第2話 反旗②

 教会。それはこの世界の「神」を信仰する施設であり、この世界の聖地、エルサルの中心に煌々とそびえ立っていた。外見はよく磨かれた歯の様に白く、建築様式はステレオタイプな教会とモスクが混ざった様であった。そして話は本題に移る。どうやってジェイムズ達が教皇を殺すかであった。しかし、それについてはさほど問題は無かった。

 フォー・ホースマン。教会が神を守るために設置した天使の事である。ジェイムズ達はそれであるので、さほど問題は無い、と言ったのだ。

 むしろ問題はそれからであった。

 天使が神に愛された教皇を殺す事、それはつまり神への反逆である。それは即ち彼らもまた、この世界にいる有象無象の悪魔の内に入る事を意味し、教会から追われる身となるのだ。

 彼らはその覚悟をしていた。

 でなければ、到底不可能な事であったからだ。

 そしてジェイムズは今、1人で教皇の私室へと向かっていた。1人きりなのは、単純にその方が怪しまれずに済むであろうと言う彼なりの判断である。

 私室の戸を叩く。「すみません、ジェイムズです。」中から入ってもよい、と声がした。教皇の声であった。ジェイムズは教皇の部屋へと入る。

「なんの用だね、ジェイムズ君…国の反乱の匂いでも嗅ぎつけたかね?」

「あぁそうですね、反乱ですね…」

 そう言った後口篭り、時にして数分、長い静寂の後に答える。

「まぁ、やるのは俺達なんですけど…」

 教皇はその言葉の意味が分からなかったので聞き返した。いや、意味自体は受け取れていたのだが、余りにも突然の告白であったため、動揺した、と言う方が適切であろうか。

「何かの冗談、だよなジェイムズ、君…」

 そしてジェイムズは、鼠の死体を見るような冷淡であり、しかし確かに怒りの籠った目で教皇を見つめ、そして長年の恨みを晴らすように、呪詛を吐くように教皇に向け言い放った。

「冗談じゃあねぇ、死ねックソ爺!ペイル・ライダーッ!」

 そう叫んだ瞬間、ジェイムズの首元から植物のつるの様な物が出てきた。やがてそれは、死人の様に青白く、肘と膝がそれぞれ2つずつあり、常人より一回り胴の長い奇っ怪な人型と化した。

 そしてジェイムズの体は、魂が抜けた様に床に転がり落ちた。

「じっジェイムズゥッ!こっこれが!これが!どういう事か!分かってやっているのか!オイッ答えろよォクソ悪魔ァ!」教皇は酷く狼狽えた。

「触れた者に、死を――――」まるで自分が受け持った患者の臨終を家族に伝えるように、ペイル・ライダーは冷静にその言葉を放った。彼の手が、教皇の腕を掴んだ。その瞬間、教皇はその命を枯らした。死んだのだ。

 事を終えたジェイムズは、教皇の部屋から出た。

 教会を出るまでに数人の人に出くわしたが、身分が身分なので、誰も彼を疑いなどしなかった。

 なのでジェイムズは彼らに対し、特に何もしなかった。しかしそれが後にジェイムズ達にとって命取りとなった。

 教会の外には、仲間たちが無事に待っていた。

「よォ〜ジェイムズゥ〜!無事に済んだかァ〜ンン〜??」

「心配無いさカーク、無事に済ませた」

「それなら良かったですね、ラーズさんも無事ですし。」ロバートは言った。

「しっかし教会の奴も今思い返したらとんだ糞野郎だよなぁ、世界全土から俺達みたいな孤児かき集めて、『種』を植え付けやがって…俺達は生き残って、しかも『悪魔』にもなれたからいいが、失敗して『魔法』も使えずに死んだ奴らのことを思うとどうにも…」ラーズはしんみりとした口振りで言った。しかし余り思い出したくない事なのか、終始早口であった。

「しかし問題はこれからですよ皆さん…この教会から、どうやって逃げるんですか?」

 ロバートはこれからの逃避行を案じる様に告げた。


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