第3話 反旗③

 ロバートの問いに対し、ジェイムズは静かに答える。「そうだな…最終的には『ヤマト』に行く予定だ。あそこは世界で唯一、教会の支部が無い場所だからな。」

 教会、正式名称をユーラシア教会と言う。聖地エルサルと呼ばれる、教会が独自に持つ領地にその行政の本部施設が立っていた。しかし、この大陸は広い。そこで教会は、この大陸にある六つの国―ユーロ、ルーシ、アラム、インダス、シナ、ヤマト―にそれぞれ支部を置く事になった。しかし、ヤマトが本部から一番遠かった事、そしてそれに加えヤマト中で支部の建設に対する抗議があったため、ヤマトへの支部の建設は見送りとなっていたのである。ちなみにこれは余談だが、この時ヤマトで起こった反乱は、日帝の乱と呼ばれ、世界の歴史の1ページに刻まれたのであった。

「まぁ解説はこんなもんとして…そんでルートだ。まず俺達は今すぐにこのエルサルから逃げなければならない。だが金の宛は見込めない…恐らくもう銀行口座は凍結されただろうからな。」

「オイオイオイジェイムズゥ〜!じゃあどうすりゃいいんだよォ〜!」

「い〜い質問だぜカークゥ…いいか?俺は教皇を殺した…お前らはそれに加担した…て事はもう既に皆悪党なんだ…悪党がする事と言えば、決まってるよなァ?」ジェイムズは手を挙げた。そこはちょうどタクシー乗り場であった。

「お客さん、タクシー使うんだね?後ろに乗りなされ…足りない分は助手席に、ね」

 そう初老の運転手に言われるとジェイムズはタクシーの後部座席に乗り込み、そしてスーツジャケットの内側のポケットから、拳銃を取り出し、続けた。「オイックソジジイッ!命が惜しけりゃ金とこの車置いて出ていきな!金は財布に入ってるのとタクシーに詰め込まれてる分全部だ!いいな!」

「は、はヒィ、わ、わか、わかりました…」初老の運転手はそう言って降車し、一目散に逃げて行った。「ヨシ、乗るぞお前ら。ひとまずこっからユーロ中央駅まで向かう。そんで大陸鉄道でモスクワまで行って、乗り換えでシナまで行く。最後はコリア半島から船でヤマトに向かう。これが計画だ。異論は無いな?」

「はい!ハイハイ!はい!」

「どうしたロバート」

「アラムを通るってのはどうです?あそこって結構ゴタゴタしてますし…それに便乗して逃げるのはどうですか?」

「駄目だな、そのゴタゴタに巻き込まれて死んだら終わりだ。それにアイツらは教会のいい犬だ。俺らを見つけたらバウバウ、って吠えながら殺しに来るさ、ハハッ!」

「そうですね…なら僕はジェイムズさんの提案に乗ります。ジェイムズさんは判断ミスはしないだろうし…」

 そうこうしている内に、ジェイムズの運転するタクシーはユーロ中央駅へとたどり着いた。駅の前で彼らは路肩にタクシーを乗り捨て、駅に向かって歩こうとした。その時ラーズは言った。

「お前らちょっと待て、言っておかねばならない事がある。簡潔に言うぞ、確証は無いが、俺達は今誰かに追われている」

 その場に緊張が走る。ロバートはその一言だけで冷や汗をかいていた。「だから1箇所に固まらずに分散する。互いを見失わないのが重要だ…誰かが攻撃されても気づくことが出来ないからな」

 彼らは2人ずつ左右の歩道を歩き、互いの間隔を10mとった。これで万全のはずだった。しかし、その日は偶然にも歩道の人通りが多かった。たちまち互いの姿は見えなくなった。それは左側の歩道、ラーズの後ろにいたカークも例外では無かった。「おいおいおいおい…見失っちまったぜ〜どうすんだーこりゃーよォ〜これ?まぁ真っ直ぐ進みゃあ駅だ、道に迷った訳じゃねぇしな、気にせずに行くか」

 そう言い歩を進めた直後、カークの背中に鋭い痛みが走った。恐る恐る後ろを振り向くと、カークの背中からは鮮血が吹き出していた。「痛ってぇぇ…ちくしょうめ、思ったより早く来やがったな……ならいいよ、来いよ!内臓ぶち撒けてやるからよォ!レッド・ライダー!」

 するとカークの体から蔓のような物が飛び出した。それはやがて色は赤黒く、体の様々な所が燃えている肘と膝が左右で2つずつある人型と化した。

 ―――――――――――――――――――――

 場所は変わって教会内部である。この日、昨日に死んだ教皇に代わり、新しい教皇が決まった。先代教皇の弟であり、名をフリークと言った。

「全く…兄貴が邪魔してくれたお陰で、中々日の目を浴びられなかったじゃないか…その点あいつらには感謝しているが…だがしかしッ!表向きには奴らは悪党だ…悪党である!そうだ悪党なのだ!ダ〜ヒャララララァッッッッ!そうだそうだそうだぞ私ィ〜それくらいは客観視出来るさァハッハァ〜ン…このフリィ〜〜ク様はなァ〜ッ!あッそうだ!今頃私が奴らに送った追っ手が着実と活動しているだろう、ウッヘヒヒン…期待しているゾォウゥ〜ンン?」

 その様に独り言を述べ、彼はワインを口に含んで飲み込んだ後、蛇の様に舌なめずりをした。




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