良いんですけど……それより、良いんです? 他の方々には挨拶をしないで……私以外にも、何人かついていきたいって人はいると思いますよー?」


「なんだ、わかってるじゃないか。挨拶なんかしたら、ついて来ようとしてしまう。俺が拾ったヴァンパイア族のお前はともかく、他の奴らには家族がいる。わざわざ、俺に付き合わせることもない」


「まあ、ご主人様がいいなら良いですけど……孤児院にもいかないのですか?」


「俺が行ったら迷惑になるからな。それに、あれは偽善に過ぎない」


国を争いに巻き込んだんだ、どうしたって犠牲者は出る。

それが親を亡くした孤児達や、行き場をなくした者たちが。

その罪の意識から逃れるために、密かに孤児院に行ったり寄付をしたりしていた。


「そうですけど……まあ、良いです」


「ああ、これで良いんだよ。あとは、ジークに任せるとするさ」


そうして馬車は進み、静かに王都を発つのだった。



そして、一週間かけて大陸中央にある辺境の地ナイゼルに到着した。


通称流刑地、もしくは見捨てられた土地とも言われる。


国外追放された者や、国から出て行きたい者、もしくは犯罪者達がここに送られたりする。


関所には高い壁があり、こちらと向こう側を断絶していた。


ここは封印される前の邪神が支配していた場所と言われ、荒れ果てた土地となっている。


「では、我々はこれで」


「ああ、ご苦労だった」


「へっ? え、ええ……それでは」


俺の言葉に驚きつつも、兵士達が下がっていく。

そして、静かに向こう側の門が閉じられた。


「あらら、お礼を言われて驚いてましたよ?」


「そりゃ、そうさ。俺は傲慢な振る舞いしかしてなかったし。だが、もう我慢する必要もない。これからは、俺らしく生きるとするよ」


「それもそうですねー。んじゃ、私とイチャイチャして子作りします?」


「しないし!」


「しないんです? それは残念ですねー」


「ったく……そもそも、俺は子供も作らんし結婚もしない。そんなことをしたら、争いの種になるだけだ」


まだ弟は結婚もしていない。

王位継承権を剥奪されたとはいえ、俺は罪人だ。

そもそも……前世からのトラウマで女性とそういう関係になるのが怖い。


「むぅ、確かに……仕方ないですね、しばらくは待つとしましょう。あれ? ご主人様? なんか、様子が変ですけど……」


「うん? 何が……くっ!?」


「へ、平気ですか!?」


ぜ、全身が熱い……! 身体が燃えるようだ!

なんだ? 何かが身体から出て行こうと……っ!!

次の瞬間、何事もなかったかのように痛みが引いていく。


「な、なんだったんだ?」


「……ご主人様、魔力の質が変わっている気がします」


「なに? ……どういうことだ?」


「ちょっと待ってくださいね……確かに変わってます」


ヴァンパイア族の特殊能力の一つに、魔力の流れを見ることがある。

それによって、俺の魔力の変化に気づいたらしい。


「では、試してみるか……闇魔法が発動しない」


「えっ? そうなんですか?」


「ああ、少なくとも邪神を倒した後も使えたんだが……」


「このタイミングでっていうのが気になりますねー」


「まあ、いいか。これから使う機会があるわけでもない」


「それもそうですねー。あれは影で動くために必要でしたから」


当時は闇魔法を駆使して、暗闇に紛れて活動とかしていた。

それこそ、暗殺なんかにも使っていたし。

……もしかしたら、たった今エンディングを迎えたのか?

追放された地に来て、本当の意味で悪役転生が終わったのでは?

だから、闇魔法が消えたと……一応、説明はつく。


「ふははっ! そうか! これで本当に解放されたのか!」


「はいはい、よかったですねー。それで、これからどうします?」


「コホン……予定通りに辺境都市ナイゼルにいくさ。ひとまず、そこが領地の役割を果たしてるって話だ」


「では、レッツゴー!」


「……ありがとな」


「な、なんです?」


「いや、なんでもない。さあ、行こうか」


きっと、一人だったら心細かっただろう。


本来の悪役だったら、この何もない荒野を一人で歩いていたに違いない。


だが、今の俺はゲームの悪役とは違う……この世界に生きるただの人間だ。


これからが、俺の本当の異世界転生の始まりだ。





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