第21話 目覚め

深く眠りについていたようで、寝込んでから三日が過ぎていたようだ。

舞が目覚めた時そこは病室のベッドだった。

腕を見ると点滴が刺さっており、傍らには龍二が半泣きの状態で手を握いていて何が起きているのか理解ができない。

「先生!舞ちゃんが、起きて…!」とすぐに医師を呼ぶ。舞は心臓が高鳴った。病院、今の舞の身体がどうなっているのかはわからないが、精密検査などすれば化け物だという事が公になる。

だが運は良かったようで病室は二つしかない小さな診療所のような病院だった。

眼鏡をかけ、ずんぐりとした幾分長い髪の乱れた医師が病室にやってくる。

「恐らく急性アルコール中毒の一歩手前でしょう。舞さん、自分の名前は言えますか?」

まさかお猪口三杯程度の日本酒で急性アルコール中毒になどならないだろうとふと考えたが緊張した面持ちで「清水、舞です」と答える。

龍二はシーツを見つめ手を強く握りしめ「舞ちゃんごめんね。本当にごめんね…」謝り続けていた。

医師は「もうこれだけ分解出来ていて、自我もあるので大丈夫でしょう。夕方にでも退院していいですよ」と告げ病室から出て行く。

「大丈夫だから。今までお酒って吞んだことなくて」涙を流す龍二の背中を摩った。

こちらの方がすまない、という気持ちになってくる。

夕方になり、龍二の父が軽自動車で迎えに来た。龍二はもう平気で歩ける舞を丁寧に支え、車に乗せる。

「舞ちゃん本当にすまなかった。何でもするから許してほしい」と父親に改めて謝罪をされた。

「いえ、貧弱ですみません」頭を下げ、そっと見上げるとバックミラーに映る父親も涙ぐんで鼻をすすっている。

”本当にいい親子だな”と外の風景を眺め思った。


龍二の家に帰りつくともう平気なのにも関わらず丁寧に介護をされた。そうだ、もう介護を受ける年齢はとっくの昔に過ぎていると思うと一人笑いが込み上げてくる。

布団にくるまり笑いを堪えた。その間龍二は風邪でもないのに細かく刻んだ焼き魚の入った粥を作ったり、頭を冷やすタオルの桶の水を交換したりと走り回っていた。


布団にくるまって匂いを嗅ぐとほんのりと涼の香りがした。当時はベッドなんて物は無かったからか。思い切り深呼吸をし、涼を全身に感じる。涼の事を忘れていた時期を思うと申し訳なくなる。

龍二が涼だといいなと思う反面、実の所、年齢は違うが龍二は神谷の片割れだろうという確信があった。なぜならば神谷のを龍二は持っている。逆も然り。そして何よりも龍二の繰り返し見る、神谷になりきっているという不可解な夢。


神谷にもう一度逢いたいかと問われれば正直もう逢いたくはない。あんな思いや生活は二度と経験したくない。

だが龍二とならば幸せに暮らせるのではないかとつい考えてしまう。

あくまでも化け物だとわかるまでの期限付きの愛だが。

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