第11話 推しの配信探索者が配信中にPKの凸を受けるようです


「皆さんおはこんばんちわ! 初めましての方は初めまして! 配信探索者の真神英夢です!」

(きゃー! 真神さんの新しい動画だー!)


 推しの配信探索者真神さんの新しい動画がアップロードされたので早速視聴する。


(あ、レガシーアイテムのガントレットしてる)


 動画の中の真神はいつものようにジャージに便所スリッパ姿だが、前回のレインボーボックスの動画で手に入れた黄金のガントレットを装着していた。


「今回私は千葉の方にある森フィールドタイプのダンジョンに来ています」


 真神は自分がどこにいるか紹介すると、ドローンカメラに周囲の風景を撮影させる。


 動画に映し出されるのは辺り一面緑に覆われた風光明媚な森。

 ダンジョンじゃなければ森林浴にいきたいと思えるほどの綺麗な風景だった。


「今回はマンドラゴラの簡単な捕獲の仕方を解説したいと思います。視聴者の皆さんはマンドラゴラって知っていますか? 知らない人の為に解説しますね」


 真神はそう言って事前に用意していたのか、自作のフリップを取り出す。


「マンドラゴラはこういった森林タイプのフィールドダンジョンの地中に隠れている植物型モンスターで、こんな外見です」


 フリップには頭に葉っぱの生えた人の手足や顔をした植物の根っこイラストが書かれている。本人が書いたかわからないが結構上手い。


「マンドラゴラの死骸には強力な薬効成分があり、ギルド指定の買い取り所以外での売買が禁じられています」


 真神の説明と同時にテロップで薬事法やら色々な法律による罰則が表示される。


(たった一匹で買取価格数千万で、市場価格は億単位!? すごっ!)


 探索者ギルドでの買取価格もテロップで紹介されてるが、金額が凄い。


「まあ、レアモンスター扱いで見つかる確率はたった一枚の宝くじで一等を当てるぐらいだと言われています」


 そんなレアな確率だと、今回見つけられるのだろうかと心配する。


「今回偶然見つけることが出来たので、動画にしました。で、マンドラゴラはモンスターですが基本地中に隠れてやり過ごすだけでこちらを襲って来たりしませんが………伝承にある通り、抜くと悲鳴を上げます」


 真神はフリップをめくってマンドラゴラを抜いた時の注意事項を説明し始める。


「その悲鳴には即死の呪いが付与されており、グリモアにレジスト系のスキルシャードを装備していないと死にます。仮に耐えても、マンドラゴラの悲鳴にはモンスターを呼び寄せる特殊能力があり、絶命するまでモンスターウェーブが続くと思ってください」


 フリップのイラストには抜いたマンドラゴラが悲鳴をあげるイラストとショック死する人間のイラスト、さらにフリップを捲ると逃げる人間と追いかけてくるモンスターの集団のイラストが描かれている。


「これまでの対処法方としては、犬に抜かせて身代わりにするとかだったんですけど、動物愛護団体などのクレームから今は禁止されており、スピーカーなどで大音量で悲鳴を相殺する、ヘッドフォンや耳栓で悲鳴を聞かないなどで対処しています。モンスターウェーブは気合いで何とかします」


 真神はまたフリップをめくってマンドラゴラのこれまでの確保の仕方を説明する。


「さて、今回紹介する捕獲方法の前に、マンドラゴラが隠れている場所へ向かいましょう!」


 ここで画面が切り替わり、ビルぐらいの大きさと高さのある巨木の根元に立っている真神が映し出される。


「これがマンドラゴラです」


 真神は巨木の剥き出しの根っこを屋根代わりにした大根みたいな葉っぱの植物を指差す。


「まず用意するのはこちら」


 真神がバックパックからスピリタスと書かれた酒瓶を取り出す。


「これを全部マンドラゴラにぶっかけます」


 キュポンと蓋を空けたかと思うと、酒瓶を逆さまにしてスピリタスをマンドラゴラにかけていく。


「マンドラゴラは植物型モンスターなので、土中から水分や栄養を吸収するんですが、人間みたいに吸収物を選んだり、止めたりできないんですよね」


 スピリタス一本丸々注ぎ終えると、マンドラゴラの葉っぱがざわつく。


「ダメ出しにもう一本っと」


 またダバダバとスピリタスをマンドラゴラに注いでいくと葉っぱが激しく揺れる。

 まるでもうこれ以上飲めないと抗議して暴れているような印象を受ける。


 コメント欄もアルハラだー!とか、飲ーんで飲んで飲んで♪とか賑わっている。


「お、効いてきましたね」


 二本目のスピリタスも注ぎ終えると、マンドラゴラが自分から地上に這い出る。


 地上に這い出たマンドラゴラは泥酔したおっさんのようにフラフラとよろけながら歩いたかと思うと、酔いつぶれたのか急性アルコール中毒にでもなったのか倒れる。


「はい、捕縛完了!」


 動けないように紐でマンドラゴラを縛り、口と思われる部分には厳重にガムテープを何十にもぐるぐる巻きにして貼り付ける。


「以上、マンドラゴラの簡単な捕獲方法でした~!」


 捕獲したマンドラゴラをカメラに向かって見せる真神。

 コメント欄ではそんな簡単な方法がとか、これまでの苦労はとか騒いでいたが、『捕獲方法わかっても見つかる方法は今まで通りだよね?』『それな』と言う一言で静まった。


「さて、本来はこれで動画は終わりの予定でしたが………サプライズゲストが来たようですね。さっさと出てこい! そんなに殺気漏らしてたら隠れる意味ないぞ!!」


 急に真神が真剣な顔になると、森に向かって叫ぶ。


 コメント欄ではモンスターの襲撃かと盛り上がり始める。


 ドローンカメラが真神の視線の方向に向くと、全員スケルトンマスク姿の武装した集団がいた。


「ダンジョン内での故意によるグリモアのIFF停止は探索者法違反だぞ。PKと誤認されて攻撃されても文句言えないぞ」


 真神がスケルトンマスクの集団に声をかけるが、集団側は無言のまま立っている。


(PKってなに?)


 用語がわからなかった私はコメント欄にPKについて質問する。


『PKってのはネトゲ用語でプレイヤーキラー、つまり人が人を襲うことで、今回の場合は悪意ある探索者が真神さんに襲撃を行ったってこと』


 そんなことする探索者がいたことに私はショックを受ける。


「命が欲しければレガシーアイテムとマンドラゴラを置いていけ。あとカメラを止めろ」


 ボイスチェンジャーを使っているのか、スカルマスクの一人が機械的な声で真神を脅す。

 同時に残りのスカルマスクの集団も武器を抜いて威嚇する。


「だか断る」

「………やれ」


 真神はスケルトンマスクの脅迫を断ると、スケルトンマスク集団の一人が武器をかまえて真神に襲いかかる。


「スリッパブレード!!」


 真神は片足を上げて履いている便所スリッパを手に持つと、襲ってきたスカルマスクのPKの頭をはたく。


 バコォォンっとスリッパとは音が響いたかと思うと、真神を襲おうとしたスカルマスクはグリモアのオートガードバリアを突き破って、はたかれた頭が地面にめり込む。


「は?」

『は?』『え?』『スリッパでグリモアのオートガード突き破った!?』


 スカルマスクの集団は真神の攻撃が信じられないのか間抜けな声を漏らし、コメント欄も真神の攻撃に驚くコメントが書き込まれていく。


「ダブルスリッパブレード!!」


 真神はもう片方の手にもスリッパを構えるとスカルマスクの集団に突っ込む。


 鎧袖一触とはまさにこの事と表現したくなるほどの戦力差で、真神はスリッパでスカルマスクの集団をまるでゴキブリ退治のよう叩き潰していく。


『モンスターの攻撃に耐えれるように設計されたオートガードをスリッパで叩いて突き破るとかあり得ない!?』

『人ってあんな簡単に吹き飛ぶんだ………』

『これヤラセだよね? 頼むからヤラセと言ってくれ!』

『新作アクション映画のPVかCMかな?』


 コメント欄ではそんな書き込みがされていく中、スカルマスク集団は次々と撃破されていって数を減らしていく。

 中には戦意を失って逃げようとする者もいたが、真神は逃げる相手にも容赦する気はなく、追いかけてスリッパで尻をはたいて、文字通り叩き飛ばしていく。


「あとはお前だけだな」

「なっ!? はっ、聞いていた話が違うぞ!!」


 真神はボロボロになったスリッパをリーダー格と思われる人物に向ける。


「まっ、待て! こっ、降参する! 誰に頼まれたか吐くから助けてくれ!!」


 リーダー格のスカルマスクは武器を投げ捨てると両手を上げて降参と叫ぶ。


「………よし、こうしよう。右か左か俺が今からどっちのスリッパでお前を殴るか当てたら許してやる。答えるチャンスは三回だ」


 スカルマスクの降参を聞いた真神はスリッパで素振りしながら選択肢を突きつける。

(あれ? 三回もあったら当てれない? 見逃してあげるのかな?)


 コメント欄でも私と同じように三回あれば当てれると指摘している人たちがいる。


「みっ、右だ!」

「ブッブー!」


 スカルマスクは右のスリッパを指さす。

 それはハズレだったのか、真神は首を横に降る。


「じゃっ、じゃあ、左だ左!!」

「違いまーす」


 今度は左のスリッパを指差すが、また真神は首を横に降る。


「え? ………もっ、もしかして両方?」

「ピンポーン!」


 スカルマスクが両手に持つスリッパを交互に指差しながら答えると、真神は正解の効果音を口ずさまなが、スリッパを構えてスカルマスクに近づいてくる。


「お、おい………ちょ、ちょっと待てよっ! 正解したら許してやるんじゃなかったのか!」

「ああ、あれは嘘だ」


 スカルマスクは喉が張り裂けんばかりの怒鳴り声で抗議すると、真神はにっこり笑ってクロスを画くようにスリッパを振り下ろす。


 リーダー格のスカルマスクは口から血を吐きながら気絶したのかその場に倒れた。


「とりあえず見ていると前提して話しますね。こいつら雇った奴、俺は逃げも隠れもしねえからいつでも来いよ。その代わり尻尾掴んだらこっちから挨拶に向かうからな」


 真神は気絶したスカルマスクの一人の頭を掴み上げてマスクを剥ぎ取って素顔を晒しながら宣戦布告する。


「途中アクシデントありましたが今回はここまで! 面白かったらチャンネル登録と高評価よろしくお願いしまーす!!」


 真神は先ほどまで戦っていたとは思えない笑みを浮かべながら、気絶しておる襲撃者の手をつかんでぶらぶらと手を振らせて動画は終了した。


(色々と濃かったなぁ………と言うか、動画サイトこれ本当に映像審査したの?)



 グロとか事故映像には厳しい探索者の動画配信サイトの判断基準に疑問を持つ。


(まあ………真神さんは武器じゃなくてスリッパで殴っただけだし、正当防衛だし、襲撃者も気絶しているだけで死人出ていないからセーフなのかな? チャンネル凍結とかされないといいなあ)


 私はそんなことを思いながら1日を終えた。


 




 

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