第2話 隠しキャラユキノ
俺がいそいそと準備をしていると、後ろによく知る気配を感じた。
振り向くと、そこにはユキノがいた。
銀髪ポニーテールで、忍び装束を身につけている。
スタイルも良く、その立ち姿は見慣れている俺でも目を奪われるくらいだ。
ヴァンパイアいう種族で恐ろしいほど整った容姿、身長も俺より低いが百七十くらいはある。
頭も良く剣技に優れ、相変わらず隙がないって感じだ。
「ご主人様」
「おい、音もなく入ってこないでくれ」
「いえいえー、きちんとドアから入ってきましたから」
「そういうことじゃないんだけど? 俺、一応主人だからね?」
「それとこれとは話が別ですよー」
相変わらず、ノリが軽いやつだ。
まあ、堅苦しいのは嫌いだからいいけど。
「いや、いいけど……というか、いつからいたんだ?」
「うーんと、ご主人様がベッドの上で笑ってる時からです」
「……最初からじゃねえか! えっ!? 何してんの!?」
「いえ、気配を消して眺めてましたよ?」
そう言い、何故がドヤ顔をしていた。
相変わらず、主人を舐めきっている従者である。
「いや、褒めてないからな? というか、いたんなら荷物整理に付き合ってくれ」
「そんなことより」
「そんなことって言った?」
「はい、そんなことですよー」
……まあ、良いや。
こいつは、俺の言うことなんか聞きゃしないし。
……それを望んだのも、俺自身だしな。
破滅する役割を担う俺は、ストレスでどうにかなりそうだった。
そんな時助けてくれたのも、こいつの軽いノリだった。
「へいへい、好きにしな……んで、話はわかるな?」
「はい、予定通りにご主人様が追放されたことは」
ユキノには、俺の前世の話や破滅について教えてある。
流石に協力者の一人も作らずに、このルート回避はできなかった。
他の者が信用できないというわけではなく、ユキノが隠しキャラだったからできたことだ。
物語に直接関わりがないので、イレギュラーな出来事が起こらない貴重な人材だった。
あとは、数名だけには教えてある。
「そういうこと。とりあえず、ささっと王都を出て行くから。温情として、自主的に出て行って良いってさ」
「私は納得いってませんけど……まあ、仕方がないですねー」
「そうそう、こうしないと世界そのものが危なかったんだ。んで、ユキノはどうする?」
「……どういう意味ですか?」
「いや、そのままの意味だよ。もしあれなら、ここで解放って形にするか?」
そもそも、ヴァンパイア族は人族に忌み嫌われる種族だ。
人の血を吸うとされ、それによって眷属としてしまう能力があるとか。
それは真祖と呼ばれる初代のみで、その後に生まれた者には能力はない。
ただし、それを信じる者も少なく迫害されてきた歴史を持つ。
しかし、仮にも世界を救った立役者の一人だ。
少なくとも、迫害されるようなことにはなるまい。
「な、何故ですか!? ……破滅ルート?を避けた今、私はもうお役御免ですか?」
「いや、そんなことはない。そりゃ、ついてきてくれたら助かるが……」
あの時の俺は不安で、そのためにこの子を利用した。
だが、もう解放してあげても良いだろ。
こんな俺のために、今まで頑張ってくれたし。
「なら断ります! 私は貴方のお側にいますからね!」
「そう? まあ、それならそれで助かる」
まあ、本人が良いって言うなら話は別だ。
ぼっちは寂しいので、心強いのは間違いないし。
「へっ?」
「どうした? ぽかんとして」
「い、いえ! なんでもありません! まったく、何を言うかと思ったら……」
「いや、聞いてみただけだ。ユキノなら、もう一人でも平気だと思ってな。それに、ここを離れることになる。そして、俺は二度と戻ってはこれまい」
ユキノの強さは相当で、場合によっては最強クラスだ。
それだけ強ければ、襲われても人族に捕まる事もない。
「確かに、もう一人でも平気ですけど……ご主人様は生活能力皆無ですので、放ってはおけません。それとも、炊事洗濯掃除に料理などもできるんです?」
「ぐぬぬっ……はい、できません」
「そもそも、らしくないですよ。私が必要なら、命令して下さればいいのです」
「んじゃ、引き続きよろしく頼む」
「えへへ、私にお任せくださいねー」
そう言うと……満面の笑みを浮かべる。
俺としては開放した方が良いかと思っていたが……。
やれやれ、どうやら縁は切れないらしい。
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