第4話 愛慕

舞は一年が経ち図書館で働きだした。

先輩に清水涼という二十四歳の青年がいて、ほのかに赤く輝いて見える。

話すと光は消え、気が付けば舞は涼の事を目で追っていた。


胸が高鳴り、話しかけられると身体が火照る。父の面影がある青年だ。

涼も舞に対して好意を持っているようで、仕事が終わると一緒に食事に行ったり休日に待ち合わせて芝居や公園に行ったりとした。


そのような関係が半年続き、涼から「俺、舞ちゃんの事が好きなんだ」と告げられた。舞はこれが「恋」なのかと生まれて初めて自覚する。

「私も、好きみたい。こんなの初めてでまだ良くわからないけど…」と頬を染め返した。

「じゃあ…あの、付き合うみたいな形でいいかな?」涼は遠慮がちに聞く。舞は黙って頷き、交際が始まった。

それは幸福であり同時に不安になったりと、荒々しい波のように情緒は乱れたが、涼はそれら全てを受け入れてくれる。

 世界の見え方が変わった気がした。優しさも表情も性格も全てが大好きという感情で溢れていく。

三か月後映画を観た帰り、公園のベンチで触れるだけのキスをした。それは全て涼に任せたが、涼自体も慣れてはいないようですぐさま耳まで赤くし下を向く。

気が付けば舞は「ありがとう」と言い涼を抱きしめていた。胸の高鳴りは治まらない。またも動悸が始まったのかと勘違いをしたほどだ。


そのうちにキスにも慣れてきて、深いキスをするようにもなった。

涼の家に呼ばれ、いつものようにキスの感触を楽しんでいると「舞ちゃん、そろそろいいかな…?」涼が囁いた。”いよいよか”と思う。期待半分、怖さ半分だ。

「うん…私わからないけど…」

「俺も、だからうまくできるかわからないけど…」


結局避妊具を着けるのには三度失敗したが初めての行為により涼はすぐに絶頂を迎えた。

友人に話には聞いていたのだが、こんなにも痛いものだとは思わなかった。だが心は表面張力のように満ち足り、涼の事が好きで溢れてしいまいそうだ。

抱きしめ合い眠りにつく。舞は興奮しうまく眠れなかったが涼は満足したようで熟睡していた。


回数を重ねるごとに、すぐに愛し合う事にも慣れた。

「愛してる」と言い合うことにも挨拶のように自然になってゆき、恋から愛に変わっていくのを感じる。


付き合いを始めて二年経ち両親にも紹介を済ませ、涼は舞を料亭へ連れていき、ありがちに花束と指輪を用意し「僕で良かったら結婚してください」と緊張した面持ちで告げた。舞はただ頷き、涼は舞の左手の薬指に指輪をはめてきた。

その後二人で微笑み合い、今までの人生で一番とも思える幸福な時間を過ごした。


身内だけのささやかな結婚式を挙げると父も母も、涼の両親も涙を流して祝福してくれた。涼は一人っ子で、涼の両親に紹介された時から娘が来てくれたように可愛がってくれる。

友人達は「早すぎない?」と驚く子もいれば、十七歳で授かり婚をしていて納得する子もいたが、皆一様に祝福してくれた。

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