第7話 私が配信探索者の真神を推す理由を語ります 【シーズン1完】


 ダンジョンの探索やモンスター討伐を配信する探索者の動画をみるのが趣味の私。

 数多くいる配信探索者の中でも色々とおかしい配信探索者、真神英夢が私の最推しだ。


 私が真神を最推しするきっかけは東京近郊のダンジョンからモンスターが溢れだすスタンピードが起きた日でした。


 その日は寝苦しい夏の熱帯夜でした。

 深夜一時、突如スマホや自治体が設置したスピーカーからアラートが鳴り響きました。


 何事かと飛び起きた私はスマホを確認すると、東京近郊にあるダンジョンでスタンピードが発生したと言う政府からの緊急警報でした。


 私は急いで身支度を整えて最寄りの避難所へと向かいました。


 私の自宅とスタンピードが発生したダンジョンはそんなに遠くなく、下手をすればモンスターの大群にのまれてしまいます。


 道路は避難する車で渋滞が発生しており、中には車を捨てて走って逃げる人もいました。

 誰も彼もが我先にとパニックになったように逃げ惑っています。


「誰かっ! 誰か助けてください!!」


 そんな中、助けを求める子供の声が聞こえました。

 一秒でも早く避難所に向かわないといけないのに、私は助けを求める子供の声が気になって、声の主を探してしまいました。


「お姉さん、助けてっ! おかあさんが、おかあさんが!!」


 路地脇に頭から血を流してうずくまる妊婦と、その妊婦に抱きついて泣き叫ぶ男の子がいました。


「大丈夫ですか!」


 私は頭から血を流している妊婦に声をかけると、妊婦はうんうん唸りながらも私の声に反応して頷く。


「知らないおじさんがおかあさんを突き飛ばして走っていったの!」


 男の子は避難所がある方向を指差して何が起きたか教えてくれる。

 誰かわからないけど、我先にと妊婦を突き飛ばして避難所に走っていったようだ。


「立てますか?」

「お願い………この子だけても………避難所に………」


 私が妊婦に近寄よると、妊婦は息も絶え絶えながら子供だけてもと必死に伝えてくる。


「やだっ! 僕お父さんと約束したもん! お兄ちゃんになるからおかあさんと生まれてくる妹を守れって!!」


 男の子は泣きじゃくりながら母親にしがみつく。


「グルル………」

「ひっ!?」


 私はどうしたらいいのか迷っていると、動物の唸り声が聞こえてきた。

 私が唸り声がした方向を見ると、暗闇の中に赤く光る眼をした大きな人狼のようなモンスターがいました。


 人狼のようなモンスターは私達を獲物と認識したのか、涎を滴しながら口を開いて鋭い牙を見せつけてくる。


「ガアアアッ!!」

「キャアアアアッ! 誰か助けてーっ!!」


 人狼のようなモンスターが襲いかかってきた時、私は男の子を守るように抱き締めながら眼を閉じて助けを求めて叫びました。


「あいよっ!」

「ギャインッ!?」


 聞いたことのある男の人の声に続いてモンスターの悲鳴が聞こえました。


 何が起きたのかと恐る恐る眼をあけると、目の前にはあのボサボサのロングヘアーにヨレヨレのジャージに便所スリッパ姿の探索者こと、真神英夢がスボンのポケットに手をいれながら喧嘩キックのポーズをとっていました。


 襲いかかってきた人狼のようなモンスターの姿を探すと、道路を挟んで反対側のビルの壁に上半身が突き刺さってだらりとぶら下がっていました。


「怪我人がいるな。おーい、山田田吾作~! 怪我人だ、こっち来てくれ」

「マイバンブーホースホースフレンドんま~がみんっ! 我輩のことはDr.ライフ三世と呼べとっ! いつもいつもいつもいーっつもいっているだろう!」


 真神は怪我をした妊婦さんを見ると、人を呼びます。

 真神の呼び声に答えるように叫び声が聞こえたかと思うと、頭上から白衣を着たピンク色のアフロヘアー、デスメタル系メイクをした男性がヒーロー着地のポースで飛び降りてきました。


 そして真神に向かって変なポーズを取りながら自分の呼び名に対してクレームを入れます。


「んなことよりも怪我人だ」

「ふむふむ………この程度の怪我、我輩にとって朝飯前の夕飯前の昼飯前の朝飯前………まあとにかく、それぐらい簡単なことであーる。あ、ヒール!」


 真神はライフと呼べといったピンクアフロの男性の抗議を無視して、妊婦を指差す。


 ピンクアフロの男は目視で妊婦を診察すると、無造作にアフロの中に手を突っ込み、アフロの中からグリモアを取り出すと妊婦に向かって回復スキルを浴びせる。


 回復スキルを浴びた妊婦の傷はまるで逆再生のように塞がっていき、血痕がなければそこに傷があったとは思えなくなった。


「よし、完璧であーる!」

「うぐうううっ! うっ、生まれるっ!!」


 妊婦の傷を治して胸を張るDr.ライフ。

 ところが突如妊婦がお腹をおさえて苦しみだすと、破水したのか下腹部が濡れていく。


「いかんのであーる!」


 Dr.ライフは妊婦が破水したのを確認するとすぐに処置に入る。


「おい、田吾作! モンスターが迫ってきてるぞ、妊婦を動かせるかっ?」

「駄目であーる! 今動かすと母体だけでなく生まれてくる胎児の命も危険が危ないであーる! あと我輩のことはDr.ライフ三世と呼ぶであーる!!」

「こっ………息子だけても………避難………うううっ!!」


 妊婦は苦悶の表情を浮かべて息も絶え絶えと言った様子でも自分のことではなく、子供の避難を優先させようとしている。


「やだっ! 僕はお兄ちゃんなんだ! お父さんがいない時は僕がおかあさんと妹をまもるんだ!!」


 親の心子知らずと言えば良いのだろうか、男の子は泣きじゃくりながらも意地でも動かないと母親にしがみつく。


「よしわかった! 坊主はここでお母さんと生まれてくる妹を守れ!」

「まっ、真神さん!?」


 話を聞いていた真神が男の子の頭を撫でながらそんなことを言う。

 私はそんな無責任なことを子供に言う真神を睨もうとする。


「その代わりお前は俺が必ず生き抜いて守護まもってやる! これは俺とお前との男と男の約束だ、出来るな?」

「うんっ!!」


 真神は男の子と目線を会わせながら指切りをする。


「そこは死んでも護ってやるではないのかであーる」

「死んだら守護れねえだろ? それに護られた人達が『命と引き換えに私達を護ってくれてありがとう』なんて喜ぶと思うか? 逆に自分達のせいでって、心の傷になっちまうじゃねえか」


 Dr.ライフが軽口を飛ばすと、真神は真剣な顔で返事をする。


「田吾作、そっちは任せたぞ。絶対に死なせるな!」


 真神はDr.ライフに妊婦を任せると、こちらに迫ってきてるモンスターの群れに単身突っ込んでいく。


「ただからDr.ライフ三世と呼べといったであーる! ブルーローズ教授の13高弟の一人、ゴッドハンドと呼ばれたじっちゃんを手にかけてでも死なせないであーる!」


 Dr.ライフはモンスターの群れに突っ込んでいく真神の背中に向かって叫ぶ。


(手にかけたら駄目かと………)


 私は思わず心の中でツッコミを入れた。


「そこなおなごよ、避難所に逃げないなら手伝うであーる」

「えっ………あ、えっと………な、何をしたら? 医療知識とか全然知らないんですけど………」

「そんなもんはいらん、妊婦の手を握って励ましてやるのであーる」

「はっ、はい!!」


 私はDr.ライフに言われるまま、妊婦さんの手を握る。


「僕が守る! 僕が守るんだ!」


 男の子は呪文のように守ると連呼して母親に抱きついて、子供なりに護ろうとしている。


「真神さんは大丈夫でしょうか………」

「心配するだけ無駄であーる。マイバンブーホースフレンドまがみんは元々強い、そしてあいつは後ろに護るものがある時は無敵だ。今のまがみんの背中は、世界で一番安全な場所であーる」


 私は立った一人でモンスターの群れに向かった真神を心配するように呟くと、私の呟きが聞こえたのか、Dr.ライフが話しかけてくる。


「うううぐううっ!!」

「頭が出てきたであーる! 頑張るのであーる!!」


 そこからは無我夢中でよく覚えていない。

 気がついたらいつの間にか夜が明けて、うっすらと空が明るくなってきた。


「オギャア! オギャアっ!!」

「生まれたであーる! 元気な女の子であーる」


 赤子の泣き声が聞こえたかと思ったら、Dr.ライフが器用にへその緒を切って赤子を抱き上げてた。


「私の………赤ちゃん……」


 妊婦さんは精根つきた顔だったが、Dr.ライフから赤子を受け取ると、愛しそうに抱き寄せる。


「この子が僕の妹?」


 いつの間にか眠っていた男の子は、赤子の泣き声で目を覚ますと、目を擦りながら赤子を覗き込む。


「よう………無事生まれたようだな」

「真神さん! 無事だったんですか!!」

「さすがに疲れた」


 満身創痍で血まみれの真神が壁にもたれ掛かりながら戻ってきた。


「お兄ちゃん!」

「よお、お互い約束守れたな! 頑張ったな、ヒーロー」


 男の子が真神に話しかけると、真神は昇る太陽を背に笑顔でサムズアップする。


 その姿を見た瞬間、真神は私の最推しになった。



 


 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る