第25話 海
「舞ちゃん、今日いつ自分の布団に戻ったの?」
龍二は舞がいつまでも寝る事を打ち明けてから、朝必ず声をかけてから家を出るようになった。
「んートイレ行ってから…」
まだ眠そうな舞の頬に軽くキスをして漁に出て行った。
幸福な気持ちのまま龍二の抜け殻の布団をしばし眺める。
これでいいのか。離れた方がいいのか。答えも無いのについ考えこんでしまう。
今やきっと龍二も父親も舞が去って行くのは寂しい事だろう。
その気持ちも考えると出て行くのもタイミングを計ってしまう。
いつ出ていくのが良いのだろうか。それとも誰かが亡くなるまで居てもいいのだろうか。
仮に亡くなるとしたらそれは誰だろう。父親か、舞と関わったために龍二が先か。答えは相変わらず出ないが、考えながら窓を見て二人の帰りを待つ日々だった。
今日も明日も二人が帰って来る。
心躍り帰りを待ったが、普段より遅く帰宅し、父親しか帰ってこなかった。
父親は青ざめた顔で「舞ちゃん、今日船積みでね。龍二が見つからないんだ…」と言いすぐに出て行った。恐らく消防と警察に行ったのだろう。
頭が混乱する。龍二が船積みで見つからない。
もしかして波にさらわれたのではないか。どうしたらいいのか分からず、港に走った。
海は大変荒れていて、足元に波が打ちあがりパジャマのズボンが濡れていく。
ここに龍二がいる、と本能が感じる。思わず荒い海に飛び込んだ。これで死んでも構わない。
衣服が水に濡れて少し重く感じたが、少し泳ぐとすぐに慣れた。不思議だ。水の中で呼吸ができる。これは人魚の肉を食べたせいか。どれだけ舞の身体に影響があるのかわからない。
必死で泳ぎ龍二を探した。「龍二、龍二どこ?!」と水中で叫ぶが聞こえはしないだろう。
荒波で上手く泳げない。何時間も探した。
波にさらわれていると港に戻ってきてしまった。これでは龍二が見つけられない。
海から上がり、龍二と出会ったテトラポッドに腰を下ろし呆けていると、もう大勢の警察や消防が龍二を探しに来ていた。
「舞ちゃん、もしかして海に入ったの?」と父親は青ざめたままの顔色のまま舞に話しかけ、舞は我に返る。
「…いや、ここにいたら波が返ってきて…」と言い訳をした。
「すぐに家に帰って風呂入って。私はもう少し龍二を探すから」父親は背を向け、すぐに大勢の人の中に戻って行く。
「もう駄目なのかもしれない…また私のせいで亡くなったのか」と舞は家に戻った。
龍二はもう居ないのだろう。舞が肉を喰らう事ももう無い。
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