第26話 全てはそこに
舞は龍二の母の仏壇から線香用のライターを取り、灯油缶を持ち庭に出て灯油を全身に浴びた。
それは鼻を衝く臭いだったが、龍二の血を感じるようで、両手にライターを握りしめ火を灯し自身の胸に近付けた。
その姿はまるで棺桶に納められた遺体を思わせるような立ち姿で、即刻全身に火が回る。
舞は龍二への愛情や、龍二の傍にいられるという安心感で満たされていた。
涼と出会い結婚を経験し、人を愛することを覚えた。
三井と出会い愛されることを、神谷と出会い愛することの辛さを知った。
そして龍二と出会い、愛し愛されること、小さな幸せを味わった。
舞の中ではエンドルフィン現象が起き、最早熱さ苦しさは感じられない。目を開ければそこは、不思議と辺り一面が仄明るい暗闇が続く。
しかし次第に明るくなり、足もとは小さく白く光る石畳だった。
石畳に沿って歩いて行くとひと際輝く涼が佇んでいる。走り、涼の胸に飛び込んだ。
「舞、ずっと待ってた」涼が優しく舞を抱きしめる。涼の匂いがする。
思い切り味わうと涼は「舞にはいつも笑っていてほしいから」と言い砂となり消えていった。
また一人石畳を歩く。なぜか歩かなければならないと感じる。
舞には確信があった。そこに三井がいると。
しばらく歩くと三井が両手を広げて立っている。
「やっぱり。高がいると思った」舞は三井にしがみつき、三井も花のように舞を包み込んだ。そして微笑み「舞、次に進みな。大丈夫。一緒だから」と告げると三井は泡と化した。
舞は次に進むのを躊躇する。次にはきっと神谷がいるに違いない。しかし舞には涼も三井もついている。きっと大丈夫だ、と歩を進めると急に辺りが歪み神谷が立っていた。
石畳の周りは荒波に飲まれつつあり、やはり神谷に近付くのが怖い。
神谷は首から血を流し、暗く下を向いていて表情がわからない。
立ち止まると神谷の頭上から光が射し龍二が降りてきて、神谷は荒波と共に消え去った。
「舞ちゃん、行こうか」といつものはにかんだ笑顔で舞の手を取る。
龍二と歩いて行くと眩しく輝く橋がある。
向こう岸の花畑には消えたはずの涼と三井が立って「舞」「舞」と呼んでいた。
舞は思い切り龍二の手を引っ張り橋の向こうへ走って行く。
全ては一つに混じり合い、愛で溢れ風となり消えていった。
何度でも愛してる。やがて私達はひとつになる。
-FIN-
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不老長寿 村崎愁 @shumurasaki
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