第8話 告白

「ねぇ良かったら俺の家に来ない…?」二人で逢いだし、半年が過ぎた頃に三井が誘ってきた。

「何もしないなら…」やはりまだ手しか繋いだことがないので少し抵抗はある。

「当たり前でしょ。安心してよ」と返ってきた。三井の家は電車に乗り、舞の家と反対方向で三駅目だった。こんなにも長い距離なのに、三井は舞の家の前まで毎日送っていてくれたのだ。


そこは古い木造の平屋だった。

玄関を開け「どうぞ」と導かれ入ると、物がほとんどない部屋で、見当たる物は布団と箱型テレビ、数枚の服だけだ。現代で言うミニマリストだろう。

「あ、そこ適当に座って。俺ここでいいから」三井は畳の上に胡坐をかいた。言われるままに布団に座る。


男性の家は涼の家しか行ったことがなかったので、涼とのキスや初体験が頭に浮かぶ。ふと思い出し涙が零れ落ちそうになった。

「舞ちゃん?目赤くなってるけど大丈夫?埃?」三井は急いで窓を開ける。「いや、ちょっと目が痒かっただけだよ。大丈夫」鼻をすすり、笑顔で返した。その後はお笑い番組を観て笑い合った。笑うポイントが同じで度々と目を合わせ微笑む。涼と一緒に居るようで幸せだ。


しかし三井は涼の生まれ変わりであって涼ではない。同じように愛してもいいのかと迷う。忘れることが最大の冒涜だとも思うが、涼と同じく三井に惹かれている自分がいる事もあり、頭に感情が追い付かない。

三井は布団に移動し、舞の隣に座った。

「あの、ギューとかしてもいいかな…?」三井の言葉に舞は流石に戸惑う。

「な、なにもしないんでしょ?」

「ギューしたくなって。本当にギューするだけ」両手をパンと鳴らし頼み込む。

だが本来舞はもう高齢だ。ふいに全ての仕草が可愛らしく見えた。

「んーおいで」舞が言うと強く抱きしめられ「ギュー!あー好き!舞ちゃん好き!」と三井は叫んだ。三井の心臓の鼓動を強く感じる。

「ありがとう。でも私の事好きになるとか、そんな価値なんてないよ?」耳元に囁きかけた。

「俺が好きなんだからいいの!顔とか価値とかじゃなくて舞ちゃんの全部が好きなの!」抱きしめる手は緩むことがない。

五分程そのままで、離れたと思ったら「大切にするから、本当に。だから付き合ってほしい」と告白をされた。三井はほとんど涙目だ。

「うん、でもね。実は私前に結婚してて、死別したんだ。それでもいいの?」

三井は再び舞を強く抱きしめた。「ごめんね。辛かったね。俺ゆっくりでいいから」

涙声で泣いているようだ。

「うん。こんな私で良かったら」と少し三井の肩から顔を離して答えるとやはり泣いていた。まるで涼のように優しい、とふと思った。

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