第8話 推しの配信探索者がサキュバスの討伐動画をあげるようです シーズン2開始


「あ! 真神さんの新しい動画!」


 スタンピードから数週間後、私が推す配信探索者真神英夢の新しい動画がアップロードされたお知らせがスマホに届いた。


(あの後は大変だったなあ)


 真夜中にスタンピードが発生して、避難の途中で怪我をした妊婦さんと子供を見つけ、モンスターに襲われそうになった所を真神さん達に助けられた。


 スタンピード事態は自衛隊や警察、有志の探索者達によって鎮圧された。

 私達は病院に搬送されてギルドや警察から事情聴取されていた。


 妊婦さんと生まれた赤ちゃんに問題はなく今は無事退院して幸せに暮らしている。

 あの時の男の子は真神さんに助けられて探索者に憧れたのか、二言目には僕も探索者になるって言ってたなあ。


「えーっと、今回はサキュバス退治?」


 サムネイルタイトルを確認すると、今回真神さんはサキュバスと言うモンスターを討伐するみたい。


「皆さんおはこんばんにちわ! 初めましての方は初めまして! 配信探索者の真神英夢です!」


 いつものダサジャージ姿で挨拶する真神。

 ファッションコーディネーターのアケミ&トモミ姉妹とのコラボの影響か、コメント覧はもっとお洒落しようとか、あの時の衣装で配信してなど以前よりも視聴者やコメントが増えている。


「さて今回はギルドからの討伐依頼で千葉県にあるダンジョンにきています。今回の討伐目標はサキュバスです」


 真神がおおまかに今回の配信内容を説明すると、コメント欄が盛り上がる。

 コメントの八割近くはスケベな男性が興奮して書き込んだ下世話なコメントばかりだった。


(んん? なんか否定的な書き込みがちらほらあるなあ………アンチかな?)


 すぐに他の人のコメントで流れて埋もれていくが、サキュバス討伐に対して今すぐ配信やめろとか、この動画をみると後悔するぞ、夢は夢であるべきなど否定的だったり、意味深なコメントが時折書き込まれていく。


「さて、サキュバスと言うモンスターがどんなモンスターかと言うと、世界各地にある伝承のように他人の夢に侵入して、エッチな夢を見せる代わりに生命エネルギーを吸いとる非実体の精神寄生型モンスターです」


 真神はサキュバスと言うモンスターを知らない人のために解説を始める。

 コメント欄では卑猥な単語に過剰反応する中学男子のようなノリのコメントが滝のように流れる。


 アンチよりのコメントも書き込まれるがあっという間に流れていったり、空気読めとか自治寄りなコメントに注意されたりしている。


「で、そんなモンスターがこのダンジョンに出没しており、ちょっと被害が深刻になってきたのでギルドから討伐するように依頼を受けました。前回のスタンピードでギルドの指示に従わず勝手な行動したペナルティとかで………チッ」


 真神は解説の最後に私は不承不承ですと態度で表現しながら舌打ちを聞かせる。


「サキュバス単体はそこまで深刻ではないんですが、取り憑かれると探索中だろうが、戦闘中だろうが眠らされて生気を吸われます。特に戦闘中いきなり眠ってしまうとか致命的ですよね」


 真神はなぜ今回深刻な問題になってるか軽く説明する。

 コメント欄では『仲間が戦闘中に眠らされてヤバかった。起こしたら逆ギレされるし、賢者タイムな顔がイラっときた』なんて被害にあった人の書き込みもあった!


「さて、非実体の精神寄生型モンスターであるサキュバスの倒し方ですが、罠を使いたいと思います。まず用意するのは囮となる男性を一名用意します」


 真神がサキュバスの倒し方を解説し始め、スケベそうな中年男性が真神の横に立った。


「今回のサキュバス討伐に志願してくれた探索者の田野中さんです、拍手!」

「ど、どうも! 田野中です。サキュバスを押し倒します!」


 真神は田野中を紹介して拍手をする。

 田野中はなんと言うかキモい笑みを浮かべて、堂々と押し倒すと発言する。


 コメント欄では俺と代われとか、次サキュバス討伐があったら応募しますとか、下心が丸見えなコメントがどんどん増えていく。


(なんだろう、この時折書き込まれる否定的なコメントの人………)


 動画開始時から同じアカウントの人が否定的なコメントを書き込み怒られたり、通報したと注意されている。


「次に用意するのはブルーローズ教授の13高弟の一人、錬金術師の異名を持つクリフ・R・ブラックウェル氏が開発した非実体モンスターを実体化させる装置【ナウエンコングリン粒子発生装置】です」


 真神が取り出したのは片手サイズのボタンのついた装置。


「田野中さんがサキュバスに取り憑かれて眠った時にスイッチをいれるとサキュバスが実体化するので、後は倒すだけです」

「真神さんには取り憑かれないんですか?」


 真神が解説していると、田野中が質問してくる。


「俺は元々そういう耐性高いので。因みにスキルシャードで耐性補おうとすると最低でもスロット4つは使いますので気をつけて」

「4つですか………俺のグリモアはスロット6つしかないからちょっときついですね」


 真神が説明すると、田野中は自分のグリモアを取り出して困った顔になる。


 コメント欄ではグリモアのスキルスロット数についての書き込みがあり、大体6~8スロットが平均らしい。


「解説はこれぐらいにして、サキュバス被害が多く報告されてるエリアに向かいたいと思います」

 真神はそう言って田野中と共にダンジョン内を進んでいく。

 道中モンスターが現れるが、ほとんど真神が素手で処理していき、田野中が真神の戦闘方法を見てドン引きしていた。


 最近見慣れてきてたけど、やっぱり真神の戦闘方法は同業者からみてもおかしかったんだね。


「あ、あれ………?」


 ダンジョンを探索中、急に田野中がふらつき始める。

 顔をよくみれば凄く眠たそうで、必死に起きていようと目を擦ったり、頬を叩いたりするが………田野中はその場に倒れるとイビキをかいて眠ってしまった。


「どうやらサキュバスが田野中さんに取り憑いたようですね」


 真神は揺すったり、頬を叩いたりして田野中を起こそうとするが、田野中はいい夢見てるのかだらしない笑顔で涎を垂らしている。


「それでは早速実体化させましょう」


 真神はナウエンコングリン粒子発生装置を起動させる。


 装置が起動すると電磁フィールドみたいなのが展開し、塵みたいなものが田野中の周囲に浮遊したかと思うと、塵が次々とくっついていって生物の形になる。


(うえええっ!? きっ、気持ち悪い!)



 ナウエンコングリン粒子発生装置によってサキュバスが実体化していく。

 その姿は巨大な脳ミソの中心にギョロギョロと動く単眼、脳ミソの下から血管のような無数の触手が田野中に絡み付いている。


 コメント欄でも気持ち悪い、俺の知ってるサキュバスじゃない、萎えた、嘘だと言ってくれ、なんじゃこりゃあ!!と阿鼻叫喚なコメントが滝のように流れる。


 動画が始まってから止めろとか否定的なコメントを書き込んでいたアカウントはサキュバスの正体を知っていたのか、だから言ったのにと書き込んでいた。


「サキュバスは精神寄生型モンスターで、夢の中では無敵に近いですが、こうやって実体化するとめちゃくちゃ弱いです。グリモアを所持してない人でも簡単に倒せます」


 真神は近くに落ちていた石を拾ってサキュバスをコツンといった感じで軽く殴る。

 たったそれだけでサキュバスは絶命し、活動を停止する。


「ふがっ!? あれ? 俺のかわいこちゃんたちは?」


 サキュバスを倒すと田野中が目を覚まし、何の夢を見ていたのか寝ぼけながらキョロキョロと周囲を見渡す。


「うっ、うわあああっ! なんですかこれはっ!?」


 そしてサキュバスの死骸が体に巻き付いてるのを見て悲鳴をあげた。


「落ち着いてください、それがサキュバスです。もう倒したので害はないですよ」

「こっ、これがサキュバス!? そんな夢の中ではあんなにエロい美人だったのにっ!?」


 田野中は自分に巻き付いてる触手がサキュバスの正体だと知ってショックを受けている。


「あー、サキュバスは取り憑いた相手の理想の異性を読み取ってその姿になって夢を見せて生気を奪うんですよ」

「俺………夢の中でこんなのとあんなことしていたのかよ………」


 真神が田野中を拘束するように絡み付いている触手を引きちぎりながらそんな話をする。

 田野中は夢の中で行った行為と現実のサキュバスを見比べて目からハイライトが消えていく。


「討伐に成功したので、今回の配信はここまで! 面白かった、役にたったと思ったらチャンネル登録と高評価よろしくお願いします! メンバーシップも開設する予定なのでお楽しみに!」


 絶望して放心している田野中をバックに真神は締めの言葉をカメラに向かって話すと手を振って動画が終了した。


 蛇足だが、田野中や真神の動画を視聴したサキュバスの被害者がEDになったとか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る