第19話 片割れ
「明日は
舞は何も言わずに頭だけ下げる。
信用していいものか迷う。これは誰の生まれ変わりなのだろうか。考えてもわからない。
もしかすると、魂の片割れ等などが存在するとすれば可能性はあるのかもしれない、と仮説を立てるが確信はない。
片割れにしては光が薄い気もするし、逆に舞に接近してくるという事はそういう事なのかもしれない。
これからどうなっていくのだろうか。いくら考えてもまとまらず、心は迷い揺れる。
翌朝になり、青年は今度は予め焼いた鯵を持ってきた。
「俺、龍二。三十歳。あの蛇みたいな龍に数字の二で龍二!」龍二は舞の反応を心躍らせながら待っている。とても三十路には見えない。
舞は鯵を齧りながら「これも、美味しい。えと、二十歳で、舞です。踊るみたいな舞の」と手をふらつかせながら言うと急におかしくなり、二人は顔を見合わせ笑った。
「もうちょっと話していい?俺、漁師だから朝だけだし、舞ちゃんの話もっと聞きたい。」龍二は隣のテトラポッドに腰を据える。
「うーん、ねえ夢とか伝説って信じる?」と舞が問いかけると龍二はしばらく考えるポーズをとった。
「ここ五年くらいかな?同じ夢は見る。そうだなぁ、俺、大きな会社の社長でさ。良い車乗って、愛人とか作ったり遊んだりね、伝説はどうかなぁ、俺妖怪とかお化けとか見たことないし」舞はハッとした。大きな会社の社長で、良い車に乗って愛人を作る。まさに神谷ではないか。魂の片割れ、それはあながち間違いではないのかもしれない。
舞の表情を見た龍二は焦り「あ、願望とかじゃないよ!俺小さな幸せでいいし」と訂正をした。
「…例えばね、人魚とかって居ると思う?」舞は真剣な表情で聞く。
「あははは、それってジュゴンでしょ!居ないよそんなの!」と大笑いをした。
舞はなぜだか恥ずかしくなり黙って下を向く。
「あ、舞ちゃんは信じちゃう系?ごめんね!」両手を合わせ謝る仕草を取った。
舞は下を向いたまま首を左右に振る。
「雨降ってきたね…」舞の手の甲に何度か雫がしたたり落ちた。
「明日はシケかも。休みかなー。休みだったら、明日どっか行かない?」龍二は空を見上げ呟く。
「えっと、どこ、行くの?」男性と出かけるなど神谷の時はもちろん何十年もしていない。
「俺漁師だから、水族館は嫌かも」と龍二は照れ笑いをした。
「すいぞくかん、ってなに?」舞の目はビー玉のように丸くなった。
龍二は病気の人を見るように舞の顔を覗き込む。「なんでもない、忘れて。俺、考えておくから!じゃまた明日ここでね!」と叫ぶように言い龍二は帰っていった。
舞は一人で次第に強くなる雨に濡れるのも気にせず海を眺め時が過ぎるのを待つ。
「明日は龍二君とお出かけ…」と考えるとものすごく久しぶりに心が温まる感覚がし、神谷から貰ったスマートフォンを海に投げ捨てた。
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