第15話 気の迷いは隙を産む
教会の廊下にコツリ、コツリとの靴の音が不揃いに重なって響く。その音の主はジェイムズ、カーク、ラーズと言う3人の男達であった。
3人はこの日、教会治安維持部隊の特別階級、フォー・ホースマンに出来た1人分の空きを補う代打が来たと教会から連絡があったので、その代打の人間と面会をする必要が生じた為である。
「自分で提案したとは言え面倒臭いな面会、そうだろラーズ」
「いやお前が決めたんなら自業自得だろ、ジェイムズ。と言うかこいつは別として俺らが来る必要あったのか?カークよ」
「知らない。取り敢えず終わったらマ○ドナ○ド行こうぜ」
「「賛成」」
機械仕掛けかの様にぴったりとカークを指差したジェイムズとラーズが笑い合う。
そしてカークが2人に告げた。
「そろそろ面会なんだから気をつけろよー特に言い出しっぺのペイルなんたらさん」
「一言余計だ…」
予め面会の会場として告げられていた教会の一室の戸を開けると、長方形のテーブルが縦に長くなる様に置かれており、戸と向かい合う席にその日面会をする予定の代打の人間――――――ロバートが座っていた。
「君達がフォー・ホースマンの人達ですよね?教皇様から全て聞いているので、貴方達については知っています。……改めまして、僕の名前はロバートです。迷惑こそかけるかも知れませんが、戦力にはなれます!宜しくお願いします!」
それが出会いの始まりであった。
そして現在。
「ああ……そうだ、思い出したぜ。俺とお前が出会ったあの日をよ……懐かしいな、ロバート」
今にも漏れだしそうな悲しみを嚥下する様に、ぽつり、とカークが呟く。
「でもな、ロバートは死んだんだ。それはどうしようも無い真実なんだ……なら、お前は誰だよ。冒涜もいい加減にしろ」
カークの体が血潮の炎に包まれ、その体は赤黒い焼死体の様な見た目をした悪魔へと変わっていく。炎の隙間からはみ出したカークの眼光が、余命宣告をする医者の様に悲しみと冷酷さを内包した声でロバートに……いや、ロバートの姿をした何者かに告げた。
「後悔しても遅ェ……過ぎ去ったことは戻らねぇんだ……けどなァ、その隙間に入り込んで人を弄ぶ野郎は嫌いだッ!死ぬべきだッ!」
赤黒い悪魔から植物の茎の様に生えた数本の刃が、ロバートを模した者の全身を貫き、その本来の姿を顕にしたものの、それは酷く醜いそれまでカークがさんざん見てきたただの半魚人の内の一匹、それの血液を出し尽くし生物としての活動を完全に放棄した骸であった。
そうしてカークはその場から去る。先程確かに自身の耳で聞き取った声、その主であるラーズと合流するために……。
―――――――――――――――――――――
(さーてどうしたものかねぇ…あの鮫野郎…俺の能力が発動する条件は『手で触れる』事…しっかしあの巨体じゃあそうもいかねぇ…しかも…)
ジェイムズは思考を続ける。
(魂が剥き出しのまま戦っているこの状況はかなりマズイ!下手に相手の攻撃を喰らえば『死』…それも魂をターゲットとした『完全な死』がッ!俺の元に来るッ!)
青白い人型の悪魔の手の中に煌めく塊が3つ生成され、生成されたと同時にそれは鮫半魚人の鼻…鮫の弱点たるロレンチーニ器官を仕留めていた。
「えりびゅゆうううるるるるにぃいぃぃい!!!」
呻き声なのか喚き声なのか、はたまたただの威嚇かは分からないものの、人々の信心を冒涜するかの様な、地の底から這い出た悪魔の様な声が響き渡る。
しかし、ジェイムズが狙ったのは正確には鮫半魚人の鼻ではない。彼が本当に狙ったのは、鮫半魚人の注目であった。
(よし…これで奴は鼻にこびり付いた異物に夢中だ…目の上のタンコブに奴が集中している今ならッ!気付かれずに『能力』を使える!)
激痛に悶える鮫半魚人に最後の一撃を与えるべく飛び跳ねたジェイムズは、正しく罠にかかった獲物を仕留める猟師の姿そのものであった。
ジェイムズの左足が鮫半魚人の体に触れると共にまた飛び跳ね、徐々にその体は鮫半魚人の頭部へと近づいていった。
「折角だ鮫野郎!お前をこれから殺す奴の顔を最後にハッキリと見せてやる!」
そうして鮫半魚人の頭部に辿り着いたジェイムズは、鼻の異物に夢中になっていた鮫半魚人の注目を一身に受けた。
「気づいてももう遅いんだぞお前。弔いはしてやる」
ジェイムズの手が鮫半魚人の頭にそっと触れた。
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