22話 その後
……なんだ? めちゃくちゃ柔らかい?
しかも、いい匂いまでしてくる?
……それと同時に、何やらやかましい声もしてきた。
「ん……ここは?」
「お、起きましたわ! よかった……もう、心配したんですの」
「ご主人様ー! 良かったですー!」
「ユキノにエミリアか……ん? どういう状態だ?」
目の前にはユキノの顔と、エミリアの顔がある。
二人共タイプの違う美少女なので、体温が上がってくる。
どうやら、二人を下から見上げているらしい。
……おっぱいがいっぱいだな。
「えっと……膝枕をしてますわ」
「ズルがないように交代で膝枕をしてましたー」
「ず、ズルとかではありませんわ! これは私のせいだから……そう! 責任感ですわ!」
「えー? その割には私がやろうとしたら邪魔したくせに〜」
「……よくわからんが。とりあえず、起きるとするか」
この気持ち良さはやばい。
意識をすると、顔が熱くなってきてしまう。
ユキノはともかく、エミリアは自覚がないタイプだから尚更だ。
自分が男にどう見られる姿をしているのかわかってない。
「平気ですの? 顔が赤いですわ……」
「だから顔が近いって。ほら、ささっと離れろ」
「そ、そ、そうですわね!」
「むむむっ、愛人の座が危ないですね」
「だから、そもそも本妻がいないっての」
「べ、別に私が……」
その時、俺の腹が盛大な音を立てた。
そういえば、めちゃくちゃ腹が減っている。
「ちょっとアルス? レディーの前ではしたないですわ」
「仕方ないだろ。お前達が来るまで、俺は動きっぱなしだったんだよ。昼寝をするタイミングで来やがるし」
「……迷惑でした?」
「あん? いや、そんなことはないが……そもそも、何しにきたのか知らんし」
「それは……」
「まあまあ、とりあえずご飯にしましょ。私もお腹ペコペコですしー」
俺とエミリアは顔を見合わせて頷く。
どうやら、エミリアもそうだったらしい。
食堂に行くと、アイザックが出迎えてくれた。
「兄貴ィィィ! すまねぇ! 兄貴が戦ってると知らずに!」
「だから抱きつくなって! 仕方ないさ、お前は建物内の厨房にいたんだし。音にに気づかないのも無理はない」
「へいっ、すっかり料理に夢中になってましたぜ。おっ、あんたがエミリアさんかい? 俺は兄貴の一番の部下であるアイザックってもんだ。すまないが礼儀はないのは勘弁してくれや」
「随分と厳つい方ですわね……よろしくですわ。その辺りは気にしないので構いません」
こいつはこう見えて、意外と平民にも優しい。
見た目はまんま傲慢な貴族って感じだが、中身はそういうわけではない。
子供好きだし、世話焼きでもある。
「おっ、話のわかる姉ちゃんだ。流石は兄貴の恋人候補ってやつか。うんうん、貴族のお嬢様でしたがいらん心配だったっすね」
「……今、なんて言った?」
「ふぇ!? こ、恋人ですの!?」
「えっ? 違うんですかい? なんか、兄貴を追ってやってきたとか……」
「ち、違いますわ! 私は任務の一環も兼ねて……というか、誰から聞きましたの?」
「誰って、そこにいるお嬢ちゃんだが……」
アイザックの視線の先を追うと、そこにはパンを頬張っているニールがいた。
すでに溶け込み、最初から居たかのように。
「ニール! 貴女何をしたのかしら!?」
「むぐぅ……もぐもぐ……ぱぁ! お嬢様! ごめんなさい! お腹が空きすぎて先に食べてしまいましたぁ〜!!」
「そんなことは聞いてません! いや、それも叱るべき案件ですが……」
「一気に賑やかになりましたねー。さっきも言いましたけど、とりあえず食べません?」
「そうだな、このままでは腹が減って話が入ってこない」
ひとまず席に座って、トレイが出てくるのを待つ。
するとすぐに、分厚いステーキが出てくる。
スープやパン、横にはジャガイモやほうれん草もあった。
「おおっ、美味そうだな」
「まあ、ブルファンだけはよくいたんで。ただ、鳥や牛系も狩りたいっすね」
「その辺りも含めて、あとで話し合うとしよう。とりあえず、いただきます」
ナイフとフォークで、ブルファンのステーキ肉を切り口に運ぶ。
すると柔らかい肉と、パンチのあるソースが口の中に広がる。
「うまっ……醤油にニンニクが効いてて良いな。あとほんのり甘みがあるのが良い」
「美味しいですねー! 食べやすくてどんどん食べれます!」
「少々野生的な味ですが、悪くないですわ」
「私はおいひいです!」
「へへっ、嬉しいっすね。兄貴が癒した畑から採ったんですよ」
「癒した? どういうことですの?」
「それも後で言うって」
「わかりましたの」
どうやら、俺の試みは成功してるらしい。
肥料のような役目を果たし、畑に栄養が戻ったとか。
寒さに強い野菜や果物なら、これから収穫が楽になると。
あとは温室部屋とかを作って、そこで他の野菜や果物を育てたりするか。
「くくく、夢の実現には必要だな」
「ニヤニヤして気味が悪いですわね」
「うるさい、緑豊かな自然に囲まれたいんだよ。あっ、そういやお前は水魔法使いか」
「何を今更言ってますの? 私は水を操る優秀な魔法使いですわ」
「理由はまだ聞いてないが……お前さえ良ければ、ずっといて良いからな」
「……へっ? そ、それって……そういうこと? こ、困りましたの」
こいつがいれば水問題も解決だ。
水やりに使う水も足りてないところだったし。
他にも、色々と使い道がある。
よしよし、俺のスローライフのために役立ってもらおうか。
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