第22話 推しの配信探索者がリザードマンの簡単な倒し方を紹介するようです


「皆さんおはこんばんにちわ! 初めましての方は初めまして、配信探索者の真神英夢です」


 何時もの挨拶と何時ものダサいジャージ姿で私の推しである真神さんの配信が始まった。


「今回視聴者さんから『新宿ダンジョン地下五階のリザードマンが強くて倒せません、いい方法ないですか?』と質問が来たので、俺が知ってるいくつか簡単な討伐方法を紹介したいとおもいます」

『リザードマンは中堅探索者の壁の一つなんだよな』

『ゲームとかだとモブ寄りのモンスターだけど、現実ではタフ、鱗が固い、集団戦、武器の扱いがかなりうまいと強敵に入る』

『あいつらすぐ仲間を呼ぶから戦闘長引くとこっちが撤退する羽目になるときがある』


 真神が今回の配信目的がリザードマンの簡単な倒し方を発表すると、探索者アカウントの人達のリザードマンに対する評価や愚痴が書き込まれていく。


「新宿ダンジョン地下五階はこのように湿地なので足を取られやすく、また周囲に這えている水草などが視界を阻害します。沼や草影に隠れて槍などで不意打ちをしてくるのがリザードマンです」


 ドローンカメラが新宿ダンジョン地下五階の風景映像を撮影する。

 真神が言うように視認性が悪いエリアだった。


「対策としてはドローンを飛ばして先行探索、グリモアの索敵アプリを使うなどあります」

『ドローンはリザードマンのアーチャーに落とされる可能性あるし、モーター音で警戒される。アプリはメーカーによって精度がピンキリなんだよな』

『うちのチーム、購入したばかりの偵察ドローンを初日にリザードマンの投げ槍で撃ち落とされた。価格は120万』

『ドンマイ』


 新宿ダンジョン地下五階の気を付けるポイントなどを真神が説明すると探索者のアカウントがコメントを書き込んでいく。


「どちらも金銭的に難しい人はこちらをお勧めします」


 真神はそう言って肉の塊とアンプルに入った血液を見せる。


「ゴブリンの肉と血液です。実はリザードマンにとってゴブリンの肉はご馳走で、血液は最高のスパイスソースだったりします。肉に爆弾を巻いて水辺に設置、あとは肉と水面にゴブリンの血を垂らすと………」


 真神はゴブリンの肉にクレイモアを仕込み、沼地に肉を沈め、ゴブリンの血を垂らす。

 水面にゴブリンの血が広がっていくと、遠くから真神に忍び寄る影をドローンカメラが捉える。


「きたきたっ!」


 ザッパーンと水柱を上げて水中を泳いで近づいてきた二足歩行のワニと言う表現が似合いそうな外見のリザードマンがゴブリンの肉に食いつく。


「あ、ポチっとな」


 真神がポケットに忍ばしていたリモコンのスイッチを入れるとバンッと言う破裂音と共にリザードマンの頭が破裂し、ぐらりと倒れて沼の水面に血が広がっていく。


「どんなに鱗が固いと言っても口の中は違ったようですね。クレイモアなど爆弾が用意できないなら毒などもお勧めです。即死はしないですがかなり弱らせることが出きるでしょう」

『どっちも資格いるんだよなあ』

『撒き餌としておびき寄せるだけでもいいかも?』

『ゴブリン肉とか市販されてないから、材料確保からしないといけないのが手間だな』


 真神が紹介したい爆弾肉による狩猟に対して視聴者達がコメントを書き込んでいく。


「さて、次は肉や爆弾など用意出来ない時の狩猟方法をご紹介します。まずはリザードマンを探します」


 真神は湿地帯エリアを進んでいくと、リザードマンの集団を発見する。


「リザードマンのアーチャーが2、ウォーリアーが3か………」

『一般的なソロなら戦闘を避けるな』

『数多くない?』

『槍持ち、背中に投げ槍の筒とか背負ってる』


 ドローンカメラの望遠モードで捉えたリザードマンの集団。

 アーチャーは原始的牙や黒曜石の鏃がついた弓矢を携え、ウォーリアーも牙や黒曜石の穂先をつけた槍と木を削って先端を尖らせた投げ槍を一束筒にいれて背負っている。


「さてまずは下準備です」

『いきなりなにやってんだ?』

『カモフラージュ的なもの?』


 真神はそう言うと、泥を体に塗りつける。

 コメント欄では真神の行動に戸惑いを見せるコメントなどが書き込まれていく。


「次にこちらのスプレーをかけます」

『冷却スプレー?』

『泥でも固めるのか?』


 真神が次に取り出したのは強力な冷却スプレー。

 全身にくまなく噴射すると、真神は隠れる素振りもせずに堂々とリザードマンの集団に向かう。


『おいおい、結局力業か?』

『いや、あれだけ下準備したから意味あるだろ?』


 真神の行動に何時ものチート的な怪力でごり押しするのかとがっかりする視聴者達。

 私はそんなことないと真神さんを擁護する書き込みをして行動を見守る。


『ん? リザードマンの反応おかしくね?』

『あれ? リザードマン、真神さんが見えていない?』

『んなわけないだろ、隠れもせずに目の前にいるんだぞ』


 真神は普通に歩いてリザードマンに近づく。

 だが、リザードマン達は真神の姿が見えてないのか臭いや音で誰かがいるのはわかっているが、視覚で認識していない感じだった。


「せーのっ!」


 真神は鈍器でリザードマンのアーチャーを撲殺する。

 リザードマンのウォーリアー達は仲間がやられたのをみて警戒の鳴き声を上げて槍を闇雲に振り回す。


『本当に見えていない?』

『何で?』

『あ、もしかして………』


 リザードマン達の反応をみてコメント欄がざわつく。


 真神は残りのリザードマン達も始末すると、泥を塗り直すとカメラにむきなおる。


「えー、リザードマンがなぜ俺を認識できなかったか種明かしすると………リザードマンの視力はかなり弱いです。そしてその視力を補うように熱感知能力で対象を認識しています。あと音と匂い」

『やっぱり!』

『ほー』

『だから冷却スプレー使ってたのか』

『泥で汚れるの我慢すれば効率良さそうかな?』


 真神が先程の戦闘の種明かしをするとなるほどと思った。


「これで終わりじゃありませんよ。次はこのフロアのボス、リザートキングの簡単な倒し方です」

『ボスモンスターも簡単な倒し方あるのか!』

『それ教えていいのか?』


 真神は笑顔でボスモンスターであるリザートキングの簡単な倒し方を教えると言う。


「リザートキングはこの湿地帯中心部にある洞窟にいます。因みに通常の戦闘ではかなり苦労します。まずボス部屋は入り口付近以外は足場の悪い沼地で場所によっては太ももの付け根まで泥に沈みます」

『うへえ、足場悪いのはきついな』

『それだけじゃないんだよな、あそこ』


 真神はボスモンスターであるリザートキングがいるエリアを説明する。


「さらに取り巻きとしてリザードマンコンジャラーと言うバフデバフ担当の魔法使いが二体、アーチャーが三体、タンカー役のシールダーが二体の合計八体います」

『いやきっつ!!』

『基本ボス戦は相手の人数より倍以上のレイド前提だぞ』

『まだこの地下五階が突破される前はボス部屋の情報が公開されるまでは死人がたくさん出てた』


 真神がボスのチーム編成を伝えると地下五階が攻略される前の話が書き込まれる。


「一番質が悪いのは、ボス達は沼地にいる限りオートリジェネが発動します。つまり毎秒怪我が治っていくので殲滅力のあるレイド編成じゃないと倒しきれません」

『大分昔だけど火力担当がやられて削りきれずに撤退した』

『敵情報ない状態で挑んだ探索者に敬意を払うわ』


 最後にボス部屋のギミックを真神が解説すると、前情報を知らない人達は阿鼻叫喚ともいえるコメントを書き込んでいく。


「今回教える方法は魔法系スキルシャードをセットしてる人が大勢いたらやりやすいかもしれません。メンバーに魔法系がいないなら、これから俺が行う戦闘を参考にしてください。それではボス部屋に向かいましょう」


 真神はそう言ってボス部屋がある洞窟へと向かう。

 件の洞窟はシャーマニズム的なオブジェクトや塗料でアミニズム的な壁画が描かれている。


「たどり着いたので、準備を始めます」


 真神は泥を塗り直し、冷却スプレーを念入りに振りかけると、パックパックから水筒みたいな細長い白い筒を数個取り出す。


「では、ボス戦です!」


 真神はボス部屋に繋がる扉を開けると、バックパックから取り出した筒のピンを抜いて中に投げ込む。


 パンっと言う破裂音と共に筒が破裂すると、中から液体が散布されて、沼の水が瞬時に凍っていく。


 真神は追い討ちをかけるように次々と筒を投げて液体を撒き散らしてボス部屋内の温度を急速に下げていく。


 不意打ちを食らったリザードキング達は反撃に移ろうとするが、動きが鈍い。

 コンジャラーにいたっては戦闘中だと言うのに膝をついて杖を支えにして倒れるのを我慢しているように見える。


「セイッ!!」


 真神はタンカー役のリザードマンを鈍器で撲殺していく。

 アーチャーが反撃しようと弓矢を構えるが、寒さから震えて矢を落とす。


「クガアアアッ!!」


 階層ボスである大型トラックサイズのリザートキングはある程度耐性があるのか寒さによる行動阻害が見えず普通に動く。


 だが、リザードマンと同じ熱感知視力なのか真神の姿をはっきりと認識しておらず、味方のリザードマンすら巻き込んでその太い尻尾を横凪に凪払い範囲攻撃で真神にダメージを与えようとする。


「うわっと!?」


 真神は跳躍して尻尾を回避するが、生き残っていたアーチャーやコンジャラーが吹き飛ばされる。


「ガアアーッ!」

「うひーっ!!」


 リザートキングはその巨体と凍った沼地を生かして、体を滑らせて四方八方に体当たりをぶちかまし、尻尾を振り回す。


 真神は離れた場所に避難するが暴れまわるリザートキングに手出しできずにいる。


「いい加減おとなしくしろ!」

「ギャアアアンンーッ!」


 真神は残りの筒を投げて、液体を直接リザートキングの体に浴びせる。


 さすがに体に液体の直撃を受けて体が凍ると、リザートキングも悲鳴をあげる。


「とっととくたばれ!」

「ガアアアーッ!」


 真神は凍結した部分を鈍器で粉砕し、リザートキングは悲鳴をあげる。


「グガアアーッ!!」

「うるせーんだよっと!」


 リザートキングはせめて真神を道連れにしようとその大口を開けて噛みつこうとするが、真神は最後の筒を上に投げてバッティングの要領のように鈍器でうち飛ばし、リザートキングの口に投げ込む。


 口の中で筒が破裂して液体が巻き散ると、リザートキングの凍結し、そのまま倒れた勢いで氷が割れるように粉砕する。


「寒っ! ちょっと移動しますね」


 真神はあちこちが凍結したボス部屋から次の階層に移動する。


「えー、今回使ったのはアレス重工が販売している冷却爆弾………破裂すると内蔵したいる液体窒素を撒き散らす爆弾です。リザートマンは変温動物と同じ特徴を持ってるので、寒さに弱いんです」

『なるほど~』

『爆弾、免許ないと買えないやつじゃん』

『しかも海外サイトだから輸入のための手続き色々めんどいやつ』

『ソロだからバカスカ投げれるけど、レイドチームだと下手したら自爆しね?』


 真神は戦闘中に使っていた筒の正体を伝える。


「今回の配信はここまで。今回の動画が役にだったと思ったらチャンネル登録と高評価よろしくお願いします! それではまた次回の動画でお会いしましょう!」


 真神が締めの挨拶を述べて配信は終わった。

 





 

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