第4話 推しの配信探索者がコボルト退治の動画を上げるようです(アクシデントもあるよ)
「皆さんおはこんばんにちわ、そして初めましての人は初めまして。探索者の真神英夢です」
何時もの挨拶とダサいジャージ姿で真神の配信動画が始まる。
最初はあり得ないと思っていた真神のボサボサ髪にヨレヨレの着古したジャージと便所スリッパ姿も、回を重ねる毎に慣れていき味があるように思えてきた。
「俺は今、日本五大ダンジョンの一つの渋谷ダンジョンの第三階層に来ています」
真神を撮影していたドローンカメラが移動して、渋谷ダンジョン第三階層内を撮影する。
渋谷ダンジョン第三階層は何処かの坑道みたいなエリアになっており、誰が設置したのかわからないが一定間隔でランタンが設置されて仄かな明かりで坑道内を照らす。
「今回の配信内容はこの第三階層内を出没するコボルトの簡単な倒し方をご紹介したいと思います」
真神が今回の配信目的を述べると、同業者と思われる人達がコボルトについて意見や愚痴をこぼすようなコメントが書き込まれていく。
「コボルトは単体だとそれほど驚異ではありません。ただコボルトは群れというか、最低十匹程度のチームを組んで、罠を仕掛けたり戦術を使ってきます」
私自身は探索者じゃないので詳しくはわからないけど、コメント欄には「逃げてる奴追いかけたら実は釣り野伏せりだった」とか「洒落にならない罠に引っ掛かって長期入院する羽目になった」とか色々酷い目にあったコメントが書き込まれていく。
「まずこういった細い通路に穴を掘ります。掘った穴の中に以前動画に出演して貰った多々野さんの工場で作って貰った金属のスパイクを差し込んでいきます」
真神はグリモアによって強化された身体能力を駆使して、重機並みのスピードで通路に穴を掘っていき、鋭利で丈夫そうなスバイクを次々と差し込んでいく。
「多々野さんって誰?と言う人は概要欄にその時の動画のURLリンクを貼ってるので見てくださいね。さて、これで落とし穴は完成です」
ジャジャーンと言う効果音と共に、真神は出来上がった落とし穴をカメラに映す。
ただ、コメント欄にはそんなむき出しの落とし穴にコボルトは引っ掛からないと否定的なコメントが次々と書き込まれていく。
「コボルトは狡猾で、こんなバレバレな落とし穴単体なら意味はありません………がっ!」
真神は背負っていたバックパックからビニール袋に包まれた丸薬みたいな物をカメラに見せる。
「これは渋谷ダンジョン第二階層で採取できるグネル草の葉と実を擦り潰してメスの犬の糞を混ぜて乾燥させたものです」
動画のテロップにはグネル草の写真と薬効成分の説明が表示される。
コメント欄は犬の糞を使うことに対する悲鳴などが次々と書き込まれていく。
「これに火をつけるとなんとっ! 発情期のメスコボルトと類似した臭いが発生します」
真神は使い捨てのビニール手袋で袋から丸薬を取り出すとライターの火であぶると煙が広がっていく。
「うぷっ………しょ、少々臭いがきついですが、かなり離れた距離にいるコボルトでも嗅ぎとれます」
本当に臭いがきついのか、真神は鼻をつまみながら煙が広がっていくように丸薬を振り回す。
しばらくすると、通路の奥から興奮した息づかいで一目散に真神に向かってくるコボルトの群れが現れた。
(うわ、気持ち悪い)
動画に現れたコボルトの姿は一言で例えると全長90センチ前後の体毛のない二足歩行の犬だった。
そんなコボルトの大群が興奮したように舌をだらりと伸ばして涎を撒き散らしながら、尻尾を高速でブンブン振って迫ってくる姿はホラー映画のような恐怖を感じる。
本来なら隊伍を組んでチームワークを駆使して襲ってくるコボルトが仲間を押し退けて我先にと臭いの元に辿り着こうとして………全員落とし穴が見えていないのか次々と串刺しになっていく。
「まだ息のあるコボルトには槍など長物で落とし穴の上から止めを刺すと楽です」
真神は折り畳み式の槍を取り出して展開すると、罠に引っ掛かって虫の息だったコボルトに止めを刺していく。
コメント欄は凄い勢いで好意的なコメントが書き込まれていく。
しかし、あのベビードラゴン退治で見せた理不尽なテイッ!をした人なのに、こんな風にちゃんと他の人も真似できる退治方法紹介できるんだと改めて感心する。
「おや?」
次々とやって来ては落とし穴に落ちていくコボルトの姿を見て、真神は首を傾げる。
「どうやらダンジョン渡りが出没している可能性が出てきましたね」
落とし穴に落ちたコボルトの死体の一つを引き上げると、コボルトの背中には落とし穴のスパイクとは違う引っ掻き傷があった。
「ダンジョン渡りというのは、別階層や何らかの原因で別のダンジョンから転移したモンスターの名称です。基本的に同じ階層内のモンスター達は理由は不明ですが争いあう事がありません。唯一の例外がこのダンジョン渡りで、異物を排除するようにお互い攻撃しあいます」
真神は視聴者に向かってダンジョン渡りとは何か解説してくれる。
探索者じゃない私からすればそんなのがいるんだ程度だけど、探索者からするとダンジョン渡りが出没しているのはかなり深刻な状況みたいなコメントが流れてくる。
「ダンジョン渡りがどこにいるか、探してみようと思います」
真神はそう言って、コボルトの死骸をある程度回収して落とし穴を埋めると、コボルト達がやって来た方向に向かう。
暫く薄暗い坑道を進むシーンが続いたかと思うと、進行方向から無数のコボルトが何かから逃げるように一目散に走り、真神の横を通り抜けていく。
(ひっ!?)
最後尾のコボルトが走っていると、暗闇の奥から銀色の巨大な獣の手が現れてコボルトを掴むと暗闇に引きずり込む。
暗闇から聞こえてくるのはコボルトの断末魔と骨を噛み砕く咀嚼音。
真神が軍用の広域フラッシュライトで通路を照らすと、そこにはワゴン車サイズの銀色の金属で出来た虎のような獣がいて、モザイクがかかっていたが掴んだコボルトの頭を噛み砕いていた。
「プレデターか………本来なら新宿ダンジョン第20階層に生息する金属生命体の肉食動物型モンスターですね」
なんでそんな深層にいるモンスターがこんなところにと私は疑問に思うが、同じ疑問を感じた誰かがコメントで質問すると、それがダンジョン渡りの厄介な所だと言う返答が書き込まれていく。
「プレデターの攻撃方法は───」
真神は落ち着いた様子でプレデターの解説を続けようとしたが、真神の存在に気づいたプレデターが真神の声をかきけすような雄叫びを上げる。
「えー、プレデターの攻撃の一つにこの雄叫びがあります。状態異常を防ぐスキルシャードをグリモアにセットしていないと体が麻痺しますので気をつけてください」
真神はケロッとした顔で解説を続ける。
プレデターは雄叫びが通用しなかった真神を警戒するようにグルルと唸り声を上げて、先端が鋭く尖っている尻尾を鞭のようにしならせる。
「せっかくなので、プレデターの倒す方法も解説したいと思います。プレデターは雄叫びがレジストされると、距離を取って尻尾で攻撃してくるので………」
真神がドローンカメラに向かって解説している最中にプレデターはパァンと空気の壁を叩く音を響かせて、尻尾で真神を攻撃する。
「このように軽くバチンといなして掴み、ビターンさせます」
真神は苦もなくプレデターの尻尾を片手で払いのけて、怯んだ尻尾を掴むと、そのままプレデターを片腕で持ち上げて、ビターンと言う効果音が似合いそうな勢いで地面に叩きつける。
「よいしょっ! あ、よいっしょっと!!」
その持ち上げては叩きつける行為を何度も繰り返し、プレデターはビターンビターンと何度も地面に叩きつけられギャンギャンと悲鳴を上げる。
(やっぱり、この人色々おかしい)
ワゴン車サイズの大型動物を片手で何度も地面に叩きつける映像を見せられ、私は宇宙猫になる。
「あっ!」
「ギィヤアァァァァッッ!!」
真神がプレデターを何度も地面に叩きつけいると、尻尾がブチッとちぎれてプレデターが悲鳴を上げる。
モンスターって人類の驚異のはずなのに、私はプレデターに同情を抱いていた。
「キャイーン!!」
真神の叩きつけから解放されたプレデターは反撃に出るどころか、情けない声を上げて残った尻尾を丸めて、文字通り尻尾を丸めて逃げ出した。
「おっと、逃がしませんよ」
逃げるプレデターを真神が追いかけ、その後ろをドローンカメラが追従する。
私にはその映像がホラー映画で犠牲者がキラーから逃げてるシーンに思えて仕方なかった。
「ある程度プレデターを弱らせたら、背中に飛び乗って、キャメルクラッチします!」
逃げてるプレデターの背中に飛び乗った真神はプレデターの顎を掴むとメキメキと金属の圧砕音をダンジョン内に響かせて胴体を引きちぎる。
「以上がプレデターの倒し方です。ね、とっても簡単でしょ? 今回の動画はここまで、チャンネル登録と高評価よろしくお願いします!」
真神は一汗かいたように袖で額の汗を拭いながらその一言で配信を締め括ろうとする。
「んなわけあるかぁぁぁぁっ!!」
思わず私は動画に向かって叫んで突っ込みをいれた。
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