第18話 機械仕掛けの紅

「そいつが噂のブラックライダーか…」


 キコが言い終える前にブラックライダーもといラーズの左足がキコの顔面に向かうも、その動きを分かっていたかの様にキコはその蹴りを避け、そうして黒い悪魔の足はジェイムズ一行の部屋よりも前にある部屋の戸の近くにドゴリと轟音を辺りに撒き散らしながら突き刺さった。

 それを最後にしてブラックライダーの動きは止まった。

 それから数秒の沈黙を経た後、ブラックライダーの足が突き刺さった壁の先にある部屋の戸が開き、その中から中年と思われる女――しかし女性としての色香はきちんと運動をしなかったのにもかからわず飽食を続けた事により着いた醜い肉塊により打ち消され、しかしそんな自分を受け入れられないのか無駄に装飾の多いバッグや帽子、一着を買う値段で一月以上はかなりの贅沢を出来る額であろうオーラを漂わせるワンピースとヒール等の豪勢な物に身を包むと言う虚飾の価値でしか自分を表現出来なくなってしまった、哀れむべき人間――が戸の隙間から顔を今自分の部屋の周囲で何が起きたかを確かめるべく出し、そうしてその元凶たる黒い悪魔とそれと相対するかの様に黒い悪魔の眼前に立つ人影を見つけ、その人影が身に纏う衣服が教会の物であると気づいた為、その男――キコにその女は声をかけた――かけてしまった。


「ちょっとォー、そこの人!あの黒い悪魔って確かアレでしょ!教皇を殺したあの…そうフォー・ホースマン!あんなテロリストなんて早く倒しちゃって!あんた教会の人なんでしょ?こっちもちゃんと納税してるんだから、そっちもちゃんとやって頂戴よね!」


「分かりました。仕事はやり遂げます。しかし、貴方は私をしまった…。目撃者は出来れば居ない方がいい…」


 キコの返事と共にその女の身網目状体はに裁断され、鮮血を車内に撒き散らした末、見るに堪えない大量の細切れ肉と化した。その周囲には、元はその女が身につけていた衣服や装飾品であろう物がズタズタに引き裂かれた状態で散らばっており、それは共に裁断された女の肉塊によって血染めにされた為、最早1ユーロ程の価値すら無いと、長年の経験を持つ鑑定人で無くとも一目見ただけで理解出来る程の有様であった。


 そんな光景を背にし、女を殺した事を気にも止めずに、次の作業――つまりラーズとの相対――へと移るべく、自身の悪魔をいざ繰り出さんとしていた。

 そして、それはそうなった。


「やはりこの辺りは更地にするか…よしやろう。メカニックレッド!」


 キコの身体から金属質の無機的な、しかして身の色が紅なせいで細胞蠢く有機的な、それぞれの輝きを一つの身に内包し矛盾の象徴とも取れるかのような、そんなある種の地球への冒涜かの様な姿を、エーテルと言う地球を上回る宇宙の論理ロジックにより可能にした人型の悪魔が、血の香り渦巻く寝台列車の客室へと通ずる廊下にその身を顕現させた。その時ラーズはと言うと、先程起きた現象からキコの能力が何であるかを考察していた。


(あの網目状の斬撃…それとこの現象…片方が能力で片方が魔法だと言う線もあるが…だとしたら斬撃が魔法だな。俺ら三人分の動きを魔法で止めているとしたら、余りにもエーテルを使いすぎている…もう立ち上がる活力も無いほどに!だから斬撃が魔法だ…だがそれが分かった所でどうする!動けなければ何も意味が無いのだ!この状況をには!)


 その瞬間、ブラックライダーの体が急に動き出し、その衝撃で地面に身体が勢い良く叩きつけられた。


(今何が起きた……動いたのか、俺は!?何故だ、何故……まさか……!)


「あちゃー、カラクリに気づいたっぽいなあコリャ」


 ラーズの思考に返答するかの様にキコが気だるそうな声で呟いた。




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