第12話 推しの配信探索者が塩漬けダンジョンクリア配信するようです その1


「はい皆さんおはこんばんにちわ! 初めましての方は初めまして! 配信探索者の真神英夢です! ちょっと間空きましたが俺は元気です」


 二週間ぶりに私の最推し配信者、真神の配信動画がアップロードされた。

 勤務中にお知らせきた時は早退しようか本気で悩んだけど何とか定時まで我慢できた。


「えー、間が空いた理由はギルドから依頼されたいくつかの塩漬けダンジョンのクリアに時間を取られたからです。俺PKに襲われた被害者なのに暴れすぎとかやりすぎとか意味わかんねー、ちょっとPK手配した首謀者の家にサプライズ訪問したけなのに」


 真神は動画をあげるのに間が空いた理由を述べる。

 ボソリと愚痴を呟くと、ギルド関係者かなと思われるアカウントから反省しろとか、訪問(物理)とか、色々と根回しとか段取りとかあるんだよとか、火消しする立場も考慮しろとか、ピコピコハンマーで首謀者の家半壊させんな!とか書き込みがされていく。


(ピコピコハンマーで家半壊? 何いってるの、この人?)


 いったいなのんのことかと首を傾げていると、いくつかの書き込みが運営から削除される。


(いや、本当に何があったの?)


「塩漬けダンジョンがわからない人に説明すると、ドロップ品が不味かったり、ダンジョンの発生した場所が辺鄙過ぎたりと、様々な要因から不人気になったダンジョンのことです。不人気だからと放置していたらモンスタースタンピードが発生する可能性もあるので、ギルドから罰ゲーム的な意味合いでクリアを依頼されます」


 そんな疑問を無視するように真神はわからない人のために塩漬けダンジョンについて説明する。正直素人認識だとダンジョン=危険だけど儲かるだと思ってた。


 真神の罰ゲーム発言にたいしては残当とか、言い方!!とかまたまたギルド関係者かなと思われるアカウントからのコメントが書き込まれる。


 他にも同業者と思われる人が気持ちわかる的な書き込みや、俺が潜ったくそダンジョンで盛り上がっている。


「今回のダンジョンはガチで辺鄙です。車すら入り込めない山、山の麓から徒歩で二時間登った沢にあります」


(そんな辺鄙な場所のダンジョン誰が見つけたんだろう)


「因みに発見者は渓流釣りが趣味の釣り人です。ここは所謂知る人ぞ知る隠れた釣りスポットだったとか」


私がどうやってダンジョンを見つけたのか疑問に思っていると、真神はダンジョンが発見された経緯を話してくれる。


「ギルドの事前調査で洞窟型のダンジョンで一階層のみ、最奥にボスがいるオーソドックスなダンジョンです。それでは潜って行きたいと思います」


 真神はダンジョンの概要を説明すると、ダンジョンに突入する。


 ダンジョン内は溶岩窟のような作りで、壁の苔が仄かに発光しており、視界に困らない程度の光量が確保されていた。


「お、早速モンスターのようですね」


 しばらくダンジョン内を探索していた真神が足を止めると、進行方向から犬のようなモンスターが現れた。

 その姿は艶のない黒い毛皮に覆われたグレーハウンドのような外見で、虹色の鮮やかな瞳がギラギラと輝いていた。


「イスバウンドですね。こいつのこう───」

(あれ? このモンスター、浮遊していない?)


 真神がモンスターの名称を伝えて攻撃方法を伝えようとすると、イスハウンドは飛びかかってくる。


 真神が体を傾けて回避するが、イスハウンドは着地せずに浮かんだまま壁を蹴って再度攻撃を繰り返す。


「よっ、ほっ、よいしょっと! イスハウンドはこのように飛行能力があり、噛みつき攻撃を繰り返します。しつこいっ!」

「ギャンっ!!」


 イスハウンドが飛行しながら何度も噛みついてくるのを回避して説明を続ける真神。

 ボクシングスタイルの構えをとったかと思うと、パパパンと空気を打つような音と共に素早い連続ジャブでイスハウンドに攻撃する。


「ここできをつけてほしいんですが、イスハウンドは物理耐性を持っています。出来ればグリモアの魔法スキルか、属性付与スキルなどで攻撃をしましょう」


 真神は構えを解かずに殴り飛ばされたイスハウンドを睨みながら解説を続ける。


「グ、グルル………ガアッ!!」


 殴り飛ばされたイスハウンドは起き上がると、殴られたダメージがまだ残っているのか、フラフラとよろけて頭を振って意識を戻すと、また飛行して真神に飛びかかる。


「よっと!」

「ギャガッ!?」


 飛びかかるイスハウンドの攻撃を真神はサイドステップで避けると、イスハウンドの腹部に抉り込むようにアッパーで攻撃する。


 イスハウンドにとって真神のアッパーは強力な一撃だったのか、口から血を吐いて墜落する。


「止め!」

「ギャンっ!!」


 墜落したイスハウンドに追い討ちをかけるように真神はイスハウンドの首に体重を乗せた踏み抜くような蹴りを行い、バキンと骨が折れる音が洞窟に響く。


「死体の回収は後にして、探索を再開しましょうか」


 イスハウンドを倒した真神は探索を再開して洞窟型ダンジョンを進んでいく。


「このダンジョンはイスハウンドがメインのようですね」


 その後も何度かイスハウンドの襲撃を受けるが、真神は傷一つ受けることなく素手で倒していく。


 コメント欄ではイスハウンドって実は弱い?なんて書き込みがされると、探索者と思われるアカウントから真神が異常に強いだけであって一般的な探索者は武装した五人前後でやっとイスハウンド一匹と渡り合えると注意し、真神を基準にしてはならないと書き込むと、別の探索者アカウントからもあれは例外、イレギュラー、人類のバグと滅茶苦茶言われていた。


「お、ボスの部屋のようですね」


 洞窟型ダンジョンには不似合いの豪華な意匠がされた巨大な扉が見えてきた。


「それでは早速挑戦してみたいと思います」


 真神は扉を開けてボス部屋に入っていく。

 ボス部屋は巨大なドームになっている鍾乳洞で、真神が足を踏み入れて扉が閉じると、岩山の一つが動き出す。


(でかい!!)


 岩山だと思っていたのは、岩のような体毛に覆われた全長5メートルサイズの巨大な猿で、額からは二本の角が這えており、その両腕には岩のようなイボが這えていた。


「グオオオオオ!!!」

「先手必勝! オラッ!!」


 巨大な猿は真神を威嚇するように二足歩行で立ち上がって雄叫びをあげるが、真神はそれを気にした様子もなく、助走をつけて跳躍すると巨大な猿の胸にドロップキックを食らわせる。


「グオオオッ!?」

(えええーっ!?)


 真神のドロップキックを受けた巨大な猿はよろけて尻餅をつく。

 質量的にもあり得ない現象に私が驚いていると、コメント欄では真神が特別であって、一般的な探索者にはできませんとか、あれを基準にしてはいけませんといった書き込みがされていく。


「ウギイイッ!!」


尻餅をついた巨大な猿は鳩が豆鉄砲食らったような顔していたが、自分が攻撃されたと理解すると怒りの形相になり立ち上がると、両手を振り上げて地面に叩きつける。


 叩きつけられた瞬間、轟音と土煙を上げて地面にはひび割れが広がり、その威力が凄まじいことがわかる。


 真神は後方に大きく跳躍して回避するが、巨大な猿は猿は追撃するようにビンタして真神を吹き飛ばす。


(真神さんっ!?)


 巨大な猿のビンタを受けた瞬間、真神が装備しているグリモアのオートガードが発生したが、質量まで耐えられなかったのか、真神はオートガードを維持したまま壁に激突して瓦礫に埋まる。


「いって~………」


 瓦礫を退かしながら起き上がる真神。

 オートガード機能のお陰で大きな怪我はないようで、ジャージについた埃を叩いて落としている。


「グオオオン!!」

「うおおお~、あぶねえええ!!」


 巨大な猿は近くにあった岩を掴むと、次々と真神に向けて投げる。

 真神は鍾乳洞を走り回って飛んでくる岩を回避する。


「ガアアアッ!!」


 巨大な猿は岩を投げても埒があかないと思ったのか、苛立つように両手を何度も地面に叩きつけると、クラウチングスタートのような体勢をとり、角を突きつけるように真神に突撃する。


「よいしょっと!」

(嘘でしょ!?)


 真神は巨大な猿の突撃を迎撃するように真っ直ぐ走る。

 あまりにも無謀すぎる真神の行動に私は息を飲む。


「オラッ!!」

「ガアッ!?」


 真神はスライディングで巨大な猿の股の間を器用に通り抜けると、近くの鍾乳石を掴んでターンして巨大な猿のお尻にドロップキックを食らわせる。


 尻を蹴られた巨大な猿はそのまま岩壁に激突して、片方の角が折れる。


「ホッギャアアアアアッ!!」

「うるせえーー!!」


 巨大な猿は自分の折れた角を見ると、雄叫びをあげ、体毛が赤くなっていく。


「ギイイイイイッ!!」


 まさに怒髪天をついたような怒りの形相で真神を睨むと、両手を組んで振り上げるとハンマーナックルのように振り下ろす。


(真神さんっ!?)


 巨大な猿のハンマーナックルが地面に叩きつけられると、鍾乳洞全体が揺れて鍾乳石が崩れ落ちて、瓦礫の粉塵でドローンカメラの視界がなにも見えなくなる。


「ガア?」


 粉塵が晴れていくと、巨大な猿は獲物を見失ってキョロキョロと周囲を見回している。


 その巨大な猿の背後に真神が潜んでおり、いつ取り出したのか、その手には趣味の悪いプレデターの頭部を使った鈍器が握られていた。


「お前で末代にしてやるアターック!!」

「~~~~~っ!!!!」


 真神は跳躍しながら鈍器で巨大な猿の股間を突き上げ潰す。


 インパクトの瞬間パァンっと何か破裂する音が聞こえて、巨大な猿は猿は声にならない悲鳴を上げでブクブクと泡を噴き、よろよろと数歩歩いたかと思うと倒れ、ピクピクと震えている。


 真神の攻撃を見たコメント欄では酷いだの、タマがヒュンとしたとか、あんな倒され方は無念だろうなといった書き込みがされていく。


「お、ダンジョンクリアのようですね」


 まだ息のあった巨大な猿に止めを刺すと、鍾乳洞だった周囲の風景が溶けていき、ダンジョンに入る前の山奥の沢の風景に切り替わっていく。


「今回の配信はここまで。しばらくはノルマクリアのために塩漬けダンジョンのクリア配信になります。面白かったらチャンネル登録と高評価よろしくお願いします」


 倒した巨大な猿の背中の上で真神は鈍器を肩に担いで締めの挨拶をして動画は終わった。

 

 




 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る