第4話 追放の地へ
これ以上、誰かに来られては困るのでささっと城を出て行く。
そして用意された馬車に乗り、誰からも見送られることなく城下町を進んでいく。
窓から眺める人々の景色は、活気にあふれていた。
「……平和になったな。いや、俺が言えたセリフじゃないんだけど」
「それはそうですねー。なにせ、国を混乱させた人ですから」
「これでも頑張ったんだぞ? 民に死人は出ないようにしたし、あくまでも貴族同士だけで済ませた。それに言い方はあれだが、不穏分子を俺側に抱き込んだし」
「知ってますよー。私がどれだけ苦労したかと……感謝しても良いですよ?」
「へいへい、感謝してますよ」
「むぅ……扱いが雑ですね」
「いや、本当に感謝してるさ」
実際にユキノのお陰で助かった。
軽い身のこなしで音もなく忍び寄るし、夜目もきくから斥候として優れている。
その情報のおかげで、俺は上手く立ち回ることができた。
国に巣食う腐った貴族を俺の方につくように根回しをしたり。
「な、なら良いんですけど……それより、良いんです? 他の方々には挨拶をしないで……私以外にも、何人かついていきたいって人はいると思いますよー?」
「なんだ、わかってるじゃないか。挨拶なんかしたら、ついて来ようとしてしまう。俺が拾ったヴァンパイア族のお前はともかく、他の奴らには家族がいる。わざわざ、俺に付き合わせることもない」
「まあ、ご主人様がいいなら良いですけど……孤児院にもいかないのですか?」
「俺が行ったら迷惑になるからな。それに、あれは偽善に過ぎない」
国を争いに巻き込んだんだ、どうしたって犠牲者は出る。
それが親を亡くした孤児達や、行き場をなくした者たちが。
その罪の意識から逃れるために、密かに孤児院に行ったり寄付をしたりしていた。
「そうですけど……まあ、良いです」
「ああ、これで良いんだよ。あとは、ジークに任せるとするさ」
そうして馬車は進み、静かに王都を発つのだった。
◇
そして、一週間かけて大陸中央にある辺境の地ナイゼルに到着した。
通称流刑地、もしくは見捨てられた土地とも言われる。
国外追放された者や、国から出て行きたい者、もしくは犯罪者達がここに送られたりする。
関所には高い壁があり、こちらと向こう側を断絶していた。
ここは封印される前の邪神が支配していた場所と言われ、荒れ果てた土地となっている。
「では、我々はこれで」
「ああ、ご苦労だった」
「へっ? え、ええ……それでは」
俺の言葉に驚きつつも、兵士達が下がっていく。
そして、静かに向こう側の門が閉じられた。
「あらら、お礼を言われて驚いてましたよ?」
「そりゃ、そうさ。俺は傲慢な振る舞いしかしてなかったし。だが、もう我慢する必要もない。これからは、俺らしく生きるとするよ」
「それもそうですねー。んじゃ、私とイチャイチャして子作りします?」
「しないし!」
「しないんです? それは残念ですねー」
「ったく……そもそも、俺は子供も作らんし結婚もしない。そんなことをしたら、争いの種になるだけだ」
まだ弟は結婚もしていない。
王位継承権を剥奪されたとはいえ、俺は罪人だ。
そもそも……前世からのトラウマで女性とそういう関係になるのが怖い。
「むぅ、確かに……仕方ないですね、しばらくは待つとしましょう。あれ? ご主人様? なんか、様子が変ですけど……」
「うん? 何が……くっ!?」
「へ、平気ですか!?」
ぜ、全身が熱い……! 身体が燃えるようだ!
なんだ? 何かが身体から出て行こうと……っ!!
次の瞬間、何事もなかったかのように痛みが引いていく。
「な、なんだったんだ?」
「……ご主人様、魔力の質が変わっている気がします」
「なに? ……どういうことだ?」
「ちょっと待ってくださいね……確かに変わってます」
ヴァンパイア族の特殊能力の一つに、魔力の流れを見ることがある。
それによって、俺の魔力の変化に気づいたらしい。
「では、試してみるか……闇魔法が発動しない」
「えっ? そうなんですか?」
「ああ、少なくとも邪神を倒した後も使えたんだが……」
「このタイミングでっていうのが気になりますねー」
「まあ、いいか。これから使う機会があるわけでもない」
「それもそうですねー。あれは影で動くために必要でしたから」
当時は闇魔法を駆使して、暗闇に紛れて活動とかしていた。
それこそ、暗殺なんかにも使っていたし。
……もしかしたら、たった今エンディングを迎えたのか?
追放された地に来て、本当の意味で悪役転生が終わったのでは?
だから、闇魔法が消えたと……一応、説明はつく。
「ふははっ! そうか! これで本当に解放されたのか!」
「はいはい、よかったですねー。それで、これからどうします?」
「コホン……予定通りに辺境都市ナイゼルにいくさ。ひとまず、そこが領地の役割を果たしてるって話だ」
「では、レッツゴー!」
「……ありがとな」
「な、なんです?」
「いや、なんでもない。さあ、行こうか」
きっと、一人だったら心細かっただろう。
本来の悪役だったら、この何もない荒野を一人で歩いていたに違いない。
だが、今の俺はゲームの悪役とは違う……この世界に生きるただの人間だ。
これからが、俺の本当の異世界転生の始まりだ。
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