第4話 透明の刃①

 カーク改めレッド・ライダーは、倒れゆく自身の体には目もくれず、後ろを振り返った。自分を切りつけた者が誰なのか、それを確かめる為に。

 しかしカークの予想に反し、いやある意味では予想通りだったのだが、後ろには背中から血を吹き出して倒れている人間と、それから湧き出た悪魔に対する恐怖と動揺を目に浮かべた人々が逃げ惑う光景しか無かった。彼らは完全に我を忘れたパニック状態となっていた。そんな中カークは自身の、正確に言うなら自身の悪魔の、腕が切りつけられた事に気がついた。一瞬だったので痛みも無く、血も体の色と一体化している為丸っきり認識の外にあったのだ。視線を張り巡らせる。きっと、この場で立ち尽くしている者が、自分を攻撃した者だと言う確信を持って。しかしそれはすぐに裏切られた。いなかったのだ。自身を攻撃したであろう、人が。カークは混乱したが、すぐに持ち直し今起きた出来事を整理する事にした。

(今俺は確かに切られた…背中と腕だ、それは確かだ…だが切った奴はどこだ?どこにいる?この雑踏の中にはいない様だが、ならどこにいる?離れた場所にいるか、それか俺からは見えなくなっているか…それが妥当な考えだ…だがどちらにせよ探し出す事は難儀になる…そしてこれは俺の見立てだが…恐らく奴は次か、その次かで俺を殺す!タイムリミットは、残り少ないッ!)

 そんな中、微かに音が聞こえた。刃が空を切るような音だった。その瞬間、カークは再び切られた。脇腹から勢いよく生暖かい体液が吹き出した。それは地面を鮮やかな赤に濡らした。

(音がしたな…そうか音か、音だ、音がヒントだ…恐らくは刃を作り出した時に使ったエーテルは、完全に刃だけに使われてはいない…エーテルは宇宙のエネルギーだ…ならばエネルギー保存の法則は適用されるッ!そうなのだ…それがこの世の理なのだ!どんな物でも、理から逃げる事は出来ない、そうでなければ理の意味が無い…後一度だ、後一度、それを凌げなければ死ぬ…よく見ろ、そしてよく聞け、俺はまだ死ぬべきではない、少なくとも死に場所はここでは無いッ!)

 カークは辺りを見渡した。そして奇妙な物を見た。血液が空に浮いていたのだ。そしてそれはまるで支えていた板を失ったように、ポツリと、地面に落ちた。小さな血痕が出来た。カークは確信した。あれは自分の血であると、そしてあの透明な板、いや切れ味のある刃が、今自分自身を追い詰めているトリックであると。すると50m程遠くにある建物からぬるりと人影が這い出てきた。それは前髪をかきあげ、後ろの髪と共に3つに束ねた髪型をした青年であった。

「まさかこんな短時間で俺の魔法、『カマイタチ』のトリックが見破られるとはなぁ…まぁんなこた関係はないね!何故なら貴様はここで死ぬからなぁ…せいぜい俺のボーナスの生贄になってくれ…」

「お前の名前を…お前の名前を聞かせろよこんのインチキヤローがぁぁぁぁ!!!!」

「俺の名前はイサカだが…しかし貴様、今この俺の魔法を『インチキ』だと言ったな…それは貴様から俺への挑発だと、俺は受け取ったぜ…。いいぜェ、受けて立つぜェ!死ねゲス野郎!」

「かかって来いよイタチ野郎、テメーはどうせドブネズミにだって勝てやしないんだ」

「いいだろう、殺す」

 その瞬間雨の様に、実際は透明であるのだが、刃がカーク――レッド・ライダーへと降り注いだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る