第6話 暴露
明くる朝、舞は実家に戻り父と母に「人魚の肉って知ってる?あのね…」とあらゆる事を聞いた。
母はそそくさと台所へ向かう。康弘はついに話す時が来たかと思い、重い口を開いた。
「舞、心して聞いてくれ。舞が余命宣告され、今にも死にそうな時に俺はオーストラリアまで行き、偶然にも人魚の肉を手に入れたんだ。それを舞に食べさせた」
冗談かと思ったが、康弘は真剣な顔をしている。それに余命宣告も初耳だ。
「食べたらどんな事になるの?」呆気に捕らわれ質問した。
「まず病気は治る。そして八百年近くまで生きる。代わりに火に近寄れなくなり、調べたんだが子供は産めないそうだ」康弘は申しわけなさそうな顔をし、肩を落としている。
通りで火に近寄れず、線香花火でさえも苦手で出来なかったことを思い出していた。
「父さんの自己満足だったのかもしれないが、舞の病気が治るならと思ってな…」
康弘は黙って窓の方を向く。もしかしたら泣いているのかもしれない。
余りにもピンとこず、帰ったら涼になんと説明したらいいのかわからない。
「お父さんは、私の事思ってやってくれたんだよね?」
康弘は「だけど、舞にとっては苦しい人生になるかもしれない。すまんな」と向こうを向いたまま答えた。
舞は父を責める気にもならず家に帰り、しばらく唖然としていた。
涼が帰って来る。
「おかえり。ねえ、人魚の肉って話知ってる?」涼は口をポカンと開けて「何かで少し見たことがある程度だよ。死ななくなるんだよね?」と着替えながら言う。
実家でわかった事を真剣に全て涼に話す。そして「死なないんじゃなくて八百年くらい生きるらしいの」と付け加えた。
「すごい冗談だね」涼は笑う。「うん…でも私が食べて瀕死の状態から治ったって言うし、よくわかんない…」悪い事をした子供のように目線を外した。
舞の説得に涼は腕を組みしばし考え、書庫から古い書物を沢山持ち出し調べだした。
「あ、人魚の肉食べて八百年まで生きた人がいるっていうけど本当かな。あと死体は色んな所で打ち上げられているらしいね。偽物かもしれないけど」涼は調べ物をする時は細部まで調べあげる。一時間ほど調べた後「もしもあったとして、俺が先に死んでも舞は次の恋愛をしてほしい。舞にはいつも笑ってほしいから」と抱きしめてきた。
「じゃあ、涼も人魚の肉を食べてよ…」涙ぐみ、涼に必死にしがみつく。
「俺は長く生きなくても今が一番幸せだから大丈夫だよ。それに、舞に最期看取ってもらえる。こんな幸せなことは他にないよ」と言い優しく髪を撫でた。
「涼がいない人生なんて考えられない。」舞はもう涙が零れている。
「なるべく長生きするから、ね」と涼は舞を布団まで運び胸を静かにトントンと叩き寝かせた。舞は安心して眠りにつくことができた。
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