39話 不安

その日の夜、皆が寝静まった頃……物音がしたので起きる。


天幕を出ると、ユキノが焚き火の前でストレッチをしていた。


その横では火の番担当の獣人が控えている。


「どうした? 柔軟体操なんかして」


「あれ? 起こしちゃいました?」


「いや、ふと目が覚めただけだ。んで、どこにいく?」


「あら? わかっちゃいました?」


「そりゃ、そうだ」


怠け者のこいつが、柔軟体操なんかしてるくらいだ。

いくら寝なくても良い種族とはいえ、こんな時間にやることではない。


「んー、暇なんで探索に行こうかと。私、最近良いところないですしねー」


「なんだ、そんなことを気にしていたのか」


「それはそうですよー。アイザックさんやエミリアや、ニールまでいますから。ここらで、ご主人様に良いところ見せないと」


「たしかに、狩りでも負けたしな?」


「むぅ……地味に悔しいですね」


「だが……正直な話、無理はしなくて良いぞ?」


こいつもなんだかんだで特殊だ。

俺に助けられたと思ってるから、俺の役に立たねばと思ってる。

しかし、実際に助けられてきたのは俺の方だ。


「はい、それはわかってますよー。でも、私自身が嫌なので」


「そうか……なら止めはしない。気をつけて行ってこい」


「えへへ、了解です! それじゃあ、行ってきまーす」


タタタッと駆けていき、暗闇の中に消えていく。

俺がついていくことも考えたが、夜目が効くユキノからしたら足手纏いになるだろう。

何より忍びの者だ、気配断ちや足音を消すのは造作ない。


「やれやれ、部下達がやる気だと俺も頑張らないといかんな」


「コーン?」


「おっ、フーコも起きたのか? さては寝過ぎたな?」


「コンッ」


「んじゃ、俺の話し相手になってくれるか?」


頷き、火の前にいる俺の膝に座る。

護衛の獣人はいるが、カリオンのせいで俺に心酔しているので話し相手にはならない。

有り難い話ではあるので、好きにはさせているが。


「コン?」


「んー、どうしたもんかなと思ってさ。俺は役目も終わったし、これからは好きにのんびりと過ごしたいって思ってた。ただ、そうもいかないみたいだ。流石にこの状態を見て、放っておくわけにもいかない」


本当は適当な場所に行き、そこで細々と暮らそうと思っていた。

ただ、実際に困窮している人々を見てしまったし、俺には蒼炎が使えることがわかってしまった。

これにより、俺には人を救うことが可能になった。

すると、フーコがスリスリしてくる。


「うん? どうした?」


「コンッ」


「……そうだな、蒼炎がなければフーコも生きてはいないか」


ならば、この力にも意味があったというものだ。

ただ、少しばかりの不安がある。

……俺は、本当にゲームクリアをしたとかということだ。


「この力を手にした理由はなんだ?」


もし何かまだあるとしたら……それもあって、俺は領地開拓に踏み切った部分がある。

ただのんびりと過ごしいて、いきなり事が起きたらどうしようもない。

悪役を全うした俺は、事前準備の大切さを知っている。


「そうなると、やはり開拓を出来るだけ早く進める必要があるか」


そもそも、本編ではアスカロン王国を中心にしか描かれていない。

北には帝国、南西にはエデン、西の果てには教会があるというのに。

もしかしたら、


「もし、そうだとしたら……起きてからでは遅い」


「コン?」


「いや、なんでもない。そのまま大人しくしてろ」


「……ククーン」


フーコを撫でて、心を落ち着かせる。

もし、この先に何か続きがあるとするならば……そこは未知の世界だ。

今までのように、人を死なずにはいかない可能性もある。


「だが、俺にはこの力……蒼炎がある」


この力でもって、大切な人達を守るとしよう。


そして、体制を整える……何が起きてもいいように。


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