第9話 推しが他の配信探索者の動画に映り混むようです


「真神英夢だっけ? あんたの推してる配信探索者って? トレンドにあがってるわよ」


 会社帰りに仕事場の同僚を誘って居酒屋にいくと、同僚がそう言ってスマホの画面を見せてくる。

 何の話しかとスマホをみると、どうやら真神さんが生配信中の有名な美人配信探索者三人組を助けた動画がバズっているらしい。


「この助けられた配信探索者って貴方の推しだっけ?」

「そう! 僕の最推しの聖クレプスキュール女学院現役女子高生の紫、六花、琴羽の三人組さ!」


 私と同僚は配信探索者の動画を視聴するのが趣味で、お互いに推しの配信探索者の動画を勧めあったり、視聴した動画の感想を語り合ったりしている。


 同僚が今推しているのが中高一貫の聖クレプスキュール女学院探索科在学中の高校一年生で、北条紫、橘六花、天城琴羽と言う生まれた病院からずっと一緒と言う仲良し三人組。


 現役女子高生、女子高生徒、それぞれタイプの違う美人がダンジョンの浅い層で三人がキャイキャイやる青春的な生配信が人気だと同僚がよく熱弁してくれた。


「その配信に真神さんがなんで助けに?」


 配信探索者界隈には基本的にコラボでもない限りは他人の配信には突撃しないと言う暗黙のルールみたいなのがある。


 例外として救出対象に助けを求められたとか、命が失われる危険があると救助側が判断したらもあるけど、基本的に自己責任となる。


 真神さんのチャンネルを見るがそれっぽい動画のアップロードはない。


「ユリコのメンバーがダンジョン渡りのオーガに襲われてピンチのところを助けたのよ。まあ、実際に動画見なよ。推しの活躍みたいでしょ?」


 因みにユリコとは女子高生三人組の名前の頭文字をとったチーム名だとか。


 同僚は鞄からiPadを取り出して件の動画を再生する。


「どうもー、紫でーす」

「ヤッホー、六花だよ!」

「琴羽と申します、よろしゅう」


 動画が始まるとユリコチームの三人組がダンジョン前で挨拶する。


 紫と言う少女はギャル系メイクに金髪、デコレートされたネイルを見せるような裏ピースしながら挨拶する。


 六花はショートカットの陸上部系のユニフォームに身を包んだ元気系ボーイッシュな女の子で、元気をアピールするようにピョンピョン飛びながら挨拶する。


 琴羽は黒髪ロングに道着に袴姿で刀を持つ剣術小町と言う印象を受ける少女で、礼儀正しく深々とお辞儀をする。


 生配信とあってコメントが豪雨のように流れていき、三人はスパチャのコメントにレスを返してしばし雑談を続ける。


 三人が今回探索するダンジョンは草原型のフィールドダンジョンで、スライムなど初心者が相手するモンスターと戦う動画を配信する。


(何て言うか、アイドルのイメージビデオみたい)


 生配信では三人がモンスターと戦い、戦う姿を見たリスナーがおひねり感覚でスパチャを投げていく。


 真神さんの戦闘スタイルを見てきた私にはこの三人の戦闘は何て言うか、温くてお遊戯のように見える。


 それを見て喜んでるリスナー達、時折三人の際どいシーンが流れるとコメント欄が盛り上がる。


 私からすると退屈で何が楽しいのかわからないけど、同僚はうっとりとした顔で三人の配信を見ており、私にここがすごいとか、この仕草かわいいよねと熱弁してくれた。


「もうすぐ問題のシーンだよ」


 欠伸を噛み殺して動画を見ていると同僚が肩を叩いて教えてくれる。


「えっ………何あれ?」


 最初にダンジョン渡りに気づいたのは紫だった。

 三人を映すドローンカメラが紫の向いている方向にカメラを向けると、其処には巨大な鬼がいた。

 身の丈3メートルを越え、分厚い皮膚には黒いイボのような突起物があり、つぶれた鼻、下顎から無数に覗く牙、額から生えた捻れた角、毛は長く乱れ放題に乱れている。


 オーガだ!とリスナーの一人が巨大な鬼の正体を叫ぶと、コメント欄は逃げろやモンスター渡りだと阿鼻叫喚とも言えるコメントが高速で流れていく。


「六花、琴羽逃げ───」

「グオオオオオーーッ!!」


 紫が六花と琴羽の二人に向かって逃げてと叫ぶ前に、オーがは雄叫びをあげる。


 雄叫びを浴びた三人は、まるで金縛りにあったように硬直してその場に倒れる。


 オーガの雄叫びにもプレデターと同じ麻痺の合格があるようで、レジストに失敗した三人は体が動かなくなったようだ。


 コメント欄では誰か助けにいけとか、ダンジョン警察に通報しろとか、同じダンジョンで配信してる探索者はいないのかとなんとか三人を助けようとあの手この手と騒いでいる。


 オーガの雄叫びを浴びて動けなくなった三人、無慈悲にもドローンカメラが三人の表情を捉え、必死に助けを呼ぼうと口を動かすが、呻き声が漏れるだけで、ボロボロと涙を流す。


 その悲痛な表情に視聴者達も悲鳴を上げたり、見ていられないと接続を切ったりしている。


 オーガは動けなくなった三人を見てサディストな笑みを浮かべ、恐怖を煽るように足音を響かせてゆっくりと一番近い紫の元へ向かっていく。


 オーガは紫の元にたどり着くと、恐怖を煽るように顔を覗き込み、口を開けて牙を見せ向けながら、頭を噛み砕こうとする。


「これでも食らえっ! レフトロケットスリッパーッ!!!」

「グオッ!?」


 その瞬間、聞き覚えのある声が聞こえたかと思うと、三人組のドローンカメラの画面外から凄いスピードであの便所スリッパが飛んできて、スッパァァァァンと軽快な音を立ててオーガの横顔に命中してオーガを転倒させる。


「ついでにおまけだ! ライトロケットスリッパ!!」


 転倒したオーガは、自分を攻撃した相手を確認しようと顔をあげるが………遅れて飛んできたもう片方の便所スリッパがまたスパカーンと軽快な音を立てて顔面に命中し、オーガは鼻血を吹き出す。


 そこでドローンカメラはスリッパを投げた人物にカメラを向ける。


 其処には靴投げの要領ではいてるスリッパをオーガに投げ飛ばしたいつものジャージ姿の真神がいた。


 コメント欄では誰だと言う人もいれば、真神キターッ!と喜ぶ人等がいた。あとダサいといってる人、あれはあれで味があるし、私服よりましだからね。


「おい、大丈夫か?」

「あ……う………」

「雄叫びを浴びたか。待ってろ、すぐに駆除するからな」


 真神は三人組に声をかけて、オーガの雄叫びで動けないことを確認すると、三人を護るようにオーガの前に立ちふさがる。


「ガアアアアッ!!」


 起き上がったオーガは自分の鼻を押さえながら、攻撃してきた真神に向かって雄叫びをあげる。


「うるせーっ!」

「ガアッ!?」


 真神はオーガの雄叫びを黙らせるように懐に入り込むと、ジャンピングアッパーカットでオーガの顎を殴る。


 ドローンカメラのマイクはオーガの顎が砕ける音を拾い、下顎の無数の牙が砕けて舞い散っていくのを映像に捉える。


 コメント欄ではオーガを素手で殴ったことに驚く視聴者達の書き込みで埋まっていき、中には三人組のチャンネルなのに真神向けにスパチャする人もいた。


「そうだ、こないだネカフェで読んだ漫画から思い付いた必殺技試してみるか。 オラッ!」

「ギャアッ!!」


 真神は顎を砕かれて苦しむオーガにローキックで攻撃する。

 ズバァンと聞いたことのない打撃音が聞こえたかと思うと、オーガは悲鳴をあげながら蹴られた足を両手で庇いながら転倒する。


「いくぞっ! 48の必殺技フォーティーエイト・フィニッシュホールド!!」


 真神は転倒したオーガの片足を掴むと、ジャイアントスィングの要領で振り回し、上空へオーガを投げ飛ばす。


「No.13! 冥府への断頭台ハデス・オブ・ギロチン!!」


 真神は技名を叫ぶと跳躍し、落下してくるオーガの喉に両膝を乗せて一緒に墜落する。


 地面に激突すると、轟音と共に土煙が舞い上がり、カメラの視界を塞ぐ。


「アイムチャンピオン!」


 土煙が晴れていくと勝利宣言するように片腕をあげる真神と、首が変な方向に曲がり、喉が潰れて絶命したオーガの死骸が映し出された。


 コメント欄ではノリのいい人がカンカンカーンとゴング音を書き込んだり、素手でオーガを倒すたとかあり得ないと現実を受け入れられないコメントが書き込まれていた。


 最後はオーガの雄叫びから回復した三人と真神がダンジョンから脱出して、通報を受けたダンジョン警察に保護される所で動画は終わっていた。


(Web小説やドラマだと助けてくれた真神さんに惚れたりするけど………どう見ても素手でオーガを倒す真神さんにあの三人怯えてたなあ)


 三人組助けられたお礼は言ってたけど、怯えと警戒から距離とってたし、ダンジョン警察の人に一目散に駆け寄ってすぐに救急車に乗り込んでいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る