第22話 暴力ゲーム

 キコの死体を部屋から引っ張り出した一行は、ローズと共に先程の戦いの余韻に浸っていた。

 ラーズが言った。


「なぁ、さっきのアレ、一体どうやったんだ?」


「あぁアレか、イサカの魔法を俺の能力に組み込んで、再現してみたんだ。意外と上手くできて嬉しかった……」


 調子よく答えるカークに、


「そんでお前ら、この小僧をどうする?」


 ジェイムズの言葉に二人は固まった。


「どうするも何も、連れていくしか……」


「だよなぁラーズ。こいつの母ちゃんは死んじまったしさァ」


「とりあえず小僧に色々と聞くか。おいお前、名前は?」


 ジェイムズの問にローズはわなわなと、


「名前、名前……。僕の名前はローズですけど……」


「じゃあもうひとつ質問だ。こんなのに乗って、お前はどこに行く予定だったんだ?」


「シナに行く予定でした。お父さんが三ヶ月前に仕事の都合でシナに行って……。いまやっと僕たちがお父さんと合流する予定だったんですけど……」


 なるほどな、とジェイムズは言った。そして思った。自分たちの目的地は最終的にはヤマトであるものの、その前にはコリア半島、そしてシナを経由する必要がある。順当に考えるのなら、自分らがローズの父親の元に送り届けるのが妥当だろう。しかしそれは何の危険もない、ただの旅行の最中に起こったイベントのひとつとしてローズを送り届ける場合である。


 しかし、この旅はけして旅行などという軽いものではなく、命を掛けた逃避行なのである。そのことはジェイムズ自身がこの場の誰よりも理解し、意識していることである。


 その責任がジェイムズの肩には重くのしかかっていた。ローズを第二のロバートにしてはならないとの責任が。


 しかし、言葉は出た。


「仕方ねぇなァ、アンタの父上の所まで送って行ってやるよ……。感謝しな……」


 ローズの顔に、ぱあっと光が差した。


「オイオイ、大丈夫なのかよジェイムズさんよォ」


 皮肉ぶった口ぶりにラーズは、


「心配ないさカーク。なんとかなるって」


「そうかねぇ……」


「そんなもんさ」


 それを言い終えたあと、ラーズは腰掛けていたベッドから立ち上がり部屋を出た。

 ―――――――――――――――――――――

 寝台列車内のレストランで小腹でも満たそうかとそこへ向かっていたラーズに、一人の男が声をかけた。その男の左手にはスーツケースの持ち手部分があったので、傍から見ればただの旅行者であった。しかし、ラーズにとっては違った。その男を見た瞬間に理解したのだ。


 と。


「ラーズさん、ちょっとそこの部屋に来てくれません?」


 男が親指を指す先は、連結部の一角に設けられた小さな部屋であった。どうやらその部屋は、元々喫煙室だったのが休憩室へと改良されたものらしい。そして男に案内されるがままラーズはその部屋に入った。


 部屋の中は窓際にカウンターのテーブルがあり、背の高いスタンディングチェアが二脚あった。

 二人の男が席に着くと、その内の一方が話を始める。


「それでねぇラーズさん、私があなたを呼んだのは他でもなく、あなたを殺すためだ」


 彼は一呼吸置いて、


「だがねぇ私――申し遅れました、私の名前はロメンゾです。それでですねぇラーズさん。あなたの悪魔はブラックライダー……確か『飢餓』の能力ですよね?」


「あァそうだ、だがそれとお前に、なんの関係がある?」


 ラーズは敵前とは思えないほどの落ち着いた口ぶりであった。それを聞いたロメンゾが口を開く。


「よかった、よかった……。これで勝負は公平だ。…あぁそうだ、ラーズさんの質問に答えなければでしたね。では答えましょう。それはですねぇ、私の悪魔がメカニックブラック、『飽食』の能力だからですよ。ラーズさんの悪魔は人だったり悪魔だったりの体内にあるエーテルを体外に排出させる能力。そして私の悪魔はその逆、体外のエーテルを体内に取り込む能力です。そうです、力が相反しているせいで、能力同士の鍔迫り合いが起きないのですよ」


 そう言いながらロメンゾはスーツケースからサイクリング用のヘルメットを2つ、取り出した。


「そこで私が考えたのがこれです。ラーズさん、結界魔法をご存知で?」


「そりゃあ存在自体は知ってはいるが、興味がなかったから手はつけてないぞ」


「そうですか、まさか能力だけでなく好みまで逆だとは………いやいや失礼、話を戻します。それでですね、能力同士が鍔迫り合いをしないのなら、それはもう直接殴り合うしかないのですが、私はキコのように、車内でテロまがいの行為をするほど愚かではないのですよ。それでそのヘルメットだ。そのヘルメットには私が結界魔法を施していてね、被った人間の意識を仮想空間へと送ることが出来るんだ。………あとはもう言わずともわかるだろう?」


「そこでタイマン、か」


「Yes…」


 互いがにやついていた。そして二人はヘルメットを被り、その先にある仮想空間へと意識を旅立たせた。

―――――――――――――――――――――仮想空間のその景色にラーズは見覚えがあった。


まるで死体に湧く蛆のように地面から生える無数の高層ビル。そして、数百メートルはあろうかという銀色の電波塔。それらにより作り出された摩天楼の景色にラーズは見覚えがあった。


 間違いない、ここはヤマトの首都であるトウキョウだとラーズは思った。


 ふと体を見ると、それはブラックライダーの体であった。


 それならと顔を上げると、やはり予想通り、金属質の黒い人型の悪魔――ロメンゾが言うにはメカニックブラック――がそこにいた。


 メカニックブラックことロメンゾが高らかに宣言する。


「さァ、暴力ゲームの開幕だッ!!」












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