第14話 推しの配信探索者が生配信で質疑応答してくれるようです
「皆さんおはこんばんちわ、初めましての方は初めまして。配信探索者の真神英夢です! 今回は要望の多かった生配信で皆様の質問に可能な限り答えていく企画です」
『うぽつー』
『うPありー』
『宜しくー』
(間に合ったー! あの糞婦長退勤時間ギリギリに用事とか言い渡すんじゃねー!)
事前告知で私の最推しの真神さんが生配信で視聴者の質問に答える企画をやると聞いていた私は、勤務先の病院からダッシュで帰宅するとパソコンを起動し、チャンネルを開く。
(ほんと同僚には頭が上がらない)
糞婦長に用事言いつけられて思わず明日朝刊に載ったぞテメー案件がよぎったけど、同僚が変わってくれた。
「えーっと、早速質問来てますね。探索者になりたいのですが、探索者になるにはどうしたらいいですか? はあ、お答えします。探索者ギルドに申請して二週間の研修終えればライセンス発行されます。基本はこれです」
真神はコメント欄に書き込まれた無数の質問から一つ選ぶと回答し始める。
『え? そんなかんたんなの?』
『厳しい試験とかあるのかと』
「昔はあったらしいですが、グリモアが普及されてからは申請のみです。質問者が何歳かわかりませんが、今は中高で探索者になるための学科もありますし、専門学校もあります。引退した探索者がマンツーマンで教えるサービスもあるので、自分のスタイルにあったルートを選んでください。では次の質問は………」
真神が最初の質問に答えて次の質問を探そうとコメント欄を見つめる。
『真神さんの使ってるグリモアは何ですか?』
「俺が基本使ってるのは国産の荒坂社製のストームです。事前にダンジョンやモンスターの情報がわかっていたらそれにあわせて交換します」
真神が質問に答えながら愛用のグリモアを画面に映す。
『お勧めのスキルシャードとかありますか?』
「うーん、グリモア本体と探索者のスタイル、挑戦するダンジョンや出没モンスターの傾向で変わるので、これがあればなんてスキルシャードはありませんね」
次の質問はスキルシャードについて。
真神は困ったように頭をかきながらスキルシャードについて自説を語る。
「タンカーロールの人なら防御メインのスキルシャードで固めると思います。ここで攻撃系スキルシャードを進めても微妙でしょ? つまり、オールラウンドに使えるスキルシャードというのは俺の記憶にはないですね」
『真神さんのスキルシャード構成はどんなのですか?』
「あー………これはお答えできません。というか、探索者の常識として相手のスキルシャード構成を聞くのは例外を除いてマナー違反です」
真神がスキルシャードについて話していると、別の質問者が真神のスキルシャード構成について質問する。
質問コメントを見た真神は真顔で探索者にスキルシャード構成を聞くのはNGであると注意喚起する。
『一部の例外って何ですか?』
「わかりやすいのは、事前にモンスターが特殊攻撃してくるのを知って、その対策のスキルシャードをセットしているか確認する時です。何当たり前の事をと思いますが、たまに経費ケチっていれてない探索者がいるんですよ」
私も含めて複数のアカウントが例外について聞くと、真神はため息しながら答えてくれる。
同時に探索者と思われるアカウントがその現場を目撃した愚痴など書き込み始める。
『前回は塩漬けと言う外れダンジョンの紹介でしたが、当たりのダンジョンはあるのですか?』
「あります。場所は言えませんが、宝石や貴金属がドロップするスライムや、ダンジョン食材といわれるモンスター肉など、換金率の高いモンスターやダンジョンは存在します」
視聴者が美味しいダンジョンについて聞くと、真神は肯定する。
『真神さんはいつもジャージにスリッパですけど、実は噂に聞くほどダンジョンは儲からないのでしょうか?』
「えーっと………何て言ったらいいのかな………稼げるけど儲かりません」
(………とんちかな?)
真神はダンジョンは儲からないのかと言う質問に対してキョロキョロ周囲を見回したり、両手で頭をかきむしって悩んで言葉をひねり出す。
ただ、稼げるけど儲からないと言う意味が私を含めて探索者じゃない視聴者達はハテナマークを浮かべており、逆に探索者と思われる視聴者達は『あー、わかる』と納得している。
「確かにダンジョンクリアすれば諸々で数百、数千万稼げますけど、そこから人件費や装備のメンテにアイテムの補充、次のダンジョンの準備に税金、その他諸々でトントンだったりするんですよね」
真神は稼げるけど儲からない理由を伝える。
『マイバンブーホースフレンドまがみんは収入のほとんどをダンジョン災害で親をなくした子供の基金に寄付してるのであーる』
「はぁー? ちっがうしー! ちょっと浪費癖が酷いだけですぅ~。こないだもザギンでチャンネー連れてオールでドンペリ開けて遊んでましたー! 風評被害被害やめてもらえません?」
(この書き込みDr.ライフさんかな?)
あのスタンピードが起きた日に出会ったビンクアフロのDr.ライフと思われる特徴的な書き込みに真神が過剰反応する。
コメント欄は真神の反応を見て、あらあらウフフな空気になる。
(たぶん寄付の話は本当なんだろうな)
スタンピードがあったあの日、名前も知らない男の子の為にモンスター達と戦った真神さんの背中は格好よかった。
視聴者さん達が知らない真神さんの一面を私だけが知ってると思うと優越感に浸れる。
「はい、この話終わり! 次の質問いきます!!」
『真神さんの動画のコンセプトがよくわかりません。どの層向け何でしょうか?』
真神は囃し立てるコメントに顔を真っ赤にして強引に話を切り上げで次の質問を求める。
「動画は誰向けかですか? 最初は風の向くまま、気の向くままでした。最近は駆け出しから中堅の探索者に向けたダンジョン攻略情報とかあげたいなと思っています」
『コボルトの倒しかたとかはありがたくてよかったですが、その後のプレデターとかは真神さんが強すぎて参考になりません』
『それな!』
真神は動画の方向性を語るが、視聴者からは真神が強すぎて参考にならないとツッコミをいれら、更にそのツッコミに同意する書き込みが続く。
「むむむ………そこは試行錯誤するので長い目で見てください」
『いっそ下層や深層の探索配信の方が需要あると思うのであーる』
『みたい!』
『わかる』
『俺ではたどり着けないそこに何があるのか気になる』
『むむむやないて』
Dr.ライフさんと思われる人の書き込みに視聴者達が同意していく。
「えー、その件に関しましては持ち帰って前向きに検討を鋭意努力したいと思う所存でございます」
『なんだよ、その玉虫色過ぎる返事はw』
「はい、この質問終わり! 次次!!」
真神はまた強引に話を終わらせて次の質問を求める。
『真神さんは新宿ダンジョン29階のボス、ベビードラゴンの弱点をどこで知ったんですか?』
「あー、それですか………信じてもらえないと思いますけど、俺中学卒業直後にクローズダンジョン発生に巻き込まれたんですよ」
『は?』
『マジで!?』
『よく生き延びましたね!』
ダンジョン発生は読んで字のごとく、ダンジョンが予兆もなく突然発生する現象。
大抵は人がいないで起きるが、ごく稀に人がいる場所で起きるダンジョン災害。
ダンジョンゲートが発生したエリアに人がいるとそのままダンジョン内に飲み込まれる。
災害と言われる所以は、飲み込まれるとダンジョンの何処に出るかランダムで、運が良ければ出入り口のゲートから外に脱出できる。
運が悪ければダンジョン最奥やボス部屋に飛ばされ、自力でモンスターが徘徊するダンジョンを脱出するか、救助を待つことになる。
真神さんの場合、運が悪いことにクローズタイプのダンジョンで、外からの救援は望めない。
「その時一緒にいた人が探索者で、ダンジョンで五年近くサバイバルしてました。その時に色々教えて貰って、一緒にボスを倒して脱出したんですよ」
『5年!?』
『よく生きてられたな』
『あ、検索したらでで来た! 五年間閉じられていたクローズダンジョンから生還者が現れたって』
真神のとんでもない過去が明かされ、視聴者の一人が当時の記事URLを書き込む。
確かにダンジョンから帰還した生存者の中に真神英夢の名前があった。
『その探索者の名前は?』
「それが本名を知らなくて………名前を聞いてもテンマとしか名乗って貰えず、その五年間で今の格闘術とかモンスター知識とか教えて貰ったんです」
『んー? 記事の方には探索者がいたとはかいてないし、ギルドの名簿には何人かテンマと言う名前の人はいるけど………』
「残念ながら名簿にいるのは同名の別人です。おっと、結構な時間がたちましたね。今日の配信はここまでにしたいと思います」
『もう終わり?』
『そこそこ話し込んだな』
『おつー』
『乙』
ふと時計を見れば生配信を始めて三時間近くたっていた。
「それでは、よろしければチャンネル登録と高評価宜しくお願いします!」
最後は真神が手を振って配信は終わった。
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