第23話 前兆
自分の中に潜む残酷さに驚きつつも思い出していた。
当然の事かもしれないが、人によって味や食感が微妙に違う。
それは食生活や、生活習慣が関係してくるのかはわからないし、舞にしか感じられないのかもしれない。
涼の時は死後硬直もしていたし、焼死した手だったためか硬く、
そして何よりも神谷。血液が抜けていたために死後硬直はなく、喫煙や飲酒と滅茶苦茶な生活を送っていたはずなのに時を忘れて貪るほどに美味で、例えるならば身体は香り豊かなビーフシチューのようで、内臓は食感自体はそれこそレバーだが味わいは濃厚か且つ淡泊。舞のかつて好物であったラム肉のような風味も感じられた。
共に暮らしつつ龍二と一緒に寝たり、離れて寝たりと過ごしたりとし、そのうちに初体験を済ました。気が付くと裸のまま寝ていて朝を迎えていたほどに自然に終わり、しかし神谷のそれとは全く異なるものだ。
舞は普段通りに接っするが、龍二は翌日も翌々日も顔を赤らめ、舞を真っ直ぐ見てはくれない。
もしかしたら反応的に初めてだったのかもしれないし、何にせよ人数はゼロに近いと思う。そんな龍二が可愛く見えて仕方がない。
しばらくは反応が面白く観察していたが次第に龍二も舞を見据える事ができ、以前よりも愛情深く接してくるようになった。
龍二の言っていた「小さな幸せ」は確かに存在し、だがその暮らしは涼との暮らしと重なり、素直にそれを噛み締めていいものかと迷う。
時間が経つにつれそれも素直に受け入れるように変わっていった。
一年が過ぎた頃に父親が「舞ちゃんと龍二は結婚とか考えているの?」と聞いてくる。龍二は焦り「ま、まだ気が早いって!俺がちゃんと考えるし舞ちゃんの考えもあるし!」両手を大げさに振り訂正をした。
父親はしばらく考え、「すまんな」と言うと仏壇の前に歩いて行き母に何かを報告をしている。龍二は申し訳なさそうに父の背中を見つめた。
龍二がアクションを起こす事なく五年が経ち、舞は龍二の髪の毛の中に白髪が数本生えているのを見つけた。ここ五年で龍二は随分と老けたように感じる。
「舞ちゃんはいつも可愛くて変わらないね」龍二は舞の顔を覗き込み微笑んだ。
内心驚いた。たった五年で人は変わるものだろうか。龍二はいつも舞の顔を見ているから他の人よりは気付きが早いのかもしれない。
しかしまだこの幸せを味わっていたいし、そして最後には龍二を身体に取り込みたい。
もうずっと昔から舞の心まで【化け物】に変わってしまっているのだろうか。
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