第10話 推しの配信探索者がレインボーボックス開封儀式動画をあげるようです
「あれ、こんな時間に真神さんの新しい動画?」
日付がもうすぐ変わる時間帯にスマホに真神の新しい動画がアップロードされたお知らせが来た。
「レインボーボックス? なにそれ?」
サムネイルタイトルを確認すると、レインボーボックスと言う物を開封するのを動画にしたようだ。
「皆さんおはこんばんちわ! 初めましての方は初めまして! 配信には探索者の真神英夢です。えー、本来は配信する予定ではなかったのですが、一緒にダンジョンに潜った仲間から配信するべきと言われて、急遽アップロードしました」
何処かの会議室と思われる場所で、いつものジャージ姿の真神が少し戸惑った様子で頭をかきながら配信理由を述べる。
コメント欄では以前助けた現役女子高生探索者の視聴者達がこちらに流れ込んで来て挨拶していたりする。
「本題に入る前に、今回一緒にダンジョンに潜った仲間を紹介します。まずはこいつから」
「世紀末裸者、裸王だ! 気軽にラッピーって呼んでね!」
真神が一人目を紹介すると、【最後の良心】とプリントされたブーメランパンツ一丁のボディビルの大会でも滅多に見られない筋肉モリモリのごりマッチョがビルダーポーズをとりながら自己紹介を始める。
最後にライトの光が反射するほどの白い歯を見せて笑みを浮かべ、大胸筋を激しく上下に動かしてアピールする。
コメント欄では筋肉のお化けだとか、ナイスバルク!とか、濃すぎて眠気がとんだなど裸王と名乗ったゴリマッチョの挨拶にコメントしていく。
「俺は心に七つの傷を持つ男、北東野健次郎!」
次に現れたのはボディアーマーにライフルを装備したパンチパーマにゲジゲジ眉毛の濃い顔立ちの男。てか、心に七つの傷ってトラウマが七つもあるのかしら?
あまりに濃すぎる探索者の登場にコメント欄は沸いている。半数近くのコメントがお茶吹いたとか声にだしてワロタとかだけど。
「俺達は! 豪傑達が集い、団ケツ力が売りの探索者カンパニー【傑の穴】! 豪傑と自負する探索者の社員募集中!」
裸王と健次郎は事前に示し会わせていたのか、ポーズをとりながら自分達が所属する探索者カンパニーの宣伝を始め、テロップには傑の穴のホームページリンクが貼られる。
(うわぁ………)
怖いもの見たさにリンクをクリックして傑の穴のホームページに飛ぶと、トップページからワセリンか何かでテカテカしてるマッチョ軍団の集合写真。
会社を紹介したいのか、筋肉を見せたいのかよくわからないホームページデザインに私は即座にブラウザバックした。
コメント欄も傑の穴のサイトを覗いて阿鼻叫喚のコメントが流れていく。
「今回、彼らとダンジョン探索していたらレインボーボックスを見つけました」
「レインボーボックスがわからない人の為に説明しよう! ダンジョンにはRPGに出てくるような宝箱が存在する!!」
真神が今回の動画内容を説明しようとすると、裸王が真神を自分の体で隠すようにカメラの前に登場して、ビルダーポーズをとりながら解説を始める。
「宝箱には木、石、銅、鉄、銀、金、白金の七つのグレードがある。グレードが高いほどレアなアイテムが手に入る。」
今度は健次郎がカメラの前に顔面ドアップで入り込んで宝箱のグレードの説明をするが………二人のキャラが濃すぎて説明が頭に入ってこない。
「あのさ………二人とも、これ俺のチャンネルなんだけど?」
「ひっ!?」
「す、すまない」
真神はにっこり笑いながら二人に注意をすると、二人は怯えたように謝罪してカメラから離れる。
「ええっと、話の続きですけど、宝箱にはレインボーボックスと呼ばれる木から白金までのアイテム一つが入っているランダムボックスがあります。7種類のランクと、虹色に輝くことからレインボーボックスと呼ばれています。実物はこちら」
真神が解説すると、カメラが移動してテーブルの上に三つの七色に輝く宝箱が映し出される。
「これがレインボーボックスと呼ばれる宝箱で、偶然にも三人分ゲットしたんですよ」
「でだ、せっかくだから開封配信するべきだと我らが提案して今回に至る」
レインボーボックスが手に入るのはかなりレアなのか、コメント欄では同業者達が羨んだり、ダンジョン素材関連の企業からは中身によっては買い取りますとオファーを始めている。
「まずは我から先陣をきらせてもらおう。コォォォォ………」
裸王がレインボーボックスの前に立つと深呼吸を始め、謎の構えを取る。
「ビックリするほどユートピア! ビックリするほどユートピア~!!」
(???)
裸王はレインボーボックスを開けずに唐突にリズムをとりながら奇声を上げ、白目向いてパンパンと両手で自分のお尻を叩き始める。
裸王の突然の奇行に戸惑うが、コメント欄では『本当にやる人いた!』とか『そっちの方が効果あるのかな?』と何か訳知り顔なコメントがちらほらと書き込まれていく。
「あー………都市伝説レベルで、あれをやると良いものが出るなんて言われてるんだ」
苦笑した真神が視聴者達に向かって裸王の奇行を説明する。
「ぬうぅりゃあああっ!」
確率をあげる儀式を終えた裸王は気合いを込めてレインボーボックスを開封する。
「あべわらばっ!!」
ボックス中身を確認した裸王はまた奇声をあげてその場に崩れ落ちる。
何が出たのかドローンカメラがボックスの中身を確認すると、魔石と呼ばれる赤黒い石が一つだけ入っていた。
『最低ランクの木の宝箱でもハズレ枠の屑魔石だ………』
中身を見た視聴者の一人がボックスのアイテムの正体を言い当てる。
「くっ! やはり最後の良心をぬぎすてるべきだったかっ!?」
「それ脱いだら、画面外で血尿がでるまで蹴り続けるからな」
裸王はハズレ枠の魔石を握りしめながら、最後の良心と書かれたパンツを脱ごうとする。
真神はチベット砂狐並の冷たい視線で裸王に警告するしていた。
「やれやれ、裸王兄さんは運がないな。今度は俺が開けて視聴者の皆さんを湧かせるぜ! ホォォォァァ!!」
必死に笑いを堪えながら肩を震わせる健次郎。
裸王と交代するようにレインボーボックスの前に立つと、深呼吸を始め、裸王と同じように謎の構えを取る。
「命を大事に! 命を大事に!!」
そして急に前屈みになったかと思うと、ポケットから割りばしを取り出し鼻の穴に突っ込み、右手でシャドウボクシングしながら、左手で九字を切る。
多分レインボーボックスの確率をあげる行動だと思うけど、最初にこれ考えたの誰よ。
「アタァッ!」
掛け声と共に健次郎がレインボーボックスを開封する。
「ふっ………爆死確認!!」
健次郎は中身を確認するとカメラに向かって笑みを浮かべたあと、膝から崩れ落ちた。
『石の宝箱ランクの魔石だね。裸王さんのよりはましだけど、探索者界隈ではハズレ枠』
二人とも動画で醜態さらしてハズレとか不憫すぎない? あ、でも芸人的にはおいしいのかしら?
「とりあえず開けますね」
「待て待て待て待て!」
「真神、お前も儀式やれよ」
二人の爆死を確認した真神は普通にレインボーボックスを開けようとして、裸王と健次郎に止められる。
「いや、そんな眉唾な物に頼らなくても………元々外れても仕方ないもんでしょ?」
「ええい、知らんぞ、儀式をやらなかったせいでハズレても」
「あとで儀式をやるべきだったと思っても知らないぞ」
真神は都市伝説を信じていないのかそのまま開けようとする。
裸王と健次郎は本人の意思を尊重して離れるが後ろでぶつくさ呟く。
「うるさいなあ、好きにさせろよ」
真神はぶつくさ言う二人を鬱陶しそうに見ながらレインボーボックスを開封すると、黄金色の光がレインボーボックスから漏れる。
『うわっ! 白金確定のエフェクト!』
その様子を見ていた視聴者の一人が書き込むと、コメント欄は祭りになる。
「は?」
「まじかっ!?」
裸王と健次郎はあり得ないと言いたげな顔で真神の当たりエフェクトを見ている。
「ええっと、ガントレット………レガシーアイテムですね」
「嘘だっ!!」
「これは夢だっ! そうにきまってる!!」
真神がレインボーボックスから取り出したのは黄金に輝く一対のガントレット。
ガントレットを見た裸王と健次郎はその場に崩れ落ちて嘆き始める。
「えー、レガシーアイテムというのはダンジョンで手に入る激レアアイテムで、装着者に凄い力やグリモアとは別に複数のスキルを付与してくれます。一番の特色は魔石を与えることで成長することです」
真神はレガシーアイテムについて説明する。
その間もコメント欄はお祝いの言葉や、企業や同業の探索者から数千万単位でレガシーアイテムの買い取りオファーが書き込まれていく。
「グリモアに搭載している鑑定アプリを起動しますね。黄金騎士の鎧セットの一部で、ヘルム、アーマー、レギンス、ブーツの四つを揃えないと真の効果を発揮しないとか。今は凄い防御力を持つガントレットだそうです」
真神はグリモアを取り出すと、ガントレットをスキャンして鑑定結果を報告する。
「とりあえず今は売る気はありません。収集がつかないので、今日はここまで! よろしければチャンネル登録と高評価お願いします!!」
いつもの締めで動画は終わった。
なにげなしにネットを見ると、トレンドワードに真神のレガシーアイテムがもう掲載されていた。
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