第3話 推しの配信探索者がグリモアのレポート動画を上げたようです


「あ、真神さんの新作だ」


 前回のスライム退治動画から数日後、またスマホに真神の新作動画がアップロードされたお知らせが来た。


「今回は新発売のグリモアのレポかあ、あれって一台500万ぐらいしなかったけ?」


 サムネイルタイトルを確認すると先日発売されたばかりの新型グリモアのレポ動画のようだ。


「画面の前の皆さん、おはこんばんにちわ。そして初めましての人は初めまして。探索者の真神英夢です!」


(新型グリモア買うお金あるのに、何で今回もよれよれのジャージなんだろう………もうちょっと身だしなみに力いれたら視聴者増えると思うんだけどなあ)


 今回も真神は相変わらずダサかった。

 もうそれがトレードマークなんじゃないのかなと私は思い始めし、コメント欄にもわざとダサい格好してるんじゃないかと質問コメントもあった。


「さて今回の動画は先日発売されたばかりのグリモア【ストーム】を紹介したいと思います」


 真神はそう言って、スマホを一回り大きくしたメタルブルーカラーのガジェットをカメラに

映す。


「ストームの機能紹介の前に、まずはグリモアについて説明したいと思います。探索者でもないとグリモアってなんなのか、何が出来るのかわかりませんもんね」


 真神がグリモアについて説明しようとすると画面に【グリモアとは?】と言うテロップが表示される。


「グリモアとは、今から約70年前にダンジョン学の父と言われたアメリカのアーカム大学のブルーローズ教授によって開発された身体機能増幅装置です」


 真神の説明と共に画面の端にブルーローズ教授の顔写真と共に、正確にはグリモアの基軸システムを構築したと注意書きが表示される。


「ブルーローズ教授は知らなくても、ブルーローズファウンデーションは耳にしたことありませんか? そう、俺達探索者が所属するギルドの創設者で出資者です。これ以上の詳しいことは歴史系の動画が教科書で」


 画面には探索者ギルドの出資者一覧表が貼り付けられ、一番多く出資してる団体にブルーローズファウンデーションの名前があった。


「本題に戻りましょう。グリモアと同調することで、漫画やアニメのような身体能力を得ます。グリモアが生まれる前の人類は生身でモンスターと戦っていたとか」


 その話は学生時代の歴史で学んだ記憶がある。

 ダンジョン自体は100年以上前から存在しており、グリモアが出るまでは生身でモンスターに挑んで数多くの犠牲者をだした。


 確かグリモアが世に出るまではダンジョンに10人挑んで3人帰ってきたら御の字なんて当時の歴史講師が言っていた。 


「グリモアの特色はなんと言ってもオートガード機能と呼ばれるバリア機能です。探索者の認識外からの攻撃もグリモアが関知してバリアを発生さて防ぎます。これのお陰で探索者の生存率は大きく上がりました!」


 今回は撮影スタッフがいるのか、真神がカメラの向こうにいる人物に目配せするとドローンカメラが移動する。


 カメラの先にはクロスボウを持った男がいて、真神に狙いをつけてると同時にテロップには安全対策に気を配り、地元警察の許可はとってありますと表示される。


「いつでもいいですよ」


 真神がそう言うと、男はクロスボウの引き金を引いてボルトを真神に向かって射出する。


 真神の周囲に半透明の膜が展開し、クロスボウのボルトをガキンと弾く。

 膜はしばらく真神を包み、追撃がないとわかったのか膜が消えてなくる。


「こんな感じて護ってくれます………がっ! かなりバッテリーの消耗が激しいので、多用するとあっという間に電池切れになりますので、気を付けてくださいね。ダンジョンでの死亡や負傷事故の7割はグリモアのバッテリー切れによる物なんてデータも出ているそうですよ」


 画面には政府発表のダンジョンでの死亡負傷原因の統計円グラフが表示される。


「もう一つの特色はこれ! このスキルスロット!」


 真神はグリモアの【ストーム】を弄るとグリモア本体がスライドして、何か嵌め込む複数の穴が現れる。


「先ほど紹介したブルーローズ教授がモンスターから得られる魔石を研究していて発明したと言われる、このスキルシャードをスロットに嵌め込むと、スキルや魔法といったモンスターが使う特殊能力を再現することが可能になります。因みにこれは炎のスキルシャードで、嵌め込むと……ほら」


 真神が六角形の宝石のような赤い欠片をグリモアのスロットに嵌め込むと、指先から火の玉が浮かび上がる。


「スキルや魔法はグリモアのバッテリーを消費して発動するので、バッテリーの容量には気を配ってくださいね。油断すれば貴方だけでなく仲間まで危険に晒すのですから」


 真神が言うように、探索者はグリモアのバッテリー残量を気にしながらダンジョンアタックを行う。


 グリモアのバッテリーが切れたらその瞬間から探索者はただの一般人になってしまう。

 探索者を目指す人は講師や先輩からしつこいくらいにバッテリー残量に目を配れと言われるらしい。


「さて、ここからは新作グリモア【ストーム】の機能について説明していきたいと思います。ストームの凄いところはスキルスロットの多さ! 一般的なグリモアの三倍! バッテリー容量も従来の二倍! まさに名前のとおりグリモア業界に嵐を呼ぶかもしれません」


 真神はストームのスキルスロットの数を指差し確認しながら数える。


 スキルスロットの数は確かに凄いけど、ダンジョンやモンスターに合わせてスキルシャードを組み替えたりするし、その分スキルシャードの数を集めないといけないのでコスト面で考えるとどうなんだろう?


「我々人類はWeb小説やRPGの主人公のようにモンスターを倒したらレベルアップしたり、スキルを覚えたりは出来ません。ですが、このグリモアを使い、スキルシャードの組み合わせによって初めて人類はモンスターと対等に戦えます」


(でも貴方はストームを買う前に、選りすぐりの探索者達のレイドチームてすら歯が立たなかったベビードラゴンの火球ブレスをテイッ!してましたよね?)


 真神はもっともらしい事言ってるけど、初めて見た動画のインパクトは忘れようがない。


 コメント欄に目をやれば、私と同意見の書き込みがちらほらとあった。


「さて、次回からはこのストームを使ってダンジョンアタックやモンスター討伐の動画を配信したいと思います。お楽しみ! 今回はここまでにしたいと思います。皆さんチャンネル登録と高評価よろしくお願いします! あとちょっとで収益化プログラムの認可貰えそうなんです、協力してください!!」


 真神は必死に視聴者に訴える。

 収益化すれば生ライブ配信やスパチャも出来るし、企業からのオファーも来やすい。


 私は真神の動画を見ながら国からの報償金やドラゴンの売却金どうしたんだろうと疑問に思った。


 





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る