第17話 旅立ち

一週間と少しが経ち、残りの肉は片足の太もも部分だけになった。舞は惜しそうに骨に張り付いている肉を噛み取り、舐め取っていく。


肉は溶けるように柔らかく、少し腐敗も始まっていた。ツンと鼻をつく臭いがする。骨をかき集め、残りの肉と共にビニールに詰め、バッグに入れた。神谷のバッグには酸素系クリーナーが入っていたので、それと流水で血液痕を消した。


部屋を掃除をしながらニュースを観ていると、神谷の会社が倒産し代表取締役である神谷亮太に横領の疑いが…と流れている。手を止め、ニュースを凝視する。

ニュースキャスターは大きな板に沢山のシールが貼ってある物を説明しながら剥がしていく。神谷の顔写真も大きく映し出され「容疑者」と呼ばれていた。

会社に横領が露わになり一番大きな取引先と取引中止、横領した金は遊びや愛人に。その取引先の娘が妻だったらしく離婚騒ぎに発展。全ての責任問題に問われた神谷は家族と愛人を残し行方不明へ。ニュースキャスターは面白おかしく説明していく。


愛人はたしか舞を含め三人いたはずだ。

まずは外に出てポストを確認する。

「佐々木拓郎」宛に届いた手紙やチラシ、広告がポストから拭き出すように大量に

届いていた。「佐々木」という名は神谷が部屋に来ている時に電話で聞いたことがある。秘書の一人だったはずだ。なぜ舞の部屋に最後に来て、舞の部屋で死に、舞の部屋だけ秘書の名義にしていたのだろうか。逆に、他人名義にしてある舞の部屋だから死んだとも考えられる。

それも含め、用意周到だったというべきか、しかし横領が露わになったということは脇がどこか甘かったのだろう。

何にせよここに警察がたどり着くのも時間の問題だ。

人肉を喰らう不老長寿の化け物として一生実験台にされるのだけは避けたい。

次の話題に移ったテレビを消し、出来る範囲で指紋まで残らないように丁寧に掃除をした。

バッグを背負い、ビニール袋に手を包みドアを開け部屋を後にする。


次はどこへ行こう。この幸せな気持ちを抱えたまま死ぬのもいいし、また次の生まれ変わりを探すのもいい。普通の人間よりは時間があるし、繰り返し見届け喰らうのもまた幸せなのかもしれない。

フードを被り「次は海にでも行ってみようかな。私にぴったりだよね」と独り言を話しながら歩く。


公園のベンチで残りの肉を喰らい、残った骨はハンマーを購入し、細かく砕き何度も公衆便所へ流す。骨は思いの外頑丈でかなりの労力を要した。今までは火葬が終わり、弱った骨しか触った事がなかった。

キャッシュカードから最初の一年間と少しに振り込まれていた金を全額引き出す。

全部で百十万円ほどだったが、衣食住には困らないし金を使う事はほぼないだろう。


山手線に乗り、約二十五分かけ池袋でおりた。もうすっかりと日は暮れ、街で溢れている若者達を見ていると、時代は変わったのだと再認識する。

今は誰も人の服装や身だしなみなんて見てもいない。大きなバッグを抱え、黒いフードを深く被り、歩く舞になど誰も注目しない。それは返って好都合であった。

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