第15話 時代の流れ、決心

玩具扱いのような生活も二年続いた。

金が振り込まれないかわりに「欲しいものがあったら相談して」と言われている。舞には欲しいものなどはないが、何か”おねだり”をする女性の方が神谷は可愛らしく感じるかもしれない。

最低限必要な物とよくよく考え、テレビに決めた。

翌週、神谷が二週間ぶりに舞を抱きに訪れた際「あの、小さなやつでいいんですけどテレビがほしくて」と指でくうに四角を作り聞いてみる。

「あぁ、気が付かなくてごめんね。すぐ手配するから」神谷は目線も合わさず何事もなかったかのように、普段通り舞を荒々しく抱いた。

行為が終わると珍しく神谷は舞に話しかける。腹を撫で「なんで舞には子供が出来ないの?」と聞いてきた。内心穏やかではない。

「その、出来ない身体なんです…」

「そっか。残念だな」神谷は非常に子を欲しており、通りで最初から中へ放出してきた訳だ。

「子供って何人いるんですか?」聞いて良かったのかはわからないが抑えられない。

神谷は少し黙り「…家に三人と三人だね」と悪びれもなく答える。

他にも愛人がいて、その女たちにも同様の事をしていた。しかも自身の子を増やしている、それは薄々頭の中ではわかっているつもりではいたがいざ耳にすると胸のあたりを黒いモヤが支配していき、それが全身に回るような感覚を覚える。


神谷は立ち上がり背を向け「じゃあ、またね。連絡する」とスーツを整え出ていった。

この冷淡さにも慣れている自分がいる。ただいつも虚しいだけだ。だが未だに舞の中では抱かれた数だけ血の涙が滴り落ちる。


三日が経つと「メル管理、佐藤(小枝)様」というよくわからない名前の人から三十インチの小傷の入った中古テレビが届いた。

検索をしてみると「メル管理」とは個人売買をしているフリーマーケット方式のアプリケーションのようだ。

サイトを見ていると、非常に安く中古品が売買されている。

神谷はここで安くテレビを仕入れ、手軽に直接送ってきたのだ。舞はそれだけ希薄な存在なのかと改めて思うと何故か笑いが込み上げてきた。久しぶりに一人でクスクスと笑う。

気が付いてなかっただけで舞はもうずっと前から壊れているのだろう。

テレビをコンセントに繋ぎ四苦八苦し、よくわからない線を適当に接続するとテレビから映像が映りだした。

スマートフォンにも戸惑ったが、リモートコントローラー。これは昔は無かったが非常に便利だ。離れていてもチャンネルが変えられる。それに映像も鮮明で驚きの連発だ。

今、舞は何歳なのだろうか。恐らくは百十歳は超えているだろう。

何もしなければ後、約七百年は生き続けなければならないと考えると憂鬱になる。七百年経つとどのようにして亡くなるのだろう。調べても泡になる、砂になる、風になるなどいまいちピンとくるものが無い。

だが舞は「今回が最後だ」と決めていた。涼と三井の生まれ変わりの神谷と共に逝く。神谷がどんな性格であろうが、どのような扱いを受けようが、涼と三井の生まれ変わりにあることは間違いがない。二人の魂を背負い逝く。それならば、と。

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