第17話 そうしてまた騒動の渦中へと

 雪が降りしきる中を、大陸鉄道がルーシからシナへと向けて進んでいる。

 ジェイムズ一行はその鉄道の中にある寝台列車となっているフロアの内の一室にいた。

 その部屋は二段ベッドが向かいあわせで置かれているだけの、他には小さな窓があるだけで調度品の一切が無い簡素な部屋であった。向かい合ったベッドの一段目にはジェイムズとラーズが座り、ラーズの上の段にカークが胡座をかき頬杖をついていた。


「それで、だ。お前らはこれから?」


「……立ち向かいたい……教会に……」


 ジェイムズの問いに答えたカークが続ける。


「ロバートが死んで俺ぁ思ったんだ……逃げてるだけじゃ駄目だろうな、って……」


「お前の気持ちは分かった。……ラーズはどうしたい?」


「カークの提案には賛成だが……それで俺らの内の誰かがまた死んだなんてなっちゃあ、それこそ犬死にじゃないかなと」


 空気が一瞬にして重くなり、ねっとりと絡みつく様な感覚が一行の間に立ち込める。

 ねっとりと。

 ねっとりと。

 ねっとりと……。


「なぁ、なんで俺動けねぇんだ?」


「おいおい、嘘つくなよカーク」


「いいやマジなんだラーズッ!マジに動けねぇ!気をつけろ、『攻撃』は既に始まっているッ!」


「ラーズ!をしておけ!俺はするぞ、ペイル・ライダー!」


 青ざめた死体の様な悪魔がジェイムズの身体から這い出したかと思えば、モーターを回す活力を失ったゼンマイ式の玩具の様に動きが


「おいおいおいおい!…なんだぁこれはァァ!!」


「分からねぇ…分からねぇが、動けないってのは確かだ…ラーズ!ラーズお前はどうなんだ!」


「俺は動ける!大丈夫だ!」

(だが…俺だけが動けているこの状況はなんなんだ?…恐らくこれは追っ手からの攻撃と考えるのが妥当!であれば…俺が動けて他の2人が動けない理由はなんだ?恐らく『条件』があるんだ…『条件』が…俺は幸運にも『条件』に引っかからなかった…だがあの2人にはそれが引っかかった!だから動きが止まった!俺がやるしかない…俺が攻撃を仕掛けている奴を探し出してとっちめるしか!)


 その時、髪を短く刈り上げ、両耳にどす黒い十字架のピアスを煌めかせ、この世の人間全てを見下すかの様な三白眼を持った男が一行の部屋のドアを開け、その姿を見せた。そうしてその男は、今ジェイムズとカークに起きている異常事態の正体を暗喩的に告げた。


「…お楽しみ頂けている様でよかった…。ここでは戦うのには少々手狭でしょう。さぁラーズさん、早くこの部屋を出てそこの通路で戦いましょう。待つのはあまり好きじゃあ無いのでね」


 ラーズは自分の目に捉えた者に向かって威嚇する。


「てめぇは…てめぇは何なんだ!」


「キコです。貴方を殺しに来ました」


「あれをやったのはお前なんだな、分かりやすくて助かるぜ」


「助かったのなら結構。それではやり合いましょう」


「言われなくてもやってやるよ…ブラック・ライダー」


 ラーズの体から闇と共に黒い人型の悪魔が現れた。その形相は底知れぬ憤怒に囚われていた。
















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