第9話 悩

三井と交際を始めて三年が経ち、涼の仏壇は供養した。再三のプロポーズは全て断ってきた。もう涼以外と結婚する気は無いし、本当は化け物ということが分かってしまうし子供も出来ない。

「まだ怖いし、結婚が全てじゃないから。ゆっくりね」といつもふんわりとかわしてきた。

涼と違う点はよく些細な事で喧嘩をすることと、三井はよく泣く所だ。

喧嘩は本当に些細な事で、靴下が裏返しのまま洗濯機に入っていたり、使い終わったトイレットペーパーをそのまま放置したりと、(本気ではないが)舞が怒ることが圧倒的に多かった。

一度間違えて三井の事を「涼」呼んでしまった時には大泣きをされてしまった。

料理もするようになり「通い妻」状態になっていてそれは気持ちの部分でもとても楽であり、このままで良い。ずっとこのままが良い。と思う。

三井は結婚願望が強いのか、独占欲が強いのかはわからないが度々と将来結婚をしたらという願望を話してくる。

時に無視をしたり、流したりとしているうちに三井はあまり結婚という言葉を使わなくなった。


通い妻を始めて七年が過ぎ三井は三十三歳に、表向き舞は三十一歳になっていた。もう本当の自分の年齢も良くわからない。

周りの人から三十代には見えないと驚かれる。それはそうだ。舞は死ぬまで二十歳のままなのだから。

公になる前にいつか蹴りをつけなければならないが、少なくとも今はまだ三井と離れたくないし、誰にも渡したくはない。

三井は働いていた派遣会社に本腰を入れ、社員となり営業の仕事にまわった。

成績も良いようで給料も涼の時の倍近くあり、自信がついてきたのか再び猛アタックをしてくるようになっていく。指輪を渡され、時に傷つけ時に上手く断り続け、三井は四十一歳になった。

「子供の事とか考えるならそろそろ結婚しなきゃじゃない?」と仮に四十前

となった舞に問いかける。三井のこれからを考えると子供がいない人生も辛いだろう。そろそろ限界かと思案していると、健康診断に行き再検査となった三井が青ざめて帰ってきた。


「舞、俺肺がんだって。ステージ四で、あと五年生きられるかわからないって」

「高は煙草も吸わないのに噓でしょ?」舞は料理の手を止めて三井を見る。

「俺、舞を一人にしたくないよ」と玄関で崩れるように泣いた。

これではまるで舞が死神のようではないか。もしかして自分のせいで涼も亡くなり、三井も死んでしまうのかと。

「涼、助けてよ。私に笑っていてほしいんだったら高を連れて行かないで」と真剣に願った。


願いも虚しく三井は月日を追うごとにやつれていく。延命治療はせずに四年が過ぎた晩にうつろな目で「舞、は変わらないね。愛し、てる」と言うと昏睡状態に陥り、三井は骨の様に痩せこけ、だが瞳を閉じ眠るように息を引き取った。

もう人を愛することは出来ない。また自分のせいで大切な人が死んでしまうと自分を責めてしまう。


その後母が子宮がんで亡くなり、父も交通事故で、すぐに後を追うように亡くなった。

舞は人目を避け、山小屋の廃墟に住み顔を隠し、心を閉ざした生活を始めた。

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