第13話 推しの配信探索者が塩漬けダンジョンのクリア配信をするようです その2
「はい皆さんおはこんばんにちわ! 初めましての人は初めまして! 配信探索者の真神英夢です! 前回に続き今回もギルドから依頼された塩漬けダンジョンのクリアを目指したいと思います」
いつもの挨拶といつものジャージ姿で真神の配信が始まった。
(今回は珍しくサムネイルに虫注意とか書いてたけど、どういうことだろう?)
「今回は都内某所にあるダンジョン前に来ております」
今回挑むダンジョンの周囲をドローンカメラが撮影する。
今回のダンジョンはビル街の一角にある建設途中の建物の中に出来たようだ。
「こういう建設中の場所にダンジョンが出来ると最優先でクリアしないといけないのですが、なぜ最優先されるはずのダンジョンが塩漬けになったかと言うと………ここ虫型モンスターが出るんですよ」
真神がドローンカメラに向かって内緒話するように近づいて小声で塩漬けの理由を話す。
そうすると、コメント欄では『うげぇ、虫ダンジョンかよ』とか『そりゃ塩漬けになるな』とか『虫だけに無視したい』など、探索者関係と思われるアカウントから悲鳴が書き込まれていく。
「虫型モンスターがでるダンジョンがなぜ塩漬け案件になるかと言うと、虫型モンスターもアンデッド並みにタフなんですよ。痛覚がないのか手足切り落としても平気で動き回るし、蟻型モンスターだと、頭部を切り落としても、暫くは頭も胴体も動きますからね。あと純粋に見た目がキモい。軽自動車サイズのゴキブリとかいます」
(うえ~………さすがにそれは無理)
さすがに今回はみるのやめようかな………コメント欄では『俺も蟻の頭切断したのに普通に噛んできてパニックになった』とか『虫とアンデッドどっちが嫌かで探索者界隈揉めるんだよなあ』『一般的な虫なら平気だけど、軽自動車サイズといわれると怖いな』など書き込みされていく。
「特に虫型モンスターが厄介なのは壁や天井をはい回れることです。前後左右だけでなく頭上やミミズのように地中移動できたり、飛行したりと三次元戦闘を強いられます」
真神は虫型モンスターの厄介な理由を説明していく。
「今回ばかりは見てくださいとは言えないので自己判断でお願いします。まだ虫型モンスターと戦ったことの無い探索者は出来れば見てください。どんなに選り好みしても遭遇する時がありますので参考にしてください」
動画にテロップが現れて、この後ダンジョンに挑んで虫型モンスターと戦いますので視聴は自己判断でと注意書が表示される。
「では行きます」
再三注意すると、真神はダンジョンに侵入する。
「真っ暗ですね。この時点でモンスターは視野に頼らないか、熱源などで認識するタイプと予想できます」
今までのダンジョンとは違い、今回のダンジョンは光源がない。
真神はケミカルライトを点灯させると周囲になげて視界を確保する。
「蟻の巣状の洞窟ですか………厄介だなあ」
ケミカルライトを片手に持って真神はダンジョン内を確認する。
真神が言うように、ダンジョン内は上下左右無数の穴が空いており、困難な迷路になっている。
「昆虫型モンスターがいるダンジョンが嫌がられる理由の一つがこれです。ダンジョンが蟻の巣のように複雑化して、内部の把握に数日かかったり、入ってすぐの場所がボス部屋だったりっ───光に反応して早速やって来たようです!」
解説の最中、真神は何かに気づいたのかプレデターの鈍器を抜いて構える。
ダダダダっと大群が移動する音がダンジョン内に響き、真神は音の根元を探すように周囲を見回す。
「上かっ!」
(ひいいいっ!? きっ、気持ち悪いいっ!!)
真神が上を向いたかと思うと、後方に跳躍する。
先ほどまで真神が居た場所に滝のように大型犬サイズの蜘蛛が雪崩落ちてくるをみて私は鳥肌がたった。
「数が多いけど、事前情報があれば対策できるんだよっと!」
真神は懐からガスマスクを取り出すと装着し、ジャージのポケットから棒状の何かを蜘蛛の群れに投げ込む。
ボンッと言う破裂音と共に棒を投げ込んだ場所から毒々しい紫色のガスが噴出し、蜘蛛達を包み込んでいく。
ガスに触れた蜘蛛達は痺れたように動きがぎこちなくなり、本当の昆虫と同じように逆さまになって絶命する。
「カーバメイドなど昆虫型モンスターにも有効な殺虫成分を強化したガスグレネードです。味方がいる時は使用に注意してください」
真神は先ほど投げたアイテムが何か説明しながら生きている蜘蛛に止めを刺していく。
「昆虫型モンスターが嫌われる理由に素材があまり価値がないことです。魔石ぐらいしか売れないので普通の探索者は肉とか皮とかも売れるモンスターを優先します」
コメント欄でも『無駄にタフで数で攻めてきて売れる素材がほとんどないんだよな』とか、『魔石もそこまで高く売れないのでまじで労力に見合わない』とか、『殺虫グレネードを使えば確かに一網打尽だけど、グレネード自体高いし、探索者のライセンス以外に危険物免許が別途いる』など昆虫型モンスターがどれだけ外れか語り合う。
「さて、探索を続けますが………場合によっては探索シーンははしょります。まじで探索時間読めないんですよ」
蜘蛛のモンスターから魔石を回収し終えると、真神は画面に向かって告知する。
それとも同時に画面が暗転て、うんざりしたかおの真神がボス部屋の前にいる画面に切り替わりテロップには探索六時間経過と表示される。
「やっとこさボス部屋です。ほんと疲れました」
蟻の巣状の洞窟に不似合いな意匠が施された巨大な金属の扉がドローンカメラに映し出される。
コメント欄では探索者アカウントが自分が体験した最長探索時間でマウントを取り合っていた。
「それでは突入します!」
真神が扉を押してボス部屋に突入する。
ボス部屋は岩で出来たドーム状の大部屋で、部屋の中心部には巨大な蜘蛛の巣が張られており、その中心部には一軒家サイズの黒い無数のトゲが生えた甲殻で覆われた蜘蛛がいた。
頭部と思われる場所には八つの人間のような目があり、ギョロギョロと周囲を見回しており、十本の足の先端は鉤爪の生えた手のようになっている。
「うへ、銛黒後家蜘蛛かよ」
真神はボスの姿をみて、モンスター名を呟く。
「ギシャー!!」
「危ねっ!?」
真神を敵と認識したのか、銛黒後家蜘蛛は鳴き声を上げると、口から生えている銛のように返しのついた牙を打ち出す。
真神が側転でとっさに避けると、先ほどまで真神が居た場所に牙が突き刺さり、外れたのを確認すると粘液の糸で牙を引き戻す。
「これでも食らえ!」
真神はまたジャージのポケットから殺虫ガスのグレネードを銛黒後家蜘蛛に向けて投げる。
「うげっ! マジかよ!!」
銛黒後家蜘蛛はそのグレネードの正体に気づいたのか臀部から糸を分泌すると、グレネードを包んでガスの放出を阻害する。
「キイイィィィー!!」
銛黒後家蜘蛛は十本の足を器用に使って鉤爪で岩を掴むと真神に投げてくる。
「んなろっ!」
真神はプレデターの鈍器をバッティングフォームで構えると、飛んできた岩を打ち返す。
「ギイイイイイッ!!」
真神が打ち返した岩の幾つかは銛黒後家蜘蛛に命中し、甲殻に生えたトゲを折ったりする。
反撃を食らった銛黒後家蜘蛛は、怒りの声を上げて巣から降り立つと、十本の足で踏みつけようとしたり、牙を銛のように何度も飛ばして攻撃してくる。
「だあああっ!!」
真神は攻撃を右へ左へ上空へ飛んだり跳ねたりして攻撃を回避する。
どうしても避けきれない攻撃には鈍器でパリィするように打ち返して猛攻を凌ぐ。
「しつけえ!!」
銛黒後家蜘蛛の足の攻撃を回避すると、足の甲殻に生えたトゲを支点にかけ登り、頭部を鈍器で殴り飛ばす。
(うわっ! 家サイズの蜘蛛がよろけて倒れた!?)
真神の攻撃を受けた銛黒後家蜘蛛は地響きを上げて転倒して土煙をあげる。
「ギイイイイイッ!!」
「うわっ!?」
倒れながらも銛黒後家蜘蛛は反撃として臀部から糸を飛ばし、真神の鈍器に巻き付ける。
「ギギギギ!!」
「ぬぐぐぐぐ!!」
真神と銛黒後家蜘蛛はお互いに引っ張りあい、気張った声を漏らす。
「うおおおりゃあああ! 大蜘蛛の一本釣りぃぃっ!!」
「ギャアアアアンンッ!!」
引っ張りあいの力比べに勝ったのは真神で、背負い投げの要領で鈍器に絡み付いた糸を引っ張って、家サイズの蜘蛛を投げ飛ばす。
轟音と地揺れ、濛々と立ち込める土煙、必死に起き上がろうと暴れる銛黒後家蜘蛛。
「ぜー、ぜー………よっし、あれだ!!」
真神は顔を真っ赤にして肩で息をしながら何かを探すようにキョロキョロすると、目的のものを見つけたのか駆け出す。
真神が向かったのは天井からぶら下げる巨大な鍾乳石。
先ほど銛黒後家蜘蛛が投げた岩の残骸をうち飛ばして鍾乳石にぶつけて、銛黒後家蜘蛛の上に落とそうとする。
「ギイイイイイッ!!」
「うぐっ!?」
銛黒後家蜘蛛も真神の意図がわかったのか、牙を銛のように飛ばし、真神を攻撃する。
銛黒後家蜘蛛の牙が真神に命中するとグリモアのオートガード機能が発動してバリアが発生するが、真神は吹き飛ばされてしまう。
「ギシャー!!」
銛黒後家蜘蛛は牙を引き戻すと起き上がり、怒りの籠った雄叫びをあげる。
「うるせーんだよっ!!」
真神はそう叫びながらてに持っていた鈍器を鍾乳石に向けて投げる。
鈍器が命中した鍾乳石はそれが止めとなったのか、音を立てて割れていき、銛黒後家蜘蛛の頭上に落ち、頭部を突き刺さす。
頭部に鍾乳石が突き刺さっても、まだ銛黒後家蜘蛛は活動を停止する気配はなく、真神を道連れにしようと牙を飛ばす。
「いい加減死ねやっ!!」
真神は牙を回避すると跳躍して銛黒後家蜘蛛の足のトゲを掴み、頭まで上っていく。
銛黒後家蜘蛛は真神を振り落とそうと暴れるが、真神はものともせずに上りきると、突き刺さった鍾乳石を抱き抱えてグリグリと動かし、更に深くねじ込んでいく。
「ギシャー!!」
「うあおおおっ!!」
銛黒後家蜘蛛は鍾乳石が突き刺さった部分から体液を撒き散らしながら暴れる。
真神は何度か振り落とされそうになるが、持ち直すと鍾乳石を押し込んでいく。
「ギ………ガ………」
真神と銛黒後家蜘蛛の勝負は真神に勝敗が上がった。
真神の怪力で顎下まで鍾乳石が貫通し、遂に銛黒後家蜘蛛が絶命した。
(やった! 真神さんが勝った!!)
手に汗握る銛黒後家蜘蛛との戦いに勝利した真神さんを称えるように私は画面の前で拍手をする。
「つ………疲れたぁ~………」
真神さんはその場に大の字に寝転がる。
それと同時にダンジョンがクリアされたことを表すように風景が変わっていく。
「えー………こんな体勢で申し訳ないですが、討伐に成功したので配信を終了したいと思います。はぁ……はぁ……えーっと、チャンネル登録と高評価、お願いします………もうダメ」
首だけ上げてドローンカメラに向かって締めの言葉を伝えて真神は配信を終えた。
コメント欄ではお疲れ様など労いの言葉で埋め尽くされていた。
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