第11話 モスクワにて①
19時40分。
ロバートの部屋の戸をコンコンと叩く音がした。ロバートは考えた。ジェイムズ達が僕を呼びに来たのだろう、と。
その直感に従い、ロバートは部屋の戸を開けた。開けてしまった。そこには自分より一回りは大きい、髪は肩まで伸ばしてある赤い縮れ毛の男が立っていた。そしてその男はロバートの口に布きれを押し当てた。急な事であったためロバートはパニック状態になり、咄嗟の判断というものが出来なかった。
そうして、ロバートの意識は闇に包まれた。
どれくらいたったのか、は不明であったが、しばらくした後目を覚ました。雪の降りしきる中、建物に挟まれた路地裏にいた。
目の前には、あの男。
「やっと目を覚ましたか…来い」
男は両腕を前に突き出し前傾姿勢をとった。ロバートは直感で、この男は自分を殺そうとしている人間である事、そして自分よりも遥かに上の存在である事を理解した。
「ホワイト・ライダーッ!」
ロバートの悪魔が男に殴りかかろうとした時、男は瞬時に自身の目の前に迫る悪魔の右腕を左腕で受け止め、右腕で握りしめた。
ジワジワと男の腕を握る力が強くなり、ホワイト・ライダーの骨を砕く。そしてその折れた腕を掴み、骨で肉を突き破った。
「これでまずは片方を封じたな……次やるから、来いよ」
ロバートは硬直した。勝てないと理解した。自分はこの目の前にいる獣の餌にしかなれないと、ロバートの本能がそう叫んでいた。
「だが…お前を支配すれば…」
「メカニック・ペイルッ!」その青白く、金属質な人型の悪魔は、拳をホワイト・ライダーの胴体を貫いた。
「弱すぎる……余りにも弱すぎるッ!こんな奴にッ!俺のホワイト・ライダーは受け継がれてしまったのかッ!………余りにも………いたたまれない………オーッオッオッ……」
ホワイト・ライダーは塵になって消え、ロバートの本体が意識を取り戻す。また悪魔を出さねば、本当に殺されてしまう。その確信だけが、ロバートの脳内を支配していた。
しかし、もはや彼の体力と気力は限界であった。
雪の降る中、ホテルから着の身着のままで連れ出された事、二度の激しい痛み、そして悪魔を出した事によるエーテルの消耗。それらが連鎖的に作用した事で、ロバートにはもはや逃げる体力すら無かった。もっとも、体力があった所で逃げられずに殺されるとロバートは思ったが。
そして男、の悪魔はと言うと、雪を掘っていた。緊迫した場面に似つかわしくない光景。しかし、ロバートはとても笑い出す気分にはなれなかった。相手の能力は不明。それに対しての無尽蔵の警戒だけがあった。
「意外と時間がかかりそうだな……もういい、こっちから『来させる』か……」
その言葉の意味を理解するより先に、メカニック・ペイルの指先がロバートの左目に入り込んだ。
「アッ……ガガッ……エアッ……」
ロバートの悲鳴を遮るように、悪魔が語りかける。
「今お前の左目に、永久凍土に眠っていた細菌、ウイルス、バクテリア、寄生虫……どれかは分からんが、『生命の感覚』は感じた……じきにそいつはお前の脳味噌に到達して、お前は死ぬ。………受け入れろ、それが運命だ。教会に楯突いた貴様らが悪い。………そうだ、冥土の土産に一つ教えてやる。俺の悪魔は『メカニック・ペイル』……生命活動を停止させた生物に強制的に生命を与える能力だ………元々生命がある生物に使えば、その生物の活動を活発にさせる事が出来る………あっこれ死んでら、もう話聞いてないわコレ」
男はロバートの死体を放り投げ、元の体に戻った。
―――――――――――――――――――
そうして20時47分。
ジェイムズとその男、デイブとの戦いが始まった。
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