第15話 推しの配信探索者が渋谷ダンジョンの深層モンスターの解説をするようです 前半


「画面の前の皆さんおはこんばんにちわ! 初めての方は初めまして、配信探索者の真神です」


 今日もアップロードされた真神さんの新作動画を視聴する。


「さて今回は前回の質疑応答で要望のあったダンジョン深層の紹介をしたいと思います。俺は今、渋谷ダンジョンの最高到達エリアである20階にいます。ここは神殿風なエリアです」


 真神が自分が今何処にいるか話すと、ドローンカメラが360度回転してダンジョンエリアを撮影する。


 真神が言うように渋谷ダンジョン20階はファンタジー映画などで見る神殿風で、巨大な石像が両サイドに奉られており、壁には一定間隔で松明が設置されており、ダンジョン内を照らす。


「渋谷ダンジョン20階はまだ探索中でモンスターの種類もボスの正体もよくわかっていません。何処までやれるかわかりませんが、がんばります!」


 真神はガッツポースをとるが、いつものジャージに便所スリッパ姿で緊張感がない。


『毎度思うけど、ジャージにソロで最深部とかエクストリーム自殺にしか見えないよな』

『それな!』

『一番最初の動画、俺フェイクだと思った』


 真神が新宿ダンジョンを探索中、コメント欄では視聴者同士の雑談で盛り上がる。


「早速モンスターが現れたようです」


 真神が足を止めると、ジャージの襟首に手をいれて、背中に収納していたプレデターの頭部がついた鈍器を取り出す。


 ドローンカメラは真神の進行先にカメラを向け、通路の先から足音を響かせて、モンスターがその姿を現す姿を捉える。


 竹馬のような長い四本の鳥足、脚の上には太った赤茶色の羽毛の生えたインコのような鳥の胴体。体高は4メートルはあり、その嘴と足の爪は金属のように鋭かった。


 動画にテロップが表示され、モンスターの名前はケイライと紹介される。


「ギョロロー!!」


 ケイライと紹介された四本足の鳥型モンスターは不快な鳴き声をあげたかと思うと、足の一本で真神を攻撃してくる。


「おっと!」


 真神はバックステップで攻撃を回避すると、ケイライの爪の付け根を鈍器で殴る。


「ギィィィーッ!!」


 反撃を受けたケイライは悲鳴をあげると、羽を羽ばたかせて、体から黒い煙を噴出する。


「うへっ!」


 真神は黒い煙から離れるようにケイライから大きく距離を取る。


 テロップには四本の足と嘴、そして体から呼吸器系を阻害する毒雲を噴出するとケイライの攻撃方法が解説される。


「キケケケエエエッ!!」

「まじかっ!?」


 ケイライは奇声をあげると羽をバタつかせながら毒雲を発生さて突撃してくる。


 真神は大きく息を吸って頬を膨らませて息を止めると壁走りでケイライの脇を通り抜けて、足の一本を鈍器で殴り付けると、ゴキンと骨が折れる音がダンジョン内に響く。


「グゲエエエエーッ!!」

「ゲホッ! やべ、ちょっと吸ったかも」


 ケイライは残った三本の足でバランスを取りながら痛みに声をあげる。

 真神は毒を吸ってしまったのか、息苦しそうに咳き込みながら、ジャージのポケットから液薬の瓶を取り出すと中身を飲み干して、空ビンを投げ捨てる。


テロップには今服用したのは毒消しと抵抗値をあげるポーションと解説が入り、販売メーカー名と値段が表示される。


(うえええっ! たった一本で8万円!?)


 私はポーションの値段に目が飛び出そうになるが、探索者と思われるアカウントはコメントに『それで毒を解除して抵抗値あげれるなら安いな』とか書き込んでいた。


「ふう、解毒のポーション、濃い青汁みたいな味だから嫌なんだよなあ。さて、反撃といこうか!」

「ケエエエッ!」


 真神は鈍器を構え直すと、ケイライに突撃する。

 ケイライは真神を迎撃するように嘴を真神に向かって振り下ろそうとする。


「うるぁっ!」

「ゲキョッ!?」


 真神は嘴を鈍器でパリィするように弾くと、パリィの勢いを殺せなかったケイライがバランスを崩す。


「隙ありっ!」


 真神はケイライの懐に入ると、跳躍してバランスを崩して無防備になった腹部に鈍器を突き上げるように攻撃する。


「ゲオオオッ!」


 その一撃はかなりのダメージを与えたのか、ケイライは嘴から血や吐瀉物を吐き出して膝が崩れる。


「止めだ」


 真神はケイライの背後に回ると、壁を三角跳びの要領で跳躍して高さを稼ぐと、落下の勢いを載せて鈍器をケイライの頭部に振り下ろす。


 インパクトの瞬間ケイライの姿にモザイクが入るが、モザイク越しでもザクロのように頭部が弾けたのが予測できた。


「ふう、何とか倒せましたね。こいつはどの部位が売れるのかは不明なので全部持っていこうと思います」


 真神はポケットからグリモアを取り出すとケイライに向ける。

 すると、ケイライの死骸はグリモアに吸い込まれていった。


『アイテムボックス系のスキルシャードか。死骸丸ごととなるとかなり容量のあるシャードだな。よく手に入ったな』


 動画をみていた視聴者の一人が真神のグリモアにモンスターが吸い込まれるのを見て解説コメントを書き込む。


『レア物?』

『アイテムボックス系のスキルシャード自体、市場に滅多に出回らないし、出回ったとしても最低数千万単位でオークション形式で売買される』


 コメント欄ではアイテムボックス系のスキルシャードについての話で盛り上がる。

 その間に真神は探索を再開して、ダンジョンを進んでいく。


『難なく倒してるけど、真神だから出きることだからな。俺達だとフル武装のレイドチームであたる。運が悪けりゃあの毒雲で戦線が崩れる可能性もある。というか、普通は最深部とかレイド案件なんだよ! 散歩するみたいに一人で歩いてんじゃねー!!』

『落ち着け、気持ちはわかる』


 探索者と思われるアカウントが注意喚起からいきなりキレ始め、他のアカウントが宥める。


「お、鉄のトレジャーボックスを発見しました。まずはアプリでトラップをサーチしますね」


 コメント欄が荒れてる間に真神はトレジャーボックスを発見しており、グリモアにインストールされた罠探知系のアプリを起動する。


「罠を解除せずに開けると毒矢が飛ぶ仕組みのようです」


 真神は探知結果が表示されるグリモアの画面をドローンのカメラに向ける。


「では、早速オープン!」

『おいっ! 解除せずに開けたぞ!?』


 真神は何事もなかったかのようにトレジャーボックスの蓋を開ける。

 この動画が録画編集された物だとわかっていても思わず突っ込む視聴者達のコメントが滝のように流れていく。


「ほいっと!」

(エエェェーっ!!?)


 真神は罠が発動し、発射された毒矢を指二本でビシッと挟んで受け止め、バキッと折り捨てる。

 動画のテロップにはよいこは真似してはいけません。専門家に解除して貰ってから開けましょうと注意書が表示される。


(うん、普通は真似しないから)


 私が心の中でツッコミをいれていると、同じような書き込みがコメント欄にされていく。


「中身は………打刀?」


 真神がトレジャーボックスから取り出したのは日本刀の打刀。

 鞘に納刀された状態で、真神が鞘から抜いて状態を確認する。


『刃こぼれとか錆びもないな』

『ダンジョンに呑まれた武器かな?』


 動画をみていた視聴者達が刀について書き込んでいく。


『飲み込まれたってどういう意味ですか?』

『ああ、ダンジョン内に武器とかアイテムを放置するといつの間にか消えて失くなる現象がある。そしてトレジャーボックスの中身やモンスターがよく似た武器を持ってたりする』


 私が飲み込まれたと言う内容に質問すると、他の視聴者が意味を教えてくれる。


『呑まれた武器はダンジョンの力浴びてたりして、一般的な武器より強かったり、レガシーアイテムのようにスキルが生まれたりする』

『じゃあ、大量の武器とかダンジョンに放置したらレガシーアイテム拾い放題?』

『似たこと考えた奴いたけど、いつ呑まれるか不明だし、どの階層のトレジャーボックスやモンスターに行き渡るか不明な上に倒したり、その階層まで取りに行かないと駄目ってことで頓挫』


 更に呑まれた武器について解説していると、別の視聴者がわざと捨てたらと提案するが、過去に似たことがあったらしく、結末を教えてくれる。


「鑑定アプリではゴツ合金性の打刀と出ましたね。まあ、鉄のトレジャーボックスから出たので一般的なゴツ合金性より強いんじゃないでしょうか?」


 真神はグリモアに搭載された鑑定アプリで打刀を鑑定して結果を報告する。


「次モンスターとであったら試し切りしてみたいと思います」

『刀を手に入れたら切れ味知りたくてモンスターで試しきりしたいとか、辻斬りかな?』


 真神は鞘から抜いた打刀を片手で振って重さや使いやすさを確認しながら試し切りするなんて言うと、視聴者がツッコミをいれる。


 私はそのツッコミがツボってお茶を吹いてしまった。

 

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