第6話 透明の刃③

 カークはぼそぼそと、独り言のように言った。「意味が無い、かぁ…そうか、そう思うか…まぁムリはねぇわな、それしか俺を倒す方法はないんだからなぁ…」

 レッド・ライダーの切られた腕の断面から、新たな腕が、まるで蛹から成虫に脱皮するように、じわじわと生えてきていた。それはイサカにとっては想定済みの事であった。なので彼にとってはそれからが課題となった。

「さて、と。話をしようぜカーク君」

 イサカの言葉にすかさずカークが反応する。

「こちとらもう気づいてんだぜ、それが貴様の手口だってな…くだらん話術で尺稼ぎのつもりだろうが 、あいにく俺はそういう小汚いマネが嫌いでね…せいぜい俺を引き付けたきゃシェイクスピアにでもなりな、なれないなら…悲しいが無理だ」

「そうか、ならば全力を出すだけだな、そういうことは単純で好きだ」

 その瞬間イサカの刃がカークへと襲いかかる。カークは瞬時に空気中のエーテルから刀を作り、それを使い刃を弾いた。しかし弾かれた刃は再びカークへと向かい、彼の体に傷跡を付けた。

 体から血液が吹き出す中、カークはイサカに向かって走り、彼の体へと刀を振るった。その時イサカの胸には袈裟状の傷ができ、赤黒い体液が勢いよく吹き出しカークの体へとかかった。

「ゲハッ…」どうやらイサカは肺を傷つけ喉に血液が溜まったのか、むせたと同時に吐血した。

「テンめぇ…ゲハッ…よくも俺に近づけたな…ゲハッ…おかげで血が止まんねぇゼェ〜〜もう俺は死ぬかもなァ、お前の勝ちだ。お仲間さんのトコに行きな」

 カークは体を引きづりながら自分の本体へと向かう。確か今いる所よりは駅から遠い所にあったはずだ、と思いながら歩みを進めていた。しかし、あるべきはずの場所に本体は無かった。

「そんな親切な訳ないだろ、俺が」

 声のする方を振り返ると、そこにはイサカが自身の本体を抱えながら座っていた。

「聞いた事あるぜ、悪魔は本体が死ねば悪魔の体に引っ付いてる魂が離れちまう、つまり死んじまうってこったな!ガッハハハ!!ハッハハハハッハハ!!ハハーーッ!!オラオラオラ!うっかり近づくんじゃねーぞ?お前の体が傷跡まみれになっちまうぞ?うかつに近づけなくなったな、ゲヘッ」

 イサカは下衆な笑いを浮かべながら、しかし淡々とカークに向けて語った。

「んじゃもうお前動けないからトドメな、あんまし1人に時間かけたくねーんでな」

 刃がまたカークへと襲いかかる。刃はカークの胸へと突き刺さり、カークは出血した。そしてカークは動かなくなった。

 役割の終えた刃はイサカの手元へと向かう。そこまではイサカの計画通りであった。そこまでは。


 イサカの刃は、イサカ自身の体を突き刺した。


「何故だァ!?なぜなんだァ!?俺の!俺の魔法なのに!なのに術が解けない!ちくしょう、どんどん体の奥に入ってきやがるぜ、このまんまじゃあ死んじまう!嫌だァ!死にたくない!死にたくない!あぁ、教皇様!貴方はこんなにも深い絶望を味わったのですね…!」

「独り言は済んだか?こんのカマイタチめ…お前の魔法のカラクリは、テメーのエーテルを空気に流し込んで、刃の形を作ったままエーテルを流し続けるんだ…見えなくするためにな…だがそれが隙だったぜ、さっきお前は俺の体に傷つけて血ぃ流させただろ、そこで俺は思いついたんだ…自分の血の中にエーテルを入れて、テメーの刃にその血をつけてみたんだ…そしたらビンゴだ、俺にも刃が動かせた。そして今も動かし続けている。ただそれだけの事だ…もう聞いちゃいねぇみたいだがな」

 イサカの体からは血の色が消え、表情からは生気が消えていた。


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