第14話 半魚人パニック!②

 闇の海を走り抜ける者が一人いる。名はラーズ。

 これもまた、ジェイムズ達と同じく件の半魚人との戦いに巻き込まれていた。


 黒くドロドロとした海を這う名状しがたき人型の魚の軍勢が仲間を呼びつける鳴き声、と言うよりは言葉をデスボイスとビブラートを混ぜたような気味悪く邪悪な音に意味として込めた事により、一匹、また一匹と腐敗した魚面の人間が数を増していった。


 だがラーズは何度もその光景を見た事により、とある考えが脳裏にじわりじわりと勢力を広げていた。


 それはこの空間の地面が半魚人にとっては「海」として判定され、逆に人にとっては「陸」として判定されるのではないかと言う考えであった。


 そうとあれば勝機が無いわけでは無い。奴らは水生という事は即ち鰓呼吸で―――――


 そこまで考えたところでラーズはこの考えに反論を思いついてしまった。


「いやっ、死ぬ前に仲間呼ばれるのがオチじゃねぇかあぁぁぁあ!!!!あンの腐れ魚類共めぇ!!いつかメッタ打ちにしてやらぁぁ!!!」


 ラーズの呪詛は何処までも続くかの様な闇の中へと消え――――――そしてある者の耳に届いた。

―――――――――――――――――――――

「イツカメッタウチニシテヤラァァ!!!」

 微かにその声を拾い上げた耳はカークの物だった。それが仲間の、ラーズの声である事を自覚したカークの心は安堵に包まれた。


「あの声…はラーズのか、よかったァ人いて!俺一人だったらどうにもならないんじゃないかと絶望しかけてたからな…助かった…」


 そうして声のした方向に歩もうとしたカークを何者かが呼び止めた。


「待ってくださいよカークさん…」


 急に自分の名を呼ばれたことに驚いたカークが振り向いた先には、自分が死んだと思っていたロバートがいた。


「ロバート…?」


「そうですよ…ロバートですよ…少しの間離れただけで、僕の事もう忘れたんですか?」


「わすれッ…忘れるはずがねぇだろッ!ロバートォーッ!生きてたんだな!お前!」


 駆け寄ったカークに抱擁されたロバートは、口元に柔らかな、


 いや、































































 獲物を見据える捕食者の様な鋭い笑みを浮かべた。

 ―――――――――――――――――――――

「ハァッ…ハァッ…」


 息を切らしたジェイムズの傍らには、半魚人の亡骸が山を作るかの様に積み上がっていた。


「なん…とか…なんとかッ…ッハァー…ここまで…」


 自身の体力とエーテルの消耗により疲労した体を鞭打つように引き摺りながらジェイムズはとある疑問点に対しての考察をぼんやりとした頭で行っていた。


(本来なら分離されるはずの…それが分離されなかった…と言うよりは、として現れた…)


(…つまりは魂と肉体の一体化…いや)


「魂だけを引きずり出してこの空間に捕らえた…恐らく俺だけじゃなくて他の2人のも…!」


 考察が確信へと変わったその時、闇からザパリと大波を上げながら半魚人…しかし今までジェイムズが出会った物ではなく、明確な魚類を象った物…具体的な名称をするならば鮫を象った半魚人が、ジェイムズの前に姿を表した。


「こいつが半魚人軍団のラスボスか?来いよ鮫野郎。ロレンチーニ器官を蛸殴りにしてやるぜ、俺は蛸より遥かに賢い人間様だけどなァ!」


「半端に喧嘩売った事、後悔しろ!」


「ギャシャァァリリルルルルゥゥゥゥゥ!!!」


 罵詈雑言に腹を立てるかの様に唸る鮫半魚人を前にしたジェイムズの体が、彼の悪魔――――――ペイル・ライダーのそれへと変じていく。












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